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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
6/129

3 メガネとポニーテールー1

「くぁ…」


 空に向かって欠伸する。校舎脇の道をフラフラと歩きながら。


 今は体育館で新入生を迎え入れる為の入学式が開催中。暇なので1人で校内散策をしていた。


「面倒くさいなぁ…」


 自分は学年でいえば1年生だが扱いでいえば在校生となる。だから式に出席する必要は無い。


 本来なら登校する事自体が明日からで構わなかった。だが2年生に進級した葵に連れられ無理やり学校に。


 式が終わった後、在校生は体育館の片付けをしなくてはならない。それに一緒に誘ってきたのだ。


「絶対に出んからな…」


 何故わざわざ同級生になる奴らの後始末をしなくてはならないのか。新入生自身が片付けをするならともかく、関係の無い人間が参加する意味も義務もない。


「お?」


 愚痴を漏らしていると体育館の方から騒がしい声が聞こえてくる。開いた扉からはたくさんの生徒達が出てきていた。


「……懐かしいなぁ」


 1年前の今日を思い出す。この学校に入学した日の事を。その時は思ってもみなかった。新入生でも上級生でもない状態でこの場所に立つ事になるなんて。


 彼らはこのあと教室へと戻り、そこで簡単な説明を受ける。自分は聞く必要がない。1年前に全く同じ話を耳にしているからだ。


「あ~あ、もう帰っちゃおうかなぁ」


 これから葵は体育館の片付けへと駆り出される。合流出来るのはそれが終わった後なので当分は1人きりで待ちぼうけ。


「初々しいのう」


 しばらくすると再び校舎から出てきた新入生が校庭や中庭で撮影会を始めた。スーツ姿に身を包んだ保護者と共に。同じ制服を着た彼らが不思議と輝いて見えた。


「……ん」


 惨めさなんか簡単に消しされるものじゃない。留年した事実を誰よりも哀れんでいるのは本人なのだから。


 昇降口から離れた場所で新入生達を見つめる。恨みや妬みのようなマイナス感情が湧き上がってきてしまった。


「あ、あの…」


「お?」


 感傷に浸っている途中、1人の人物が近付いてくる。髪を後ろで縛り、メガネをかけている女子生徒が。


「……あ」


「この前はどうも」


「いや、こちらこそ…」


 風貌が前回と違うので誰なのか分からなかったがすぐに判明。先日、窓ガラスを割ってしまった家の女の子だった。


「さっき体育館から出てきた時に見かけたから、もしかしたらと思って」


「あそこから見えてたの? めっちゃ目良いね」


「あ、はい。視力には自信ありますから」


「ふ~ん、けどまさか君が入学するのがこの学校だったとはなぁ」


「ぐ、偶然って凄いですよね。本当にビックリしました」


「ん…」


 実は少しだけそうなのではないかと考えていたので驚きはしていない。彼女の自宅はこの学校に近いし、部屋に海城高校の制服がかかっていたのを覚えていたので。だから何となく覚悟はしていた。目の前に立っている女の子は春から同級生になるのだろうと。


「そんな事よりこっちに来ちゃって良いの? 皆、まだ向こうにいるけど」


「だ、大丈夫です。お母さん、さっさと帰っちゃいましたし」


「なら友達は?」


「……いません。私、新入生の中に知り合いがいなくて」


「へぇ、そうなんだ」


 もしかしたら中学卒業と同時にこっちに引っ越してきたのかもしれない。それとも友達とは別々の高校に進学したとか。


 見た目が地味なので知り合いが少ないと予測。話し方も動作も典型的な人見知りタイプだった。


「俺もあの中に友達いないんだよ。君と一緒だ」


「そ、そうなんですか。偶然ですね」


「いや、だって留年してるし」


「あ、ああぁあっ! そういえばそう言ってましたね、この前」


「まぁ別に覚えてなくても良いんだけども」


 狼狽える女の子を見ていると似ていると感じる。ドジで天然な従姉に。


「アナタはどうしてここにいるんですか?」


「ん? 式に出なくても良いって先生に言われたから」


「な、なるほど。留年したら入学式には出なくても良いんですね。初めて知りました」


「……もしかしてバカにしてる?」


「い、いやいやそんな! 滅相もありません!」


 威圧的な意見を彼女が両手を振って否定。悪気はないのだろうが傷をえぐるような発言を飛ばしてきた。


「で、では私はそろそろ…」


「ん」


 気まずい空気を察したのか彼女が立ち去る。頭を下げてきたので小さく手を振って返した。


「なんだかなぁ…」


 予期せぬ人物との再会に奇妙な気分になる。曲がり角で女の子とぶつかるベタベタな漫画の展開を想像。そしてこの偶然は翌日にも続いた。

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