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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
31/129

9 積極的と消極的ー2

「愛莉。飯、飯」


「あ、はい」


 昼休みになると友人に声をかける。急かすように両手を叩きながら。


「水瀬くん」


「お?」


 そのまま教室を出て廊下に移動。食堂に向かおうとしたら後ろから名前を呼ばれた。


「あ、あのさ……今日はどうしよう」


「あぁ。俺、こいつと学食行くから」


「へ?」


「お前も昨日、一昨日と俺に付き合ってたから友達と過ごせなかっただろ? だから今日は別々で良いぞ」


「そ、それは気にしてないから別に構わないんだけどさ…」


「あと放課後も付いて来なくていいぜ。じゃあな」


 気を遣ってくれた土乃が接近。ありがたいが今日はちゃんと相方がいるので丁寧に断った。


「お~い、早く行くぞ」


「で、でも土乃さんが…」


「アイツは大丈夫だって。友達多いし、普段から連んでる奴がクラスに何人もいるから」


「そういう問題では…」


 しかし歩き出そうとしたすぐ横で愛莉が立ち止まる。不満そうな表情を浮かべて。


「土乃さんもお昼はお弁当じゃないんですよね?」


「ん? 多分」


「な、なら…」


「……あぁ、そういう事か」


 彼女の主張を瞬時に理解。動きだそうとした意思を素早く切り替えた。


「おい、ツチノコ」


「……何よ」


「お前も一緒に行く? 学食に」


「はぁ?」


 後ろに立っている人物に呼びかける。仏頂面でこちらを睨んでいた女子生徒に。


「人数が多い方が楽しいじゃん。枯れ木も花の賑わいって言うし」


「くっ…」


「ただ誘いはしたけど奢ったりはしないからな。俺、あんまり金持って…」


「……もう良い」


「え? お、おい」


 勧誘を始めたが途中で強制終了。逆方向に向いた背中は学食でも購買でもない方へと消えてしまった。


「なんだ、アイツ」


 最初から誘ってくれなかった事に腹を立てているのかもしれない。優先順位が気に入らなかったとか。


「まぁ、いいや。俺達だけで行こうぜ。席が埋まっちまう」


「あ、はい。分かりました…」


 2日続けて付き合ってくれたのに悪い事をした気がする。後を追いかけたい所だが余計に機嫌を損ねるのも嫌なので大人しく引き下がった。


「いただきま~す」


 食堂にやって来た後は壁際の席を陣取る。マニアに人気な回鍋肉定食を注文して。


「あの…」


「ん?」


「土乃さん、変な呼ばれ方をされた事が気に入らなかったんじゃないですかね?」


「はぁ?」


 開口一番に友人が疑問を投下。ここにはいない人物の話題を持ち出してきた。


「だって水瀬くんが喋る度に怒ってましたし…」


「そうかな?」


「ですよ」


「ん~、でもそれはないと思うぜ」


「何故です?」


「だって昨日は普通に返してくれたもん」


「え?」


 全く同じ呼称でも態度は明るめ。むしろ笑いながら背中を叩いてきたぐらいだった。


「本当ですか?」


「うむ。だから単に機嫌が悪かっただけなんだよ、ケンカに負けたとか」


「えぇ…」


「それより唐揚げ1個貰っていい?」


「……どうぞ」


「やっほい」


 それから食堂で昼食をとっている間も土乃が姿を現す事はなく。どこか別の場所で過ごしているらしい。


 次に遭遇したのは教室に戻ってきた時。席に近付いて声をかけたが結果は惨敗。まともに目を合わせてくれなかった。



「愛莉、帰ろうぜ」


「あ、はい。少し待っていてください」


 放課後になると友人に声をかける。なるべく砂原の近くは通らないルートで。


「愛莉ってさ、素早く動くの苦手だよね」


「へ?」


「動作に俊敏さが感じられないもん」


「……すいません」


「責めてるわけじゃないから謝らなくても良いよ。ただおっとりしてる感じがしただけ」


「は、はぁ…」


 うちの従姉とそっくり。そのせいで年上という意識が薄れていた。


「あの…」


「ん?」


 黒板を消す日直を眺めていると今度は彼女の方から話しかけてくる。鞄に教科書やノートを仕舞い込む手の動きを止めて。


「今日は1人で帰るので、水瀬くんは先に出ちゃってください」


「はぁ? どうしたんだよ、急に」


「ちょ、ちょっと急ぎの用事が出来てしまったので。だから今日は別々という事に…」


「急ぎの用って?」


「え~と…」


 会話中なのに視線を逸らして辺りをキョロキョロ。どこからどう見ても隠し事をしている人間の反応だった。


「俺と一緒に帰るのが嫌って事?」


「い、いえっ! そんな事は決してありません、絶対に」


「ならどうして別々なんだよ。用事あっても途中まで付き添うぐらい良いじゃん」


「うぅ…」


「もしかして学校に用事? 職員室に呼び出されたとか」


「そういう事ではなくてですね…」


「ん?」


 なにやら困惑したような顔付きを浮かべている。久しぶりに見るテンパった表情を。


「……土乃さんと一緒に帰ってあげてください」


「あ? なんでさ」


「き、昨日も彼女と一緒に帰ってたんですよね? なら私の事はいいですから土乃さんに付き合ってあげてください」


「いや、それ無理だよ。だって休み時間にアイツに声かけたけどガン無視されちゃったもん」


「そ、それは水瀬くんがあんな態度をとるのが原因でして…」


「一緒に学食に誘わなかった事?」


「……ん」


 思い浮かんだ原因をストレートに質問。無言で首を縦に振る動作が返ってきた。


「でも普通、声かけなかったくらいで無視するか? ガキなんだよ、アイツは。放っておけば良いんだって」


「そ、それはダメです。土乃さんが可哀想すぎます」


「なんでさ?」


「私には声をかけたのに自分がスルーされた事がショックだったんだと思います。仲間外れにされたみたいで」


「ならその事を謝ってこいと言いたいわけ?」


「……はい」


 どうやら彼女も同じ事を考えていたらしい。第三者の目から見てもそう感じたのなら間違いないのだろう。


「はぁ……仕方ないな」


「え? じゃ、じゃあ…」


「ごめんって頭下げてくるよ。誘わなくて悪かったって」


「本当ですか?」


「まぁな。向こうが話を聞いてくれるかは分からないけど」


 お節介で親切。ただ不思議と逆らう気にはならない。世良の時もだが自分に関係のない問題にも進んで介入してこようとしてくる。人見知りな性格を考えたら凄い事だった。


「とりあえず追いかけてくる。多分、まだ校舎内にいると思うし」


「そうしてあげてください。土乃さんも水瀬くんと仲直りしたいと考えてると思うので」


「明日は3人で行けたらいいな。学食に」


「はいっ! もしそうなったら私も凄く嬉しいです」


「……お人好しめ」


「へ?」


 抱いた感情はなかなか素直に口に出来ない。恥ずかしさが邪魔をしてくるから。それでも尊敬する事は出来る。心は意志よりも正直だった。

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