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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
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35/129

10 説教と文句ー2

「水瀬くん、一緒に帰ろ」


「おい、水瀬って奴。この人が呼んでるぞ」


「アンタだよ、アンタ」


 放課後の廊下で女子生徒が話しかけてくる。友達に別れの挨拶を済ませた土乃が。


「今日はどうするの? またお父さんの病院に寄ってくの?」


「……親父なら昨夜亡くなったよ」


「え、嘘!?」


「だからソッとしておいてくれないか。悪いけど誰かと寄り道する気分じゃないんだ」


「う、うん……辛いだろうけど気を落とさないでね。あたしが力になれそうな事があるなら協力するから」


「なら今日の宿題見せてくれ。親父はバカだし、母ちゃんは面倒くさがり屋だから教えてくれないんだよ」


 何故か彼女は頻繁に付きまとってきた。昼休みや放課後を迎える度に。なのでいかに遭遇しないように過ごすかが毎日の課題となっていた。


「まったく……嘘つくなよな」


「まったく、大人しく騙されてろよな」


「で、これからどこ行くの?」


「天竺」


「あたし的には何か甘い物を食べに行きたい気分かな。パフェとかパンケーキとか」


「パンツケーキだと!?」


「スケベ」


 芳しくない相方と2人で歩く。開放感な空気で騒がしい廊下を。


「水瀬くんは甘い物好き? スイーツ男子?」


「甘い物より女の子の方が好き」


「あ、そうなんだ。じゃあ今日は幸せだね」


「ちなみに可愛い子限定な」


「うん。ならその可愛い女の子とこれからどこに行く?」


「お前、すげぇポジティブ…」


 呆れるしかない。隣を歩く人物は有り得ないぐらいの牽強付会思考だった。


「あれ? ゆうちゃん?」


「お?」


 下駄箱で上履きを脱いでいる途中、横から声をかけられる。聞き覚えのある呼称で。


「あ~、やっぱりゆうちゃんだった。学校で会うの久しぶり!」


「……げ」


 振り向いた先に黄色いヘアバンドを付けた従姉を発見。何もかもが最悪なタイミングだった。


「さらばっ!」


「え?」


 スニーカーに足を入れると走り始める。生徒でごった返している昇降口を。


「ちょ、ちょっと……ゆうちゃん!?」


 背後から呼び止める声が聞こえてくるが当然スルー。走るペースを落とす事なく校外へと飛び出した。


「はぁっ、はぁっ…」


 しばらく進むと立ち止まる。住宅街の一角で。


「ここまで来れば大丈夫だろ…」


 まさかクラスメートではなく身内に見つかってしまうなんて。学年が違うので油断していた。


「ねぇ」


「うわぁーーっ!?」


「うおっ!?」


 呼吸を整えていると声をかけられる。背後にいた女子生徒に。


「ツ、ツチノコ……どうしてここにいるんだよ!?」


「え? そりゃだって水瀬くんが突然走り出したからだし」


「じゃなくて何で追いかけてきたか聞いてんの!」


 彼女達から逃げ去りたい一心で駆け出したのに。その張本人が目の前にいては意味がなかった。


「ん~、何となく」


「しかもこう見えて俺、リレーや短距離走の代表に選ばれる程度には俊足だからな」


「そうなんだ。あたしも体育は得意だよ。大抵の記録は男子を上回ってたわ」


「あぁ……いるよなぁ、こういう奴。男のプライドをズタボロに引き裂くハイスペックがさぁ」


「へへへ、照れるなぁ」


「誉めてねーよ」


 目の前には満面の笑みが存在。悪びれる様子の感じられない表情が。


「で、さっきの人……誰?」


「いや、知らない。見た事もない」


「嘘だぁ。だって顔を見た瞬間に慌てて逃げ出してたじゃん」


「よく見たら他人の空似だったわ。全くの別人」


「水瀬くんの事をゆうちゃんって呼んでたよね? もしや……相当深い仲の人?」


「ぎゃあぁあぁぁーーっ!!」


「うっさ…」


 口から大音量の声が飛び出す。悲鳴と勘違いされそうな勢いの雄叫びか。


「……もしかして元カノ?」


「違うっ!!」


「水瀬くんって下の名前、祐人だったよね? ゆうちゃんってそこからきたんじゃないの?」


「え? 僕の名前は卍丸(まんじまる)ですよ。祐人なんて名前は聞いた事ないなぁ」


「2年生の下駄箱に向かってたから水瀬くんの元同級生って事だし……絶対知り合いでしょ、さっきの人」


「しつこいぞ! さっきから違うって言ってるじゃないか!」


 八つ当たりするように喚き散らした。真相に触れられたくないので。


「なら今から引き返して本人に確認してきて良い?」


「すいません、すいません。それだけは勘弁してください」


「なら大人しく白状しちゃえば? 吐いた方が楽になるよ」


「おぇーーっ!」


「ぎゃあぁあぁぁっ!? 汚い!」


 許される事ならそうしたい。でも出来ない。変なアダ名でからかわれる展開は勘弁したいから。


「ツチノコ、ちょっと聞いてくれ!」


「え……何々!?」


「俺、今まで隠してたけどお前の事…」


「ちょ、ちょっとちょっと!」


 差し出した手を彼女の方に移動。ガッシリと肩を掴んで固定させた。


「うりゃああぁあぁぁっ!!」


「ギャーーッ!?」


 そのまま足を引っ掛けながら上半身を半回転させる。柔道の授業で習った大外刈りを炸裂させた。


「……いったぁ」


「ふははははっ! じゃあな、あばよ」


「あっ、ちょっと!」


 彼女を地面に倒した後は即座に離脱する。鞄を手に持ち全力ダッシュでその場から逃げ出した。


「ふうぅ…」


 しばらく走ると再び足の動きを止める。振り返って誰もいない事を確認しながら。


「さすがに今度は追いかけて来ないか…」


 ちょっとばかし乱暴な扱いをしてしまったが仕方ないだろう。頭をぶつけないようにガードはしたから大事には至ってないハズ。


「さぁ、帰ろ帰ろ」


 1人になった後は寄り道する事なく帰路に就く事に。団地の階段を上がって玄関をくぐった。


「ただいま~」


「おかえり、バカ息子」


 自宅の中に入った瞬間に出迎えられる。メガネをかけた母親に。


「アンタ、何で汗だくなの?」


「軽く運動したから」


「またケンカ? いい加減にしなさいよね」


「違ぇわ。クラスメートに柔道技をかけて転ばして逃げてきただけだし」


「紛うことなきケンカじゃない」


「……あれ?」


 制服のまま洗面所に向かって洗顔。不快な汗を洗い落とした。


「晩飯って何?」


「皿うどん」


「先週もだったじゃん。短いスパンで同じメニューを出すのはやめてくれよ!」


「前にたくさん買ったヤツの賞味期限が切れそうなの! 文句あるなら自分で作れ!」


「くっそ、何て適当なシェフなんだ…」


 母親はおおらかな父親と違って短気。どうして2人が結婚したのか疑問に感じるぐらいに。そのせいで日常的に激しい口論が勃発。自分の気の短さは間違いなくこの遺伝だった。

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