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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
21/129

7 半年前と半年後ー1

「失礼しやっした~」


 八つ当たりするように乱暴にドアを閉める。用の済んだ職員室の扉を。


「……しつこすぎなんじゃ、あのヒステリックババァ」


 今年度に入ってから初の呼び出し。担任からの説教を受ける為にこうして来たくもない場所に足を運んでいた。


 その原因は教室内でのちょっとした小競り合い。隣の席にいる大人しめの男子が別の男子にからかわれていた為、口先で注意。しかしそこから口論となり、胸倉を掴みあって声を張り上げる事態にまで発展してしまったのだ。


「あっ、来た」


「ん?」


 トボトボと廊下を歩く。その少し先に1人で立っている女子生徒を見つけた。


「なんで葵がここにいるんだよ」


「愛莉ちゃんから教えてもらったの。ゆうちゃんが教室で喧嘩して先生に呼び出されたって」


「……え~」


「も~、あれだけ暴力はダメだって言ったじゃない。どうしてすぐに手を出しちゃうわけ?」


「別に今日は大して暴れてない。ただ掴み合いになっただけ」


「本当に?」


「おう、マジマジ。なんならそん時の動画とか見せてやりたいぐらいだわ」


 胸倉を掴み合う状況にはなったが殴り合いにはならなかった。自分が相手の男子を強く押し倒してお終い。ただ転倒した時の勢いで辺りの机や椅子が散乱。その光景を別の教師に目撃され職員室に呼び出されてしまったのだ。


「でも怪我とかしてないみたいで良かった。相手の子も無事なんだよね?」


「それは知らん。背中ぶつけたから、せいぜいアザぐらいじゃないかな」


「先生には何て言われたの? やっぱり怒られた?」


「新学期早々なにやってんだって怒鳴られた。また来年も1年生をやりたいのかって」


「はぁ……やっぱり」


 担任は去年とは別の人物だが留年しているという情報は把握している。しかも問題児として。


 今回は大した騒ぎにはならなかったので口頭での注意だけで終了。停学は無しとの判決だった。


「じゃあ頑張ってね。授業サボったりしたらダメだよ」


「へいへ~い。葵も人の世話ばっか焼いてないで自分の事とかしっかりやれよ~」


「あと愛莉ちゃんにも迷惑かけないようにね。バイバイ」


 階段付近で従姉と別れる。母親のような注意を垂れ流していくと彼女は軽やかな足取りで段差を駆け上がっていった。


「んんーーっ!」


 説教から解放されたタイミングで背筋を伸ばす。強張っていた全身の筋肉をほぐそうと。


「さ~てと…」


 サボろうかと思っていたが注意を受けたので真面目に行動する事を決意。上履きを床に擦りながら廊下を歩いた。


「……あ?」


 教室へ戻ってきた瞬間に妙な異変に気付く。他意を含んだクラスメート達の視線を。


「どけ、そこにいると通れない」


「あ…」


 入口近くにいた背の高い男子を威圧。無理やり退けた後は真っ直ぐに席へと向かった。


「……なんなんだ、まったく」


 先程まで騒がしかったのに。ドアを開けた途端に静寂へと変化。


 静まっていた教室はしばしの間を置いて再びザワつき始める。そんな光景を見回していると1人の人物と視線が衝突した。


「あの野郎…」


 先ほど胸倉の掴み合いをした男子。彼は嫌悪感剥き出しの表情でこちらを睨みつけていた。


 目を逸らしたら負けな気がするので更に睨み返す。僅か数メートルの距離での攻防戦を開始した。


「あっ…」


 途中、ある事を思い出したのでメンチの切り合いを中断する。体の向きを後ろに変えながら。


「大丈夫だった? さっき」


「……へ?」


「お前、アイツに髪引っ張られてただろ。あれから何かされなかったか?」


「えっと…」


 そこにいたのはいつも脅してしまっている人物。騒動の発端となった小柄の男子だった。


「けどさぁ、お前もやられっぱなしでいないでやり返せば良かったのに。髪を掴まれたなら掴み返してやれよ」


「ん…」


「何事も初めが肝心だぞ。最初にナメられると、その後もずっと見下され続けるからな」


「……いで」


「おい、聞いてるのかよ」


「話しかけてこないで」


「あっ!」


 注意を促すが目を合わせてくれない。それどころか反発してくる始末。


「なんだ、お前」


 せっかく人が助けてあげたというのに。感謝しろとまでは言わないが無視という対応だけはいただけなかった。


「あの子、可哀想」


 苛立ちを募らせているとどこからか声が耳に入ってくる。同情を思わせる女子の台詞が。


 発信元の方に向くが誰が言ったのかは不明。気付けば教室中の人間がこちらを窺いながらクスクスと笑っていた。


「……またコレか」


 無意識に甦ってくるのは半年前の記憶。クラスから孤立し始めた日の出来事。


「あの……大丈夫でした?」


「まぁ。ただ説教喰らっただけだし」


「そ、そうですか」


 再び教室中が騒がしくなった隙を見計らって愛莉が駆け寄ってくる。不安そうな表情で。


「あ、あの……水瀬くんが留年してるって事、皆に気付かれてしまったっぽいです」


「知ってる」


「え?」


 遅かれ早かれこうなる事は覚悟していた。クラス中に自分の変わった経歴が知れ渡るだろうと。


 もしかしたら上手くやれるかもしれない。新しく高校生活をやり直せるんじゃないかと。そう思っていたが淡い希望は浅はかな行動で呆気なく砕け散ってしまった。

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