7 半年前と半年後ー4
「あ~あ…」
日付を跨いだ放課後、曇り空の下を歩く。地面スレスレのテンションで。
「やっぱりクラスの皆、よそよそしかったですね…」
「そりゃそうだろうな。学校で暴れるような男が同じ教室にいるって知ったら」
「争いの原因を作ったのは砂原くんなのに…」
「アイツ、今日もめっちゃ睨んできたわ」
朝の休み時間から帰るまでの間ずっと居心地は最悪。直接的な嫌がらせはされなかったが陰口を囁いてきたり。
本音を言わせてもらえば登校自体したくなかった。隣を歩いてる友人がいなければ間違いなくサボっていただろう。
「俺もメガネかけて地味に過ごしてたらバレる事なんかなかったのかな」
「わ、私の真似ですか?」
「愛莉のが賢かったって事だよ。思考が浅はかだったんだ」
「……すみません」
巻き戻せるのなら巻き戻したい。軽率な行動をとってしまう前の時間まで。
「助けるべきじゃなかったのかも」
「世良くんの事ですか?」
「うん。それに隣の席の奴もね」
「……私は水瀬くんがした事は間違ってないと思います。手段の正誤はともかく、誰も助けようとしなかった状況に進んで足を踏み入れられるなんて普通は出来ませんから」
「俺が普通じゃないって事?」
「い、いえ……別に馬鹿にしてるとかそういう訳ではなくてですね」
発言を遮るように質問をしてみる。無知を装った意地悪発言をぶつけてみた。
「何が言いたいのかは分かるよ。度胸があるって意味でしょ?」
「はい、その通りです」
「ん~、けど助けた本人達にまでウザがられちゃってるからなぁ。やっぱりやるべきではなかったのかも」
「むぅ…」
自己満足の正義は正義とは言わない。昔、何かのアニメでそんな台詞を耳にした覚えがあった。
「そういや気になってた事があるんだけど」
「何でしょう?」
「この件に関してやたら積極的なのって、やっぱり自分にもそういう経験があるから?」
「え?」
続けて別の話題を振ってみる。前日から引っ掛かっていた行動の真意を。
「……そうですね。水瀬くんの話を聞いて他人事とは思えなかったから何とかしたくなったのだと思います」
「なら愛莉も同じような理由で学校に行かなくなった訳か。世良みたいに」
「いえ、それは違います」
「ん?」
お互いに足の動きを止めた。示し合わせたかのように同時に。
「私はイジメられてたから学校に行かなくなった訳ではなく、友達を不登校にしてしまったから学校に行かなくなったんです」
「……は?」
「だ、だから私が学校に行かなくなったのは世良くんとは違う事が原因でして…」
「いや、待て待て。友達を不登校にさせたってどういう事?」
「そのままの意味です…」
「もしかしてイジメられてた側でなくイジメてた側?」
「どちらかといえば…」
「えぇ…」
驚きのあまり開いた口が塞がらない。まさか被害者側だと思っていた人間が加害者側だったなんて。
「ちなみにそうなった経緯は聞いてもいいのかな?」
「……始まりは私にも分かりません。ただいつの間にかクラスの女の子を皆で仲間外れにしていました」
「ふ~ん…」
友人が自虐的な口調で語り始める。中3の頃に体験した出来事を。
クラスの中で女子はいくつかのグループに派生。彼女も仲のいい3人といつも過ごしていたんだとか。
だがそのうちの1人が次第に仲間外れにされるように。トロいからという理由だけで馬鹿にされるようになったらしいのだ。
「久米ちゃんという子でメガネをかけた可愛らしい子でした。今の私みたいに」
「自分が可愛いって事?」
「い、いえ……そういう訳ではなくメガネをかけてる部分が共通点って意味です」
「ビックリした~。突然ナルシストに目覚めたのかと思ったわ」
「あぅ…」
その久米という人物は同じグループの女子だけでなく他のクラスメートにもからわれるようになったらしい。そして次第に登校日数が減り、最終的には不登校になったんだとか。
「……私は今でも後悔しています。どうしてあの子の事を助けてあげなかったんだろうって」
「それでその久米って人の次は愛莉が標的にされたから学校に行かなくなったわけか」
「正確にはされそうになったからですね。自分もトロそうなキャラとして扱われていたから皆に悪口を言われるのが怖くて」
「なら愛莉は被害者でも加害者でも無いんじゃないの? どちらでもない第三者じゃないか」
「いえ…」
「ん?」
住宅街の一角で議論を交わす。歩く意志は完全に途絶えていた。
「見てみぬフリしていた私も加害者同然です。私が助けなかったから久米ちゃんは不登校になってしまった」
「でも愛莉はそいつらみたいに悪口とか言ってないんだろ? なら違うじゃん」
「水瀬くんは、もしクラスの中の数人に陰口を囁かれたらどうしますか?」
「あん? そりゃあ直接文句つけに行くけど。なんでそんな事を言うんだって」
「私や久米ちゃんはそういう事が出来ないんです。だから仲間外れにされてしまった」
「なら自分にもっと自信持つしかないよ。やられたらやり返すぐらいの意気込みで」
「それに直接嫌がらせをしてくるのがたかが数人だったとしても、周りにいる人達が誰も助けてくれなかったら全員が敵に思えてくるんです」
「まぁ……確かにな」
昔話を語る友人の表情が次第に曇っていくのが分かる。彼女はイジメには遭ってないと言っていた。なら今語っている言葉は、その久米という人物の立場になって考えた代弁かもしれない。
「だから私が直接手を下してないといっても、久米ちゃんには私が敵に思えていたハズなんです」
「助けようとしなかったから?」
「……はい」
積極的な行動の真意をようやく理解する。過去の思い出を未だに引きずっているから今回の件を何とかしたいと強く願っているのだと。
「辛い時に一番苦しいのは周りの人が誰も助けてくれないって状況だと思うんです」
「ん?」
「もし私がその世良くんの立場なら、助けてくれた水瀬くんを嫌うなんて事はしません」
「でもアイツは学校に来なくなった。現にクラスから姿を消しちまったわけで…」
「だからそれを確かめに行くんです。世良くんが水瀬くんのした事をどう感じているのかを」
「聞いても教えてくんないかもよ。そもそも顔を合わせられるかすら分かんない」
「ダメならダメで構わないです。それなら納得も出来ますから」
「納得ねぇ…」
やらずに後悔するぐらいならやって傷付いた方がマシと言いたいらしい。けどそれをやるのは彼女ではない。ダメージを負うのも後悔するのも当事者だった。




