7 半年前と半年後ー2
「ほっ」
ホームルーム終わりの教室で椅子から立ち上がる。鞄を肩にかけながら。
「金坂」
「ん?」
続けて離れた席へと移動。以前にカラオケへ誘ってくれた金髪の男子生徒に話しかけた。
「お前、今日は暇? 俺、これからカラオケ行こうかと思ってるんだけど」
「はぁ?」
「ほら、この前誘ってくれたじゃん。あの時は断っちまったから悪いなぁと思ってさ」
ストレス発散に大声で叫びたい気分だった。それプラス償い。少しでも味方を作っておきたかった。
「おい、聞いてんのかよ」
「何言ってんの、コイツ」
「あ?」
返事を待っていると彼が別の人物に話しかける。友人と思われる大柄の男子生徒に。
「頭おかしいんじゃねぇの。なんで俺カラオケに誘われてんだ」
「……お前」
「てかコイツ誰だっけ。うちのクラスにこんな奴いたっけか?」
「ぐっ…」
「この教室には1年生しかいないハズだろ。どうして1学年上の奴が入ってきてんだよ」
明らかに挑発していると思われる台詞を連発。遠慮なんか微塵も無い無礼な暴言の数々を浴びせてきた。
「なんだよ、そういう奴だったのかよ」
「はぁ?」
「気軽に声かけてきてくれたから良い奴だと思ってたのに。とんだペテン師じゃねぇか」
「それはそっちの事じゃん」
「最低だな。お前もあの砂原とかいう奴も…」
結局、彼も同じ。休み時間に口論になった男子生徒と同類。クラスメートが留年生と分かっただけで手の平を返したように態度を変えてきた。
「……クソ野郎」
自然と鞄を持つ手に力が籠もる。腹立たしさをぶつける為に対話相手を上から睨みつけた。
「なんだよ。また手出して暴れんのか?」
「そうしようかと思ってる」
「は?」
「もう既に騒ぎ起こしちゃってる身だし。今さら喧嘩した数を増やした所で評価なんか変わらないだろ」
「お、おい…」
元から優等生でいようとは思っていない。結局、何をやっても失敗する奴は上手くいかないからだ。ならせめて本能に従順でいたい。落第生らしく粗暴なままで。
「み、水瀬くん。早く帰りましょう」
「ちょっ…」
「今日は葵さんと約束してるハズです。待たせたら悪いですよ」
「おい、離せって」
「遅刻したら怒られてしまいますし。さぁ早く」
「愛莉っ!」
飛びかかろうとした瞬間に友人が声をかけてくる。腕を強く引っ張りながら。
抵抗を試みるも頑なに無視。呼んだ名前もシカトされ、そのまま強制的に廊下へと連れ出されてしまった。
「……ったく、何なんだよ」
「ご、ごめんなさい。いきなり割り込んでしまって」
「本当だよ、まったく」
「考えるより先に体が動いてしまって……気付いたら水瀬くんに声をかけてました」
「向こうも唖然としてたじゃん。いきなり女子が乱入してくるからさ」
「す、す、すいませんでしたぁ…」
2人並んで廊下を歩く。遠慮なく愚痴をぶちまけながら。
「……まぁ結果的に助かったから良かったんだけど」
「え?」
「愛莉が介入してきてくれなかったら本当に殴りかかってたかも。そしたらまた職員室に呼び出しだ」
「ぼ、暴力はダメです。お互いに痛い思いをするだけですし」
「お礼を言う必要はあっても文句をつける理由はないよな。助けてくれてサンキュー」
「い、いえ。私はそんな大した事はしてません…」
わたわたしながら両手を振る相方に向かって謝罪と礼を決行。その挙動不審な様子が興奮気味な頭に冷静さを取り戻してくれた。
「とりあえずここ出よう。またアイツらと顔合わせたら面倒だし」
「そ、そうですね。早く脱出しましょう」
「……脱出て」
上履きからスニーカーに履き替えて校舎を出る。グラウンドから聞こえる運動部の掛け声を背に校庭脇の道をすすんだ。
「しっかしムカつくなぁ。金坂とかいう奴も砂原とかいう奴も」
「どうしてバレてしまったんでしょうね。水瀬くんが留年してる事」
「そりゃいつかはバレるさ。一緒に過ごしてたら気付くだろうし、1学年上の先輩に聞いたりとかいろいろあるじゃん」
「なるほど……水瀬くんの去年のクラスメートが兄弟って人もいるかもしれませんもんね」
「愛莉もひょっとしたら俺と一緒にいたらクラスの奴らから嫌われちゃうかもしんないぜ」
「は、はぁ…」
ただ警告はしてみたが彼女も自分と似たような境遇の生徒。留年生と2年遅れの新入生。異色の組み合わせだった。




