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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
52/129

14 意地と恥ー3

「今日の放課後、付き合ってくれ」


「はい?」


 翌日の休み時間、声をかける。友達と別行動をとっていた土乃に。


「お願いします、お願いします」


「ちょ、ちょい待ち。いきなり何なの?」


「どうかこの通りです!」


「……ケータイ弄りながら言われても説得力ないんだけど」


「あ、いけね。ちなみにエロ画像を漁ってるんだけど一緒に見る?」


 画面を話し相手の方に向けて表示。入れ違いに右ストレートが顔面に飛んできた。


「ぐふっ!?」


「放課後って事は遊びの誘い?」


「まぁ。大切な用事があって」


「大切な用事…」


 愛莉がダメなら彼女しかいない。何よりすみれと面識がないので好都合だった。


「ま、まぁ遊びに行くのは良いんだけどさ」


「え? 本当?」


「どうせあたしの方から声かけようかと考えてたし。だから構わないよ、付き合ってあげる」


「やったぜ、サンキュー」


「えぇいっ! 変な画面見せるな!」


 両手を天井に向けて上げる。喜びをオーバーに表現するように。


「ちなみに大切な用事ってのは?」


「ん~と……会ってほしい人がいるっていうか」


「会ってほしい人?」


「しつこく付きまとってくる女がいてよ。俺の代わりにそいつにビシッと言ってやってほしいんだわ」


「え? ストーカーって奴?」


「そうそう。もうウザくてしゃーない」


 咄嗟に思いついた嘘で話を進展。従妹を悪役へと仕立て上げていった。


「ふ~ん、大変だね」


「SNSって怖いわぁ」


「ちなみにどうしてその役をあたしに頼んできたの?」


「ん? そりゃ他に頼める人がいないし」


「へ、へぇ…」


 彼女が神妙な面持ちで俯く。僅かに頬を赤らめながら。


「まっ、困ってる人を見捨てるのも悪いし協力してあげよっかな」


「おう。なら放課後よろしく」


「おっけ、任せといて」


「ちなみにエロ画像は…」


「しつこい!」


「ぐふっ!?」


 どうにかして相方の獲得に成功。ホームルームが終わると2人で学校を出発した。


「その相手ってどんな人なの?」


「中学生」


「は? 中学生!?」


「ネットで知り合って仲良くなったというか、住んでる地域が近かったから意気投合したというか」


「もしや水瀬くんてロリコン?」


「バッカ、人妻にしか手を出さない紳士だよ」


「ゴミ男じゃねぇか」


 嘘を嘘で塗り固めていく。もはや隣にいる女子生徒を欺く事に何の抵抗も感じなくなっていたので。


 電車を下りてからは真っ直ぐ住宅街へ突入。待ち合わせ場所である駅近くの公園に向かった。


「あっ、もう来てるわ」


 遊具から離れた場所に見知ったシルエットを見つける。1人でベンチに腰掛けていた従妹の姿を。


「おい、来たぞ」


「あ……祐人」


「約束通り連れて来た。コイツが昨日話した奴じゃ」


「は、初めまして…」


「……どうも」


 女性陣2人が互いの存在を認識。どぎまぎしながら挨拶を交わした。


「アナタ、中学生って本当?」


「え? そ、そうですけど」


「ふ~ん…」


「だから言っただろ。俺、ちゃんと付き合ってる奴いるって」


「え!?」


「これで分かったよな。嘘ついてないって事が」


「うっ…」


 得意気にふんぞり返る。歯を食いしばっている対戦相手の顔を見下ろしながら。


「ま、待って待って! 今のどういう事?」


「え? 何が?」


「付き合ってる奴がいるって話。それ、あたしの事だよね?」


「ま、まぁ…」


「意味分かんないんだけど! どうしていきなりそうなる訳さ!」


 しかし連れてきたクラスメートはパニック状態に変化。腕を強く引っ張って問い詰めてきた。


「いや、だからそれは…」


「あ、あたしと水瀬くん付き合ってるの? 違うよね?」


「おい!」


「告白とかされた覚えないし! 好きだなんて言われた事、一度もないんですけど!」


「ツチノコっ! ちょっと耳貸せ」


「へ?」


 よほど納得がいかなかったのか異常な程のテンパり具合を見せる。仕方ないので事情を説明する事にした。


「とりあえず今だけ話を合わせてくれ。詳しい事は後で説明するから」


「な、何がよ」


「お前と俺は付き合ってるという設定で芝居を頼む」


「はぁ!?」


「さっきも言っただろ。こいつ、俺のストーカーなんだよ」


「……あ」


 ここにやって来る前に考えていた嘘を利用する。事情を察知したのか彼女の口調が途端に大人しくなった。


「2人で何コソコソ話してんの」


「ん? ちょっとした打ち合わせってやつ」


「打ち合わせ…」


「というわけで改めて紹介する。俺の彼女のツチノコさんだ」


「ちょ…」


 伸ばした手をパートナーの肩に添える。親密さをアピールするように馴れ馴れしい態度で。


「水瀬くんの彼女……です」


「はっはっはっ!」


「あの、祐人と付き合ってるって本当なんですか?」


「え?」


「申し訳ないですけどイマイチ信じられなくて。もしかして頼まれて嫌々引き受けたりとかしたんじゃないですか?」


「そ、それは…」


 ただし物事はそう上手く捗ってくれない。従妹の口からは疑うような発言が飛び出した。


「お前な、初対面の人に失礼だぞ! 変な事言うなや」


「だっておかしいもん。この人、さっき祐人とは付き合ってないって言ってたし」


「それは照れくさくて否定しただけだよ。まだ周りの奴らには内緒にしてるから」


「へ~」


「俺はコイツの事が好きだし、コイツも俺の事を愛してる。それだけはお前がどれだけ疑おうと揺るぎない事実だ」


 嘘がバレないように熱弁を振るう。図星を指された事が恥ずかしくてヒートアップしていた。


「なら証拠見せてよ」


「証拠?」


「2人が恋人同士だっていう証。本当に付き合ってるなら出来るよね?」


「ぐっ…」


 バチが当たったのか良くない状況に変化していく。芳しくない方向へと。


「ん…」


 隣にいる友人と視線が衝突。そこにあったのは不安と驚きをブレンドしたような顔だった。


 さすがに彼女にそこまで要求する訳にはいかない。親戚同士のくだらない論争の為に。


「うっせぇな。本人が現れたんだからそれで良いだろうが」


「出来ないの? ならやっぱり嘘って事だよね」


「そういう行為は人に見せびらかす為にやる訳じゃないし。ガキだからそんな事も分からないのかよ」


「あぁ!?」


「とりあえずこの勝負はお前の負けで決定。約束通り土下座してもらうけど文句ないよな?」


 ややこしくなる前に話を打ち切った方が良いかもしれない。直感的にそう感じたので強引に本題を切り出した。


「ほれ、すいませんでしたって謝れよ」


「……む」


「まさか出来ないっていうのか? 昨日のあの発言はただのハッタリだったのかよ」


「うぅ…」


「おら、さっさとしろや。俺は昨日本当に実行したんだから次はお前の番だぞ」


 普段より更に乱暴な口調を振りまく。ヤクザにでもなった気分で。


「祐人のクソ馬鹿。昔から意地ばっかり張っちゃってさ」


「あ? なんだよ、急に」


「そんなんだから嫌われるんだよ。好きになってくれた女の子とかにも」


「はぁ?」


「もう死んじゃえ、バカ野郎ぉぉぉぉーーっ!!」


「ぐっふっ!?」


 従妹が俯きながら独り言を開始。近付いて様子を確かめようとした瞬間に右足を大きく振り上げた。


「か……か、か」


「金輪際うちに来んなっ! 二度と連絡して来ないでよね!」


 靴の先端が股の隙間を縫って命中する。下半身にある急所に。


 攻撃を仕掛けてきた人物は捨て台詞と共に逃走。ベンチに置かれていた鞄を持って公園から出て行ってしまった。


「だ、大丈夫? 水瀬くん!?」


「おあぁ、うががっ……玉が、玉が!」


「とりあえずどうしよう。あの子を追いかけるよりここにいた方が良いよね?」


「そ、そうしてくれると助かる…」


「さすった方が良い? あ、でも場所が場所だからマズいか」


「ひぃぃっ…」


 すぐ近くにいた土乃が駆け寄ってくる。慌てふためいた様子で。


 その後、悶絶しながら時間が経過。励ましの言葉もあってどうにか回復する事が出来た。


「ふ~、参った参った」


「顔、真っ赤にしてたね。よっぽど苦しかったんだ」


「まぁ女には分からない痛みかな。例えるなら、隣のクラスのバスガイドは美人なお姉さんなのに自分のクラスはおばちゃんだった時の衝撃な訳よ」


「分からんわい」


 近くにあったベンチに2人して腰掛ける。視界に広がる西日を眺めながら。


「でもさっきの子、凄かったね。めっちゃ怒ってたじゃん」


「昔からああなんだよ。気に入らない事があるとすぐヒステリック起こしてさ」


「え? 昔から?」


「あ、いや……昔っていっても半年前とかなんだけど」


「へぇ、そうなんだ」


「とりあえずこれで問題は解決かな。アイツもさすがに諦めるだろ」


 隣にいるクラスメートのおかげでどうにか面目を保つ事に成功。土下座をさせる事は出来なかったが上出来だった。


「ただそういう事情があるなら先に教えておいてよね。ビックリしたじゃん」


「悪い。もし予め伝えてたら断られちゃうかもと思って」


「あぁ、なるほど。確かにこんな役、普通は嫌がるもんね」


 隣にいる相方が笑いながら足をブラブラさせている。無邪気な子供のように。


「あ、あのさ。一個だけ聞いて良い?」


「何?」


「さっき言ってた事って……本当?」


「さっき…」


 もしかしたらバレたのかもしれない。実はネットで知り合った関係ではないのだと。


「いや、全部本当だぞ」


「え?」


「SNSのプロフィールとか遅刻の言い訳とか嘘だらけだけど信じてくれ」


「どんな生活してるんだ…」


「やっぱり疑う?」


「うぅん、そんな事ないよ。ただ少し気になったから聞いてみただけだし」


「そっか」


 どうやらあっさり鵜呑みにしてくれたらしい。返ってきた言葉に安堵した。


「こういう事はてっきり火浦さんに頼むかと思ってたのになぁ」


「愛莉はちょっとね。ダメなんだ」


「えへへ~」


「ん? 何?」


「なんでもな~い」


 場に笑い声が響き渡る。ご機嫌な心境を表した台詞が。


「じゃあ、これからどうしよっか?」


「ん~、とりあえず用事は終わったから帰ろうかな。金欠だから遊びに行くのもキツいし」


「そっか。ならまた今度だね」


「今日は悪かったな。ワガママに付き合ってもらっちゃってよ」


「うぅん、別に良いよ。あたしもいい暇つぶしになったから」


「お礼に後で極上のエロ画像を送っとくわ」


「殺すぞ」


 その後、2人して駅へとUターン。電車に乗って地元まで戻って来た所で相方と別れた。


「……アイツ、なんか言ってくるかなぁ」


 独り言を呟きながら思い浮かべる。ケンカした従妹の顔を。


「んっ…」


 さすがに少しやり過ぎたかもしれない。反省して謝罪メールを送信。だが夜になっても彼女から返事が返ってくる事はなかった。

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