18 隠蔽と発覚ー5
「本当ならもっと早くに返しておくべきだったんだけど…」
「お前……日向さんを庇ってるのか?」
「え? いや、そんな事はないけど」
「だってそうじゃないと話が矛盾しちゃうじゃないか。愛莉は生徒手帳1冊しか持ってないんだぞ?」
「拾ったのが僕で、返したのが日向さんって事。僕がそうするように仕組んだんだよ」
「んん?」
詳しい話を聞くと彼はクラスメート経由で手帳を届けようとしたらしい。本人不在だった日向さんの机の中に忍ばせて、愛莉に渡してくれるように仕向けたんだとか。
「そういう事かよ。てか何でわざわざ人づてなんて面倒くさい真似したんだ」
「そ、それは…」
「直接本人に渡せば良いだろ? それが恥ずかしいなら愛莉の机の中に入れてあげればいい」
「僕も最初はそうしようと思ってたんだけど…」
「けど?」
「それが出来なくなっちゃって」
強気な口調で対話相手を責め立てる。要領を得ない喋り方に少しだけ苛立ち始めていた。
「手帳を拾った後ね、何度か火浦さんに接触したんだ」
「ほう」
「でもなかなかタイミングが図れなくて、それで仕方ないから図書室で彼女を待ち伏せしてたんだよ」
「んで?」
「そしたら手帳を持ってる所を砂原くんに見つかっちゃって」
「え?」
話が意外な方向に転移する。大嫌いなクラスメートの名前が飛び出した事で。
「もしかして手帳の中身見られたのか?」
「うん、その時に火浦さんの本当の年齢に気付いちゃって。面白そうだからクラスの皆にも教えてやろうって言い出してさ」
「……アイツ」
「それで僕に朝一で黒板にあんなメッセージを書くように命令してきたんだ」
少しだけ真相を理解。やはり黒板にあんなメッセージを書いたのは砂原で、木島はただそれを代わりにやらされただけ。
あの男は最初から知っていたらしい。罪をクラスメートになすりつけて傍観者を装っていただけだった。
「お前が黒板にあんな事を書いた理由は分かった。でもなら何故に手帳を日向さんに託した?」
「だ、だって直接火浦さんに渡したら黒板に暴露文を書いたのが僕だって気付かれちゃうし」
「なるほど。手帳を返してもらった翌日にあんな事が起きたら、愛莉は真っ先にお前の仕業だと疑うわな」
「うん…」
もし本人に直接返さなくとも机や下駄箱に忍ばせている現場を誰かに見られてたらアウト。だから彼は友人である日向さんを経由させる方法を実行したのだろう。
そして彼女もその時に手帳の中身を閲覧。どうして良いか分からず愛莉の下駄箱に突っ込んだが、その現場を砂原に目撃されてしまったのだ。
「なんだよ。そういう事か」
「どうしよう。僕の行動が原因で火浦さんが…」
「お前さ、自分が何したか分かってる?」
「え?」
「愛莉だけじゃなく、何も悪い事してない日向さんまで巻き込んじゃってんだぞ? 自覚してる?」
「そ、それは…」
「もしこれがキッカケであの2人が一生仲違いする事になったら、お前にも責任があるんだからな?」
彼女達は互いを信じられなくなり疑心暗鬼に陥る事に。結果、どちらもクラス内で孤立してしまった。
「……ごめん」
「俺に謝られても困る。頭下げるなら日向さんの所に行ってからにしな」
「け、けど…」
「もしお前が本当に悪い事をしてしまったと感じているなら、傷付けてしまった人達を救う為に行動を起こせばいい。だろ?」
「……行動」
偉そうに説教じみた言葉を並べる。効果を表すかは不明だが。
ただ希望はあった。内緒にしておけば良かった話をこうして打ち明けてくれたから。
「もしその結果、お前がクラス中から責められる事になったとしても俺が庇ってやる。てか砂原に脅されてやったんだと皆の前でバラしてやればいい」
「そ、そんなの無理だよ」
「無理じゃない。やれ」
「えぇ…」
「人を傷付けてしまった事に苛まれて生きていくのと、大嫌いな人間と戦って生きるの。どっちがいいか自分で決めな」
「僕が…」
彼も恐れていたに違いない。愛莉や日向さん達と同じ立場に追いやられてしまう状況を。砂原の命令に逆らえなかったのも脆弱な気持ちの表れだった。
「……うん、言ってみるよ。本当は僕がやったんだって」
「よし。なら決まりだな」
「でも大丈夫かな。今更こんな大切な事を打ち明けて、皆に何か言われるかも」
「あのな、お前がした行動の中でどれが一番間違えてたと思う?」
「え……な、何だろ」
躊躇っている彼に質問を飛ばす。無礼にも顔を指差しながら。
「砂原に脅された時に誰にも相談しなかった事だよ」
「相談…」
「もしお前が黒板にあんな事を書く前に誰かに打ち明けていたら、少なくとも日向さんはあんな目に遭わずに済んだんだ」
「け、けど志田先生に言ったとしても力になってくれるかは分からないし…」
「俺がいるだろ、俺が」
「え?」
「今から砂原の所に行って喧嘩ふっかけてやる。付いて来い」
振り返って階段を移動。教室を目指して歩き始めた。
「え、え!?」
「何してんだ。ほら、行くぞ」
「待ってよ。喧嘩をふっかけるってどういう事?」
「そのまんまの意味だろが。お前が今した話をクラス中に聞かせてやってボロクソに罵倒してやるんだよ」
「そんな…」
愛莉は何も悪い事をしていないのに悪者扱い。隠していたコンプレックスをバラされ、そして晒し者にされた。
秘密を隠す為に留年生の存在を利用していたのは事実かもしれない。砂原が言っていた通り自分は盾として使われていた可能性もある。
それでもこのまま黙って見過ごすなんて真似は出来なかった。今のままでは罪の無い人間が罰を受けただけで終わってしまうから。




