11 不審者と事案ー1
「お~い、来たぞぉ」
玄関先で大きく叫ぶ。自分の家ではなく第二の故郷である従姉妹の家で。
肩には大きめのボストンバッグを装備。中身は自宅から持参してきたゲーム機とソフトだった。
「おぉ、祐人か。いらっしゃい」
「うい~」
奥から男の人が出てくる。オシャレな衣類を身につけたおじさんが。
「すみれいる? アイツに呼び出されたんだけど」
「あぁ、二階にいるよ。友達と一緒に」
「友達…」
「それとおじさん達ちょっと出掛けてくるから。あとの事よろしくな」
「またデートか。本当に好きじゃのう」
「ははは、飽きる事がないからな」
おじさんとおばさんは仲が良い。休みの日には2人揃って映画を見に行ったりショッピングに出掛けたり。昔から知っているが夫婦喧嘩をする所なんか一度も見た事がない。うちの両親とは大違いだった。
「あら、祐人いらっしゃい。もうお昼は食べたの?」
「いや、まだだけど」
「なら適当に何か作って食べちゃって良いわよ。冷蔵庫に材料入ってるから」
「承知した」
「あと悪いんだけどすみれの分も用意してあげてくれない? あの子もまだお昼食べてないから」
「え~」
「この通りだから、お願い!」
続けておばさんも出てくる。手を合わせたかと思えば切願を連発。動作は真面目だが表情が軽かった。
「じゃあ行ってくるから留守番よろしく」
「ういうい」
支度を終えたおじさん達が玄関から出て行く。その姿を横目で見送った。
「……本当に仲良いな、あの2人」
いつまで経っても恋人気分でいるらしい。だから夫婦生活が長続きするのだろう。
おじさんとうちの母親は血の繋がった姉弟という関係性。それなのに性格が正反対。片方は短気で、片方は大らかだった。
「あ、祐人来てたんだ」
「ん?」
靴を脱ごうとしていると二階から音が聞こえてくる。階段を駆け下りてくる音が。
「お前が呼んだからわざわざ来てやったんじゃないか。しかもクソ重たい荷物まで持ってこさせやがって」
「うむ、ご苦労。ちゃんと頼んだブツは持って来てくれたみたいだね」
「何様のつもりだ、この野郎」
「すみれ様だぞ」
「あぁっ!?」
相変わらずの生意気な態度。軽く小突いてやろうと近付くが後ろにもう1人いる事に気付いた。
「……あ」
「ん?」
自然と目が合う。従妹より高い背丈で、長い髪の女の子と。
「友達?」
「そだよ~、同じクラスの子なんだ」
「なんだよ。友達出来たのか、クソッ!」
性格が悪いから周りに避けられてると信じていたのに。しかも隣にいる人物はどこかのお嬢様なんじゃないかと思うぐらいに清楚な子だった。
「こ、こんにちは…」
「ん」
「……お邪魔してます」
「あぁ、コイツはこの家の住人じゃないから挨拶しなくて良いよ」
「おい」
「それより奈津紀ちゃん、トイレ行きたいんでしょ? あっちだから行ってきなよ」
「う、うん…」
女の子が頭を下げて入っていく。廊下の奥にある扉の中へと。
「あのさぁ、クラスメート連れて来てんなら俺を呼ぶなよな」
「だってお父さん達が出掛けるからリビングのテレビが空くじゃん。せっかくだからゲームやろうと思って」
「葵は? いないの?」
「部活。夕方まで帰って来ないよ」
「真面目だな、アイツも。たまにはサボれば良いのに」
「祐人みたいにね」
「余計なお世話だ」
冗談を交えながら会話。スニーカーにはまだ足を通したままだった。
「あの子以外にも誰か連れて来てんの?」
「ん~ん、招いたのは奈津紀ちゃんだけだよ」
「とりあえず俺はどうすりゃ良い? おじさん達には家の留守を任されたんだけど」
「邪魔だから帰って良いよ。祐人がいると奈津紀ちゃんが怯えちゃって可哀想だから」
「ふざけんな、コラッ!」
挑発的な言動に怒りを露にする。床に下ろしていたバッグを肩にかけた。
「ならこれは持って帰るわ。あばよ」
「わーーっ! 待ってよ。ゲーム機は置いてって」
「はぁ? ふざけんなし。そしたら俺が明日からやれなくなるじゃん」
「良いじゃん、別に。それにもうゲームやるってあの子と約束しちゃったんだから」
「それはお前の都合だろうが。俺の事情と関係ない」
後からこっちの家まで返しに来いと言っても彼女は確実に持って来ない。結構な重さがあるし、面倒くさがり屋なので。データを上書きされたり壊される恐れもあるので貸し出しだけは絶対にしたくなかった。
「……む~、じゃあここにいても良いからゲーム貸してよ」
「なんだその態度は。貸してください祐人様だろうが、コラ」
「あんまり生意気な態度とると愛莉ちゃんにスケベな本を買わせた事、皆にバラすよ?」
「それお前がやったんじゃねーか!」
玄関でくだらない口論を繰り広げる。一応は滞在許可が下りたので中へと上がる事にした。
「ほらよ、リビングまでは自分で持っていけよな」
「やった。サンキュー」
「昼はどうする? 腹減ってるなら何か作るけど」
「まだお腹空いてないからいいや。何か食べたくなったら言うし」
「そうか…」
彼女が空腹なら自分のも含めて一緒に作ってしまおうかと考えていたのだが。何もいらないというなら作っても勿体無いだけ。
しかも友達がいる状況で食事をとるのも疑問でしかない。リビングへと向かおうとしていた意思をかき消した。
「俺、ちょっと出掛けてくるわ」
「ん?」
「適当に散歩したら戻って来る」
「行ってらっしゃ~い。二度と戻って来ないでね」
「よし、あとで部屋の中に大量のカエルを放出しておいてやるから覚悟してろ」
「やめろよ!」
友達の子も男がいない方が落ち着くハズ。かといって電車に乗ってわざわざ地元まで帰るのも面倒。なのでその辺を適当にブラつく事に。入ってきたばかりの玄関をくぐって外に出た。




