11 不審者と事案ー2
「ふぃ~」
深呼吸しながら頭上を見上げる。歪な雲がたくさん浮かんでいる空を。
時間を潰すと決めたがこの街にはあまり遊べる場所がない。知り合いもいないので寄れる家も無かった。
「祐人く~ん」
「お?」
コンビニか本屋で立ち読みでもしていようか。そんな事を考えていると隣の民家から名前を呼ばれた。
「あ、香織さん」
「こんにちは。学校以外で会うの久しぶりだよね?」
「そうっすね」
ヘコヘコと頭を下げる。同じ海城学校の先輩に向かって。
「また葵ちゃんの家に遊びに来たの? 本当に仲良いね、君達」
「いや、今日はすみれの方に呼ばれたんです」
「あ、そうなんだ。親戚が近くにいるって良いね。うちなんかみんな遠くに住んでてさ」
「でもいつも一緒にいたら鬱陶しいだけですよ? たまに会えるからありがたみがあるんすよ、親戚ってのは」
「え~、そうかなぁ。私はやっぱり側にいてほしいと思うけど」
「見解の相違っすね」
小走りで近付いてきたので正面から向かい合う形に。いざ並ぶと頭一つ分ぐらいの身長差があった。
「……華恋さん、元気にしてるかなぁ」
「ん? 何すか?」
「うぅん、なんでもないよ」
彼女が小さく呟く。問い掛けに対して首をブンブンと横に振ってきた。
「それよりどこか出掛けるの? 葵ちゃん達は一緒にいないみたいだけど」
「葵は部活で、すみれは友達と中にいます。邪魔しちゃ悪いんでしばらくどこかで時間潰してこようかなぁと」
「あっはは、気が利くねぇ。ならわざわざ遊びに来たのに締め出し喰らっちゃったわけだ」
「良い奴すぎて損ばかりですよ、まったく」
この人と知り合ったのは3ヶ月ほど前。葵が仲良くなり彼女伝いに自分も友達に。気さくな人でかなり好印象な先輩。1つだけ欠点を挙げさせてもらうとするならば年上には見えないという点だった。
「どこかで時間潰すって言ってたけど、どこに行くつもりなの?」
「コンビニか本屋で立ち読みしてこようかなぁと」
「そうなんだ。じゃあコンビニに行こ。私も丁度お昼買いに行くとこだったし」
「は、はぁ…」
「ではではレッツゴー」
香織さんが陽気な掛け声と共に歩き出す。彼女の後を付いて行く形で自分もその場から動き始めた。
「そういや留年したらしいけど学校どう?」
「うっ…」
「あっ、もしかして聞かない方が良かった?」
「いや、全然平気っす…」
移動中に深刻な話題を振られてしまう。あまり触れられたくない内容の物を。
口では強がっていたが内心はダメージが蓄積。強烈なボディブローを喰らってしまった。
「なんかゴメンね。気遣いゼロの発言しちゃって」
「留年したのは事実だから香織さんは悪くないです」
「でも本人が思ってるほど周りは気にしてないものだよ。私のお兄ちゃんも大学に落ちちゃったけど来年また受け直すって言ってたから」
「そうなんすか。でも高校と大学は違う気が…」
「葵ちゃんとも学年がズレちゃったんだってね。新しいお友達は作れた?」
「え~と、まぁ何人かは」
クラスメートなのに年上なのが1人。やかましいのが1人。
「あ~あ、私も最上級生かぁ」
「嫌なんすか?」
「だって高校生でいられる最後の歳なんだよ? 楽しい学校生活もこれでお終い。そう考えたら淋しくなっちゃって」
「なるほど。でも1つだけ卒業しないで済む方法がありますけど」
「なに?」
「留年」
適当な発言と共に指を差す。自身の顔を。その動作を見て隣にいる人物は笑いながら頭を小突いてきた。
他愛ない会話を繰り広げながらも住宅街を進む。目的のコンビニへやって来た後は別れて書籍コーナーに突撃した。
「デザインかっけぇな…」
ゲーム雑誌を手に取る。パラパラと捲り気になるページだけを閲覧。
「お弁当買ったよ~」
「そうっすか」
「私はもう帰るけど祐人くんはどうする?」
「いや、俺は時間潰す為にここ来てるんでまだ帰んないですよ」
「あ、そっか」
2冊目に手を伸ばしたタイミングでレジで会計を済ませた香織さんが近付いてきた。スナック菓子がたくさん入った袋を携えて。
彼女の目的は買い物だが、自分はここに滞在する事。名残惜しいがお別れだった。
「じゃあ、まったね~」
「うぃ~す」
「18歳未満なんだからスケベな本は読んだらダメだよ?」
「あとで大声出して音読してやりますとも」
「やだ、もう」
立ち去る背中に向かって手を振る。雑誌を落とさないように注意しながら。
「いっつも明るいなぁ…」
見ていて気持ちが良い性格。自身にはないポジティブさが溢れていた。




