10 説教と文句ー4
「おい」
「あん?」
「ちょっと話あんだけど良いか」
「何だよ…」
翌週、宣言通り清掃時間に接触を図る。親しい男子生徒と2人で裏門に腰掛けていた砂原に。
「お前らの担当場所ここじゃないだろ。どうしてこんな所にいるんだよ」
「はぁ?」
「裏庭に戻れって。教師に見つかったら怒られるぞ」
「何言ってんだ、こいつ」
用件を告げるが彼から返ってきたのは予想通りの反応。敵対心剥き出しの態度だった。
「どうせここにいても掃除なんかやる気ないんだよな? だったらせめて担当場所にいろって」
「なんでダブり野郎に命令されなくちゃなんないんだ」
「ダブっ…」
「俺らがどこで何してようが勝手だろ。てかどういう了見でテメェもここにいるんだよ」
「……それはまぁ、俺も掃除サボってるからだわな」
ここには自分の担当場所である理科室をほっぽりだして来ている。彼らの行為を責められない真似をしていた。
「いや、でも俺はお前らがちゃんと裏庭に移動したら戻るぞ。そのつもりでここに足を運んだわけだし」
「んなの知らねぇし。早く消えろよ、ボサボサ頭」
「寝癖直さずにそのまま来ちゃったんだけど文句あるか?」
「死ね!」
説得の言葉に対して暴言が返ってくる。尊敬の念を排除した罵詈雑言が。
「他の女子は? 同じ班の奴らはどこにいんの?」
「俺が知るかよ」
「別々にサボってんのか。ならとりあえずお前らだけでも戻れって」
「だからどうして留年野郎の命令を聞かなくちゃなんないんだっつの。そんなに掃除したいならテメェがやってこいや」
「お前な…」
彼のそれは年上に対しての接し方ではない。人として最低限の礼儀が欠けていた。
すぐ側に立っている男子生徒と顔を合わせてニヤニヤしている。二対一だから居心地が悪かった。
「お前らがサボってるから愛……火浦がいつも1人で掃除する羽目になってんだよ。可哀想だろ?」
「別に」
「毎日毎日、全員分を1人で負担してるんだぞ。大変な気持ち分かるよな?」
「知るか」
「ほうき使ってちょっとゴミや枯れ葉を掃くだけじゃんか。それの何が嫌なんだよ」
自身のサボリ癖を棚に上げて熱弁を振る舞う。少々の羞恥心を抱きながらも。
「ゴチャゴチャうるせぇなぁ…」
「あん?」
「さっきから訳わかんねぇ。何がしたいの?」
「よい子の真似事」
「目障りだから消えろ。俺、お前のこと嫌いなんだよ」
「俺だって嫌いだわ…」
進捗率具合は最悪。事前に予想はしていたが言い争いに発展してしまった。
「留年してるような奴が偉ぶるなよ。テメェだってサボってるからこんな所にいるんだろ」
「うむ」
「自分の女だから贔屓? 正直ムカつくわ、そういう押し付けがましい親切心」
「そういうんじゃないんだってば。俺はただクラスメートの事を考えてだな…」
「あのメガネ気持ち悪いんだよ。一緒にいるとイライラする」
「お前…」
場に遠慮のない言葉が飛び出す。人の尊厳を損ねる最低の台詞が。
「どうしてあんな地味な奴と付き合ってんの? 頼んだらやらしてくれんの?」
「はぁ?」
「趣味悪すぎ。いくら何でももう少しまともな女選ぶだろ、普通」
「……っ!」
「早く裏庭行ってブスとイチャついてこいよ」
そのまま会話の流れは下劣な方向に。プライドを徹底的に破壊してきた。
「砂原ぁ…」
無意識に拳を握り締める。何故この場所へとやって来たのかの理由は考えていない。頭の中にあるのは怒りの感情だけ。
「もういいよ、やめやめ」
「あ?」
「この前の続きだ。ここなら邪魔しに来る奴もすぐには現れないから徹底的にやってやろうぜ」
「どうしたんだよ。頭おかしくなったのか?」
自分を馬鹿にされるだけならまだ我慢も出来た。しかし友人にまで口出しした行為だけは許せない。
彼女は誰より優しい。その配慮を愚弄するなら怒りを堪える必要が無かった。
「人間は話し合えば誰とだって分かり合えるって言うけど、ありゃ嘘だ」
「はぁ?」
「俺はお前と分かり合える気がしない。一緒にいたらいる分だけムカつく」
「なに、説教モード?」
「だからこれから先、お前が怪我しようが人生を台無しにしようが知らん。勝手に地獄でも見てろ」
開戦の合図でも送るように思い付いた言葉を口にする。狼狽える外野の男子生徒を視界に収めながら。
もし彼が割り込んできたら2人まとめて攻撃。逃げ出したなら無視して砂原だけを徹底的に攻撃すれば良い。この後に訪れるであろう光景を脳内で強くイメージした。
「……あ」
突撃しようとした瞬間、ある事を思い出す。従姉にされた忠告の存在を。
「ぐくっ…」
こんな状況で手を出したら遠まわしに愛莉にまで迷惑をかけてしまうだけ。さすがにそれはマズいだろう。
「くっそ…」
とはいえ一体どうしろというのか。このまま黙って引き下がるような真似だけは絶対にしたくなかった。
「あぁあぁぁぁーーっ!!」
「……は?」
声を張り上げて叫ぶ。青々とした空に向かって。
「帰る」
「はぁ?」
「もう言い争いをする気分じゃなくなった」
「なんだ、コイツ」
その行動を目の前にいた人物達が観察。呆然とした表情を浮かべていた。
「でもこれだけは言っとくからな」
「あ?」
「もし愛莉をバカにするなら何度でも注意しに来てやる。何度でもだ」
「来んな」
「アイツはずっと出来た人間なんだよ。俺やお前らよりもな」
「意味わからん…」
「だから二度とナメた口をきくなよ」
挑発的な言葉を残すとその場を離れる。大きく深呼吸しながら。
「あ~あ…」
どこまでも損な役回り。問題を解決出来ない所か口論してしまうなんて。ただそれでもマシだと思えた。殴り合いの喧嘩に発展させるよりかは。




