15 昔と今ー3
「良い天気だねぇ」
「空から可愛い女の子でも降って来ないかな」
「ん? もし本当に降ってきたらどうするの?」
「写真だけ撮って逃げる」
「助けろよ」
「いや、絶対ヤベェ奴だろ。宇宙人の類いだわ」
途中でコンビニに寄り道する。水分補給と雑誌の閲覧を兼ねて。
「おじさんのいる部屋どこ?」
「そこ」
「トイレじゃん!」
「個室に籠ってるんだわ」
しばらく歩くと目的地に到着。外壁が綺麗な病院の中に入った。
「うい~」
「おぉ、すみれちゃんもお見舞いに来てくれたのか」
「おじさん、久しぶり。元気そうで良かったね」
「おぅ、元気元気。もうすぐにでも草野球に参加出来るぐらい元気よ」
「ならサッサと退院しろや、クソ親父!」
「ゴホッ、ゴホッ! あぁ、風邪が辛いなぁ…」
病室では新聞を読んでいた男を見つける。明らかに場違いな生活を送っている父親を。
「……ったく」
「あははは、面白~い」
相変わらず退院する気はないらしい。すっかりこの入院生活が気に入ってしまっていた。
「そっか。もう中学生になったんだな」
「いろいろ大変だよ。先生とか超厳しいし」
「おじさんもおばさんに厳しくされてて辛いんだよ。家に帰りたくないなぁ」
「それ母ちゃんに伝えて良い?」
「や、やめろ!」
それから3人で会話に没頭する。主に互いの近況報告を中心に。
様子を見に来るまでもなく無事と判明。ムカついたので他の人からの見舞品であるお菓子を食べ尽くしてやった。
「おじさん、元気そうで良かったね」
「本当はもう退院しても良いハズなんだよ。なのに仕事サボりたいのか病室に住み着きやがってよ」
「私なら嫌だなぁ。自由に外を出歩けない生活とか」
「いや、めっちゃ出歩いてるぞ。本屋に立ち読みしに行ったり、パチンコに行ったり」
「ダメじゃん」
見舞いを終えた後は病院を出て大通りを進む。アテもなくブラブラと。
「次はどこ行くの?」
「ん~、腹は減ってないから飯以外で。真っ直ぐ帰っても暇だからどっかに寄って行こうかな」
「あ、ゲーセンあるよ。行こ行こ」
「しゃあねぇな」
普段から頻繁に利用している施設を発見。騒がしい空間にノリノリで突撃した。
「おらぁっ!」
「ちょっと少しは手加減してよ」
「やだ。金がもったいない」
空いていた筐体を見つけて100円玉を投入する。対戦型の格闘ゲームに。
「くそっ、ハメ技ばっかり使いやがって」
「お前が下手くそすぎるだけだぞ」
「もうやめやめ。次のゲームに行こ」
「ていうか別行動にしない?」
「え~、1人になったらナンパされるかもしれないじゃん」
「こんなチビのガキに声かける奴なんかいねぇよ」
「むっ!」
「いって!?」
2人で店内を徘徊。フリースローやシューティングゲームに興じたり。
辺りを見回すが若者だけでなく年配の人や家族連れも存在。漫画に出てくる不良の溜まり場ではなく憩いの場になっていた。
「ふ~、疲れたぁ」
自由な世界を堪能した後は外へ出る。すっかり軽くなった財布の重量を実感して。
「プリクラは撮らないの?」
「撮る意味がない」
「私が一緒に写ってあげても良かったけど」
「だってさ、写真って魂が抜き取られるんだぜ? 怖いじゃん…」
「いつの時代の人間だよ」
疲労感はあるがそれ以上の物が存在。晴れ晴れとした充実感が。普段、人間関係で溜め込んでいるストレスの解消になった。
「ねぇ、学校行かない?」
「学校?」
「うん。祐人やお姉ちゃんが通ってる高校」
「え~、特に面白いもんがある訳でもないしなぁ…」
現在地からなら徒歩で行けるが興味は惹かれない。用がなければ近寄りたくない場所なので。とはいえ次の目的地は未設定。突発的な要望に応える事にした。
「久しぶりだなぁ、ここ」
「学祭で来て以来か?」
「そだよ。半年ぶり」
いつもとは違うルートで足を運ぶ。うんざりするぐらい目にしている校舎に。
「授業楽しい?」
「なわけないだろ」
「可愛い子や美人な先生っている?」
「いたりいなかったり」
「えぇ……なら一体、何が楽しくて毎日登校してるの?」
「もちろん学食のおばちゃん達に会うことかな」
「熟女好きだったんか」
グラウンドを見るとユニフォーム姿のソフトボール部を発見。他校の生徒と練習試合をしていた。
「私はどこに進学しよっかなぁ…」
「好きにすれば良いけど、ここだけはやめとけよ」
「どうして?」
「俺がまだ在籍してる可能性がある」
「……他人事だと笑えるけど自分に関係してきたら笑えねぇ」
「ハッハッハッ!」
「思考回路、大丈夫?」
自分は高1で隣にいる従妹は中1。あと一度でも留年すれば被る事が確定していた。
「この前の女の人もここにいるの?」
「女?」
「ちょいスケバンっぼかった人」
「あぁ」
会話中にここにはいない人物の存在が出てくる。ケンカ中の友人が。
「そりゃクラスメートだからな」
「ふ~ん」
「ちなみに彼女ってのは嘘」
「はぁ?」
流れで騒動の真相を暴露。全てを包み隠さず打ち明けた。
「……ってな感じで賭けに付き合ってもらっただけ」
「やっぱりね。だと思った」
「何だよ。気付いてたのか」
「だって祐人に恋人が出来るハズないじゃん。バカで野蛮だし」
「テメェ、もう一度言ってみろ!」
「祐人って爽やかでモテそうなオーラがあるよね」
「ふふふ、まぁな」
「聴覚、大丈夫?」
校庭脇では制服を着た生徒が歩いている。休日なのに真面目に登校している文科系の部員が。
「そろそろ行こうぜ」
「へ~い」
頃合いを見計らって離脱を開始。知り合いに見つかる前にその場を離れた。
「あ~あ…」
いつの間にか空の色が変化している。青々とした物からオレンジと赤を複合した物に。
幻想的な景色を眺めているうちにゲーセンでの興奮が霧散。遊び回っている行為に対する罪悪感が生まれてきた。
「よっと」
「ん?」
歩く足の動きを止めて座る。川沿いにある堤防の上へと。
「どうしたの?」
「疲れたから休憩」
「まったく体力ないなぁ。このジジィは」
「深刻に杖が欲しい」
相方も遅れて同じ行動を開始。やや距離を空けて腰を下ろした。
「昔はよく公園で一緒に遊んだよな」
「だね…」
目の前にはサッカーをしている小学生達が存在。その光景を眺めていると無意識に思い出す。時間を忘れて走り回っていた子供の頃を。
「葵が頻繁に転んでただろ」
「だってお姉ちゃん、生まれつきトロくさいし」
「けどテニスは上手いのが不思議だ」
「う~ん……あんまり走り回らないからじゃない?」
「いや、激しく動き回るスポーツだぞ。俺が前にやってる所を見てたら凄かったわ」
「何が?」
「パンチラ」
無意識に数年前の記憶を共有。顔は合わせず正面を向いたまま語り合った。
「俺は今はもう全力疾走するのは無理そう」
「はぁ? へたれすぎ」
「そういや子供ってどうしてあんだけ走り回っても疲れないんだ?」
「え~と、体が小さいから血液の循環がスムーズって聞いた事はある」
「なるほど。小柄だからこそのメリットか…」
頬に当たる風が涼しい。僅かに汗をかいていたので。
「もうあの頃には戻れないんだなぁ…」
「戻りたいの?」
「当然」
「ふ~ん…」
どれだけ悔やんでも挽回出来ない大きな失敗を経験。満足する人生なんか送れるハズがなかった。
「俺もいつか大人になるのかぁ」
「ニートになりそう」
「お前はキャバ嬢な」
「え? それは見た目が美しいって事?」
「とんだポジティブだぜ」
笑えない現実味のあるジョークを飛ばし合う。数日前に繰り広げたケンカが嘘のように。
「ねぇ」
「ん?」
「本当に奈津紀ちゃんには手を出してないの?」
「はぁ? 向こう中学生だぞ」
「でもあの子、大人っぽいじゃん」
「確かに。ガキっぽいどこかの誰かとは大違いだわ」
質問に対して皮肉で返答。直後に肩に握り拳が飛んできた。
「いって!?」
「死ね、バカ!」
「遺書を書いて川に飛び込むぞ! お前に追い詰められたって記してな!」
「そしたら遺書も誰かに見つかる前に水没させたる」
「なんという粗っぽい証拠隠滅」
殴られた箇所を擦る。ダメージを緩和する為に。
「マジであの子に手を出したら殺すからね」
「お前、あの子の事に対しては真面目だな」
「うん。だって大切な友達だし」
「おうおう、俺は大切じゃないんか」
「ウザいバカ従兄」
「酷い扱いだぜ」
和やかな雰囲気は一瞬で生滅。すぐに普段通りの間柄に戻ってしまった。
「こうやってのんびりしてるのも悪くないな」
「いつものんびりしてるクセに」
「うっせ」
悪態はつくが気分は悪くない。間に漂う空気も。
「今日はサンキューな」
「ん?」
「わざわざ仲直りしに来てくれて」
彼女がうちに来てくれたのは壊れた関係の修復の為。性格が悪いなりの譲歩だった。
「そういえば祐人が寝てる時に面白い寝顔が撮れたんだけど」
「いつの間に…」
「SNSに上げていい?」
「やめろや!」
口論しながらも黄昏れる。まるで青春ドラマの1ページのように。
「死ね死ね死ね!」
「嫌ぁっ、襲われるっ!!」
「変なセリフ叫ぶのやめろっ!」
綺麗な景色を前に2人で大暴れ。周りを行き交う通行人達の視線を気にしながら。
仲がいいのか悪いのか不明な関係性を実感。しばらくはその場に佇んでいた。




