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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
60/129

16 筋書きと筋違いー4

「つ、着いたぁ…」


 感嘆の声をあげる。学校を出て1時間という時間を費やしたからか妙な達成感が湧いてきた。


「敷地が広いですね」


「だな。けどまだいるのかな、彼女」


「う~ん……正直微妙だとおもいます」


 新緑高校に辿り着いたもののほとんどの生徒は下校してしまった状態。残っているのはグラウンドやコートで練習に励んでいる運動部連中だけ。


「やっぱりもう帰ってしまったかもしれませんね」


「下校時間はうちの学校と同じぐらいのハズだしな。佐原さんとやらが部活に所属してないとするなら、俺達がここに来る前に帰っちゃってるだろうよ」


「やっぱりバスに乗って来るべきでしたね。歩き回っていた時間を無駄にしてしまいました」


「まぁ、うん。あと1つ重要な事を思い出した」


「なんです?」


「顔が分からない」


「あっ…」


 不明だったのは目的地のみならず、その当人まで。つまり下校時間になってから真っ直ぐこの場所へと向かっていたとしても佐原さんを見つけ出す事は不可能だった。


「そう言われたらそうですね」


「うっかりしてたわ。名前だけ聞いて安心してた」


「確かに人を探すなら名前と同じぐらい顔が大切ですよね。名前だけでも探せない事はないですが」


「さ~て、どうすっかなぁ…」


 職員室に行って放送で呼び出してもらうのも無理だろう。突然の訪問だし、向こうさんはこちらの顔も名前も知らない。話がややこしい方向に転がって警察を呼ばれても面倒。何より本人がまだ校舎内にいるかが不明だった。


「また今度来るか」


「そうですね。今日はもう遅いですし」


「佐原さんの顔は、金坂かモブ夫くんにでも教えてもらおう。中学の時の卒アルとか見せてもらえば分かると思う」


「う~ん……けどあの2人がそう簡単にお願い事を聞いてくれますかねぇ」


「平気平気。拒もうとしてきたらまた愛莉を引き合いに出せば良いから」


「そ、それだけは本当に勘弁してください…」


 悔しいが撤退を決意。せっかく労力を費やしてやって来た目的地を目の前にしながら。


 辺りを散策するとバス停を発見。緑色の制服を身に付けた他校生に混ざって駅に引き返した。


「んじゃ、またな~」


「はい。また明日」


「宿題終わったら写真撮って送ってね」


「自力でやりましょうよ…」


 バスを下車した後は愛莉と別れる。ここからだと互いの自宅までの道のりは真逆なので。


 ただ散歩しただけで終了。成果のあげられない道草だった。


「あ、あれ?」


 1人でロータリーを歩いている途中で無意識に立ち止まる。少し先の方角に注目しながら。


「……ツチノコじゃん」


 コンビニ前の道路に知り合いを発見。意識の中に居座り続けているクラスメートを見つけてしまった。


「もしかしてあれが佐原さんか…」


 そのすぐ隣には友人らしき人物がいる。新緑高校の制服を着た女子生徒が。


 恐らく放課後に待ち合わせをして今まで遊んでいたのだろう。適当に雑談を繰り広げると土乃は手を振りながら駅構内へと消えていった。


「……っと、追いかけなきゃ」


 急いでその場から動き出す。クラスメートではなく、その友人の方を追跡する為に。


 目の前にいる女子高生が佐原さんとは限らない。同じ制服を着た別人とも考えられるし。ただ土乃の友人というならばそれだけで接触する価値はあった。


「あの、すいません」


「はい?」


「もしかして佐原環さんですか?」


「え? そうだけど」


「俺、土乃さんと同じクラスの水瀬っていいまして」


「んんん?」


 接近してすぐに声をかける。バスの乗り場付近で。


 どうやら本人だったらしい。振り向いた人物は訝しげな表情を浮かべながらも返事をしてくれた。


「ちょっと聞きたい事あるんですよ。今、時間大丈夫っすか?」


「え? 何?」


「いや、怪しい者ではないです。別にアナタに何か危害を加えようとか、そんなつもりは微塵もないので」


「それは見たら分かる」


「良かった」


 言い訳の言葉に対して飄々とした態度が返ってくる。少しも臆していない強気な言動が。


 知り合いだと理解してもらう為に証拠を提示。ケータイを取り出して友人の名前が書かれた連絡先を見せた。


「さっきそこで話してたのって土乃ですよね? アイツとは友達なんで不審がらないでください」


「小麦と…」


「実はアイツの事でちょっと質問したい事があるんす。少しだけでいいから時間貰えませんか?」


「……まぁ、少しだけなら」


「本当っすか? やった」


 そして話し合いは狙い通りの場所に辿り着く。事情聴取を受けてもらえる事になった。


「こんな所ですんません」


「ん~ん、別にいいよ」


 2人して近くの自販機が置かれた場所に移動する。さすがに道のど真ん中で立ち止まる訳にはいかないので。


「それで話って?」


「え~と、実は友達に恋愛相談されていて」


「恋愛相談?」


「うん。俺の知り合いが土乃の事が好きなんだけど、そいつに彼氏いるかどうか調べてきてって頼まれちゃってさ」


「へぇ、そうなんだ」


 適当に思いついた嘘を設定。架空の友人の為にずっと身辺調査をしていたと語った。


「それでたまたま友達といる土乃を見かけちゃって。けどさすがに彼氏の有無を本人に尋ねる訳にはいかないからこうしてアナタに声をかけたんすよ」


「なるほど。ならつまり君はずっとうちらの後をつけてたって事?」


「いや、さっきまで俺も友達と遊んでたの。そいつを駅まで見送りに来たから今ここにいるって感じかな」


「ふ~ん、まぁそうだよね。小麦の連絡先とか知ってるくらいなんだから普通に声かけても問題ないもんね」


「あはは…」


 話を濁すように愛想笑いを浮かべる。不自然な反応を。


「ちなみにあの子、今はフリーだよ。付き合ってる人はいないって言ってたから」


「あっ、それは分かってるんだよ。俺が聞きたいのは別の事」


「ん? 何?」


「前にアイツに言われた事があるんだ。中学時代にちょっと嫌な出来事があって、それがトラウマになってるって」


「トラウマ…」


 成功を確信したので直球に本題を質問。その瞬間、佐原さんの顔が苦い物へと変わった。


「なんていうか恋愛絡みの件で嫌な事があったというか。具体的な内容は聞いてないんだけど」


「……中学時代の黒歴史か」


「君は何か知ってる? 土乃にどんな事があったのかを」


「まぁね。これでも一応あの子とは3年間親友だったし」


「へぇ、そうなんだ」


 すぐ側を多くの人間が行き交っている。スーツ姿のサラリーマンだったり、買い物帰りの主婦が。


「俺、どうしても知りたいんだよ。アイツの友達として過去にどんな辛い経験をしてきたのかを」


「それはやっぱり恋愛相談をしてきた友達のため?」


「プラス土乃のため。俺にその話をしてきた時に泣いてたんだ」


「小麦が?」


「うん。今でもその時の顔が忘れられないでいる」


 彼女を傷付けてしまったのは誰でもなく自分自身。だからこそちゃんと全てを知った上で謝りたかった。


「……そっか。アイツ泣いてたんだ」


「佐原さんさえ良かったら教えてほしい。同じ人物と友達になったというよしみで」


「うん、良いよ。君になら話してもいいかもしれない」


「え? マジで!?」


「だって負けず嫌いのアイツが泣き顔を見せちゃうくらいなんだもん。よっぽど君の事を信用してるんだよ」


「そ、それはどうでしょうかねぇ…」


 むしろ敬遠されている状態。とはいえその情報は伏せておく事に。


「あの子ね、2年の時に好きな先輩がいたんだ。1個上の3年生」


「へぇ」


「それでうちらにその事を相談してきたんだけど皆で盛り上がっちゃって。んで冗談で告ってこいって言った訳さ」


「佐原さん達が?」


「うん。そしたらアイツ本当にそのまま先輩の所に突撃しやがって」


「なんつぅー行動力」


「うちらもまさか本当に実行するだなんて思わなくてさ。呆気にとられながら小麦の後を追いかけたわけよ」


 その時の光景が容易く脳内にイメージ出来る。人一倍行動力が高い女子生徒の猪突猛進具合が。


「それでアイツ、周りに他の生徒もいる場所で先輩に好きだって告げたんだけど」


「見事に撃沈しましたと?」


「うぅん、その逆。なんとOKしてもらったんだよね」


「え?」


「アイツ、めっちゃ喜んでテンション上がっちゃってさ。しかも放課後にその先輩の方からうちらの教室に来て自分の連絡先を書いた紙を渡してきて」


 どうやらその先輩も土乃の事が気に入り、幸運にも付き合う運びになったんだとか。ただ互いの事をあまり知らないのでメールでのやり取りから始めようと言われたらしい。


「んで、しばらくはその先輩と趣味とか好きな番組について語り合ってたんだけど…」


「やっぱり性格が合わないからって振られたの?」


「うぅん、むしろ相性は良かったらしいよ。連絡先を交換した週の日曜日に一緒に遊びに行く事になってね、その事をうちらにも自慢してきたの」


「それでそれで?」


「当日はウキウキ気分で待ち合わせ場所に向かったらしいんだけど、そこにいたのが全くの別人だったというオチ」


「はぁ?」


 話が有り得ない場所に不時着。思わず大きなリアクションを浮かべてしまった。


「え……その先輩が用事で来られなくなった代理?」


「違う違う。騙されてたんだよ、最初から」


「もしかして…」


「渡してきた連絡先が嘘だったって事。小麦がやり取りしてた相手はその男だったって訳」


「うっわ、最悪」


 その先輩は初めから土乃と付き合うつもりはなかったんだとか。ただ自分の友達が恋人を欲しがっていたので譲ってあげたとの事。


「しかもその告った先輩、彼女いてさ。教室に問い詰めに小麦が行ったんだけど、その彼女に突き飛ばされちゃって」


「乱闘?」


「……にはならなかった。ただその先輩や先輩の彼女達に笑われてた」


「酷いな。それは…」


 会話しながらイメージする。年上にからかわれている友人の姿を。


「うちらも教室の外からそのやり取りを眺めてたんだけどアレは可哀想だったかな。あの子、泣いちゃってたし」


「そりゃ好きな人に騙されて馬鹿にもされたら悔しくもなるって」


「しかもさ、デート現場に違う男が来たって言ったじゃん? アイツ、その相手にキスされてんだよね」


「え? マジで?」


 カラオケに誘われ無理やり唇に接触。好きでもない男にファーストキスを奪われた土乃は、やはりショックで泣いてしまったんだとか。


「その時の事がトラウマになっちゃって、しばらく恋愛に対して億劫になってさ」


「なるほど…」


「でも君みたいな男友達を作ってて安心した。もう昔の事は振り切れたみたいだね」


「……どうしよう。俺、なんて事しちゃったんだ」


「え?」


 綻ぶ顔を前に大きな動揺が発生。自分が犯した過ちは友人の傷をえぐるような行為だった。


「ほいじゃ、そろそろバスの時間だから。もう帰るね」


「あ、うん。急に呼び止めちゃってごめん」


「良いって良いって。それよか連絡先交換しよ? また何かあったら聞いてくれればいいし」


「いや、それはちょっと…」


「何で?」


 こうして佐原さんと接触していた事を土乃には知られたくない。思い切り嘘をついていたので。


「男の俺が言うのも変だけど知らない奴に軽々しく連絡先教えちゃうのはマズいと思うよ」


「え? でも君、小麦の友達なんでしょ? なら安心だよ」


「いや、もしかしたら怪しい業者とかかもしんないから」


「あははっ! 普通、自分でそんな事言う? そうやって相手の心配出来るのが信頼出来る何よりの証拠だもん」


「け、けど…」


「分かった分かった、ならこうしよ。次に会う事があったら交換する。それなら縁があったって事になるし」


「……了解」


 なんとか連絡先交換の話を断る事に成功。少しだけ名残惜しい気もするがナンパがしたくて声をかけた訳ではないのでこの対応が正解だった。


「また今度どこかで会えたら良いね」


「あ、もう1つ良いかな」


「ん? 何?」


 去ろうとしていた佐原さんを呼び止める。金髪の男子生徒の姿を思い浮かべなら。


「え~と…」


「早く早く。もうすぐバスが来ちゃうんだけど」


「……やっぱり良いや」


「え~、人を呼び止めておいて何それ」


「悪い、また今度で。今すぐ聞きたい事って訳でもないしさ」


「ふ~ん…」


 気にはなるが聞くべきじゃないだろう。本筋とかけ離れていた。


「ま、良いや。ならそれもまた次に会った時って事で」


「本当にありがとうね」


「バァ~イ」


「ははは…」


 今度こそ立ち去る佐原さんを手を振って見送る。問い掛けを苦笑いで濁して。


「ふぅ…」


 イメージよりずっと明るい子。土乃の友人をやっているだけあって初対面の人間にもかなり積極的だった。


 計算外だが思わぬ形で目的を達成する事に成功する。ずっと気になっていたクラスメートの過去を知る事が出来た。


「明日だな…」


 謝る事を決意する。適当な謝罪ではなく本気の償いを。


 許してもらえなくても構わない。ただ自分が犯してしまった過ちだけは何としても彼女の心の中から消し去りたかった。

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