14 意地と恥ー4
「おはよ~」
「え……な、何?」
翌日の通学途中、道端でバッタリ遭遇する。1人で行動していた土乃に。
「良かった無事に会えて。水瀬くんの家どこにあるか分からないから不安だったんだよね」
「お前、電車通学だろ? どうしてこっちに来てんの?」
「そりゃ待ち伏せしたから」
「す、すいません……僕、あまりお金持ってないんです」
「……カツアゲじゃねっての」
通っている海城高校は駅のすぐ近くに存在。なので電車を利用している生徒と街中で鉢合わせするハプニングは有り得なかった。
「一体どういう風の吹き回し?」
「えへへ~、たまには良いじゃん。いつも登校は別々なんだし」
「お前も友達いないの? もしや仲良くしてる奴が多いと見せかけてぼっちとか」
「違うってば。ただ水瀬くんと一緒に学校行きたかっただけだよ」
「ジャ、ジャンプとかしてもお金とか出てこないからな」
「……だからカツアゲじゃねっての」
2人で並んで住宅街を進む。朝の新鮮な空気に清々しさを感じながら。
その後、学校に着いてからも彼女とは行動を共に。担任が姿を見せるまで喋り続けた。
「お~い、水瀬くん」
「ん?」
「飯食いに行こう」
「おう。お前の奢りな」
「やだよ」
土乃の積極的な行動は授業が始まってからも継続する。昼休みになった途端に誘いの言葉と共に近付いてきた。
「愛莉はどうしよう…」
「ほっときなよ。向こうは向こうで上手くやってんじゃん」
「……そうだな」
もう1人の友人に視線を送るがお喋りに没頭している。日向という名の女子生徒と親しげに。
「お前、今日変じゃない?」
「ほ?」
「異様にテンション高いっていうか、ご機嫌っていうか」
「え~、そりゃだって楽しいもん。テンションも上がるってもんよ」
「分かった、昨日送ったエロ画像が気に入ったんだ。そうだろ!?」
「いい加減にせんと本気で殴ったるぞ…」
土乃と2人きりで食堂に移動。空気は少しずつ春から夏の物に変化していた。
「ね、ねぇ…」
「ほいほい?」
「いつからあたしの事を好きでいてくれたの?」
「はぁ?」
歩きながらも会話を弾ませる。その途中で相方が奇妙な意見を口にした。
「何が?」
「だから昨日の」
「昨日?」
「あたしの事が好きって言ったじゃん」
「いや、知らんぞ。彼女のフリをしてくれとは頼んだけど告白はしてないし」
話が噛み合わない。奇妙な勘違いが発生していた。
「ま、待って。設定に関してはそうかもしれないけど中学生の前で言ってくれたじゃん」
「好きって?」
「うん…」
「お前の気のせいだろ?」
「違う。絶対に違うっ!」
「気のせいってのは木の精霊の事じゃなく、意識の中に生まれる錯覚の事で…」
「んな事イチイチ説明せんでも分かっとるわ!」
振り返って言葉を応酬させる。食堂に向かう動きを止めながら。
「それにあたし、後から確認したじゃん」
「確認?」
「さっきの言葉は嘘じゃないのかって」
「えぇ……全く身に覚えがない」
記憶を辿るがそんなやり取りの存在は皆無。ごまかしている訳ではなく心の底から語った本音だった。
「大体、お前に女としての魅力を感じてないから有り得ない」
「あ?」
「教室で男子になんて呼ばれてるか知ってるか? お節介ババァだぜ」
「ばっ…」
彼女は昔からどのクラスからいる仕切りたがりそのもの。掃除をサボる人間を大声で怒鳴り散らしたり。なのでほとんどの男子からは煙たがられていた。
「なら何……あたし、騙されてたって事?」
「はぁ? 騙すってなんだよ、騙すって」
「利用してただけって事だよね? その気にさせて恋人役に仕立て上げてさ」
「それは……そうかもしれない」
「今のは否定しないんだ?」
「悪い…」
彼女の指摘通り。前日の公園でした口論はただの意地からきた振る舞い。小学生レベルのワガママだった。
「ムカつくんですけど。恋人のフリを頼んでくるだけならともかく、好意も無いのに好きとか発言してその気にさせるなんて」
「だからそれは勘違いで…」
「そうやってとぼけようとする所までムカつく。なら昨日あたしがした協力はまるっきり無駄だったって事じゃない」
「いやいや、確認したらお前だって了承してくれたじゃないか。ニコニコ笑いながら」
「うぐっ…」
「ついでに言うと昨日のあの中学生もストーカーなんかじゃない、全部嘘。ただ単に恋人いるぞって自慢したかっただけ」
「……は?」
話し合いがややこしくなったので全て暴露する。騒動の発端になった原因を。
「どういう事?」
「あのガキと賭けをしてて負けたくなかったの」
「そんな言い訳どうだっていい。あたしを騙して気持ちを踏みにじった事は事実じゃん」
「大袈裟だな」
「ちょっと格好いいかなって思ったから声かけてみたのに。とんだ最低男だったわ」
「お、おい…」
彼女の表情が今まで見たこともない物に変化。仕草も言葉も。その全てが負のオーラに満ちていた。
「こんな事なら話しかけたりするんじゃなかった。可哀想だなんて同情するんじゃなかった」
「待て、同情ってなんだよ」
「やっぱりクズだったわ。こんな奴だから留年なんかするんだね、当然だわ」
「あんだとっ!」
「近寄んな、ボケェっ!!」
「ぐわっ!?」
耳に不快な台詞が入ってくる。腕を掴んで怒鳴り散らしてやろうとしたが先に頬を殴られてしまった。
「いってぇっ!」
「人の気持ち弄んで楽しい? 人の事からかったりして幸せ?」
「はぁ?」
「アンタみたいな奴がいるからこの世からイジメがなくならないのよ!」
「い、今それ関係ないだろが!」
「あたしだって上手くやれるって思ってたのに……もうあんな惨めな思いしなくて済むって思ってたのに」
「あ?」
ふと目の前の人物の異変に気付く。目尻に小さな雫が浮かんでいる事に。
「お前、もしかして泣いて…」
「もう二度と話しかけてくんな、クソ野郎っ!」
「あ……おいっ!?」
疑問を解消する為に言葉を質問に変換。不自然な点をツッこもうとしたがその前に彼女は走り去ってしまった。
「……えぇ」
呆然と立ち尽くす。多くの生徒が行き交う廊下で。
テンションが高い理由を尋ねたら妙な勘違いをしていて、その間違いを指摘したら喧嘩に発展。そして最終的にはビンタされ逃げられてしまった。
「俺が悪いのか、これ…」
原因を究明したいが出来ない。真相を知っている人物に逃げられてしまったから。
1つだけ確定しているのはクラスメートを傷付けてしまったという事。くだらない賭けが原因で貴重な友情にヒビを入れてしまっていた。




