12 正義と犠牲ー1
「そっちいったぞーーっ!」
春風が吹く中、ジャージ姿で校庭を駆け回る集団を眺める。ゴールポストのすぐ横で。
「おぉ~」
蹴られたボールが空高くに移動。うちのチームがゴール直前まで持ち込んだのだが、あと一歩の所で相手チームに返されてしまった。
「んん……んーーっ」
両腕を上げて背筋を伸ばす。暖かい気候を吸収するように。
隣のクラスとサッカーの試合で対戦中。女子は体育館にいるのでギャラリーは授業を欠席した見学者しかいなかった。
好きに試合をやらせてもらってるせいか皆のテンションが高い。体育教師は職員室に引き返してしまった為、審判すらも生徒が交代で負担していた。
「木島」
「え……な、何?」
「俺達、暇だよな。やる事ないし」
「そんな事はないと思うけど…」
「だってボール維持してんの運動部の連中ばっかでこっちに全然飛んでこないじゃん。触ったら触ったで怒り出すし」
すぐ近くにいたクラスメートに声をかける。教室で隣の席に配置されている大人しめの男子に。
自分も彼も早々に戦力外扱い。なので自陣ゴール付近で不必要なディフェンスを任されていた。
主に参加しているのはサッカー部の連中で後は足が速い奴だけ。昔から得意な連中が仕切りたがるので授業中に行うサッカーは嫌いだった。
「あ~あ、かったりぃ…」
空を見上げながらその場に屈み込む。砂原達、数人の生徒は試合に参加していなかった。見学ではなくただのサボリ。
こんな事なら自分も最初から不参加で良かったのかもしれない。どうせ教師も見てないし、着替える手間も省けるから。
「あ?」
木の枝で地面に落書きしていると近くにいた別のクラスメートと目が合う。ゴールポストにもたれかかっていた金髪の男子生徒と。
「あんにゃろう…」
鋭い目つきを向けてきたので睨み返して対応。文句でもつけてやろうとしたがすぐに逸らされてしまった。
「……くそっ」
彼はいつもこんな感じ。周りに同調する事はせず、かといって自分の言いたい事は主張しない。
喧嘩はしないがイベント事にも不干渉。似たようなタイプの砂原との一番の違いはやる気のなさ。クラスの連中を仕切りたがる身勝手男と違って彼は口数が少なかった。
「気分悪いな…」
初めはあんなに気軽にカラオケに誘ってくれたというのに。相手が留年生だと分かった途端、手の平を返したように突き放してきた。
「え? 水瀬くん、どこ行くの?」
「フケる」
「ちょっ…」
この場にいたくない。イライラするだけなので。
「おい、どこ行くんだよ」
「はぁ?」
試合に影響しない人間が消えたところで誰も困らないだろう。そう考えて歩き出した途端に意外な方角から声をかけられた。
「そんなの俺の勝手だろうが。どうしてそれをいちいち誰かに報告しなくちゃならん」
「1人で勝手に消えようとすんなよ。このポジション任されたんだろ?」
「ポジション?」
「やるならちゃんと最後までやれって。途中でいなくなられたら他の奴が困るじゃんよ」
「え……もしかしてお前、試合に参加した気になってんの?」
金坂からの質問に質問で返す。挑発的な言動を意識しながら。
「早くフィールドに戻れ。自由に動き回るな」
「だってやる事ないじゃん。ボール飛んできても触る機会ないし」
「そんなの分かんねぇだろうが。相手が攻めてきたらディフェンスの出番だって増えてくんだぞ」
「ならお前があそこ行って来いや。こんな場所で楽してないで」
「俺はスイーパーなんだよ。ゴール前を守るのが役目」
「そんなの知らんわっ!」
数メートルの距離で軽い口論状態に。そのやり取りを小柄な男子とゴールキーパーが狼狽えながら眺めていた。
「あ、ボール」
「ん?」
睨み合っているとすぐ近くに球体が転がってくる。開催されているスポーツの一番の主役が。
「お前ら、止めろーーっ!」
遠くからはうちのクラスメートが大声で叫んでいた。攻め込んで来ている相手チームの後ろから。
「ほっ!」
「あぁっ!?」
「おっしゃ、ナイスディフェンス!」
木島が咄嗟にボールをキックする。唯一、手を使う事を許されているキーパーの方へと。
「おい、俺にボールよこせ」
「え?」
「こっちに蹴ればいいから」
「で、でも…」
「早くしろ」
続けてキーパーがそのまま投げようとしたが途中で断念。彼は戸惑いながらも金坂の足元へと転がした。
「シュートを間近で止める怖さって知ってるか?」
「あ?」
「せっかくだから教えといてやるよ」
「お、おい…」
脳裏に嫌な光景が思い浮かぶ。頭サイズの球がこちらに飛んでくるイメージが。
「ぐわっ!?」
その予感は見事的中。咄嗟にガードした腕に鈍い痛みが走った。
「いってぇーーっ!」
「ふんっ…」
「何すんだ、お前!」
「テメェがサボろうとしてたからディフェンスの大切さを教えてやったんだろうが」
「あ!?」
「今のでゴール守るのがどんだけ大変か分かったか」
「訳わかんない事をゴチャゴチャと…」
ボールをぶつけられた衝撃で体がひっくり返ってしまう。背中から地面に倒れ込む形で。
「これに懲りたら二度とサボるなよ」
「こんの野郎ぉ…」
「やる気ないなら最初から来んな」
妙な体勢のまま口喧嘩が継続。視界の先にあったのは人を見下すような目付きだった。
「俺はサッカーよりドッジの方が好きなんだよ。だから今度は俺がお前にドッジの凄さを教えてやる」
「はぁ?」
「手を使うスポーツは楽しいぜ。やるならやっぱりハンド競技だわ」
「こいつ…」
彼の言動のせいで怒りのボルテージは最高潮に到達する。ボールを掴むとそのまま前方にダッシュした。
「いって!?」
「おらぁ! どうだ参ったかぁ!」
「ぐっ…」
金坂の顔面にボールをぶつける。投擲ではなく直接殴りかかるように。
「これに懲りたら二度と俺に逆らうんじゃねぇぞ、この金髪ロン毛野郎!」
「てんめっ…」
「わっはっは! ザマァみやがれ!」
「おらあっ!!」
「ぐげっ!?」
仕返し出来た事に満足。しかし高笑いを浮かべている最中に顎に強烈な痛みが走った。
「い、いぢぢぢ…」
「ハァッ、ハァッ…」
「お、お前……ダイレクトパンチはダメだろっ!」
「うっせぇ、反則野郎!」
「こんのっ…」
彼の暴言に拳でやり返す。足技も加えながら。
「ちょっ……止めろーーっ!」
「ストップ、ストップ!」
そこからは殴り合いの乱闘に発展。真面目に授業に参加していた同級生達が次々と間に割り込んできた。
騒ぎを聞き付けた教師も数人でグラウンドに登場する事に。いつの間にサッカーではなく無差別格闘技の試合になっていた。




