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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
2/129

1 ボールと窓ガラスー2

「とりあえずどうすれば良いですかね?」


「はえっ!?」


「業者の人とか呼んだ方が良いんでしょうか。修理しないといけないですし」


「え、いや……あの」


「どこに電話すれば良いんですかね。とりあえず俺、親に連絡しますんで」


「……う、あ」


「はい?」


 進捗具合が芳しくないので自ら話を進める。やや強引に。


 目の前にいる人物は様子がおかしい。立場が逆。本来、咎められる立場の自分の方が口数が多かった。


「あの…」


「は、はひぃ!?」


「ご両親は?」


「へ?」


「家族の方はいないんですか。あなた以外の人は」


「……で、出掛けてます」


「なるほど…」


 埒があかないので違う質問をぶつける。別の住人の存在を。ただ催促したが不在と判明してしまった。


「どこか怪我とかしてませんか? ボールやガラスの破片が当たったとか」


「い、いや…」


 問い掛けに対して女の子がブンブンと首を横に振る。目線を合わせてくれないまま。


「とにかくガラス何とかしましょう。俺、責任持って片付けますんで」


「え?」


「上がっても良いですか? 割れたの二階ですよね」


「いや、それはちょっと…」


「マズいですか?」


「マズいっていうか、なんていうか…」


 無理やり入り込もうとしようとした所で彼女が初めて強く反応。拒絶の意志を全面に押し出したリアクションを見せてきた。


「じゃあ、せめて連絡先だけ教えてください。こっちも教えるんで。お金の請求の事もあるし」


「そ、それは…」


「別に変な事に利用とか絶対しませんから。本当です。誓っても良いです」


「けど…」


「ダメですか?」


 何もかもを拒否してくる。一方的に自宅の番号や住所を教えて立ち去っても良いのだが後味が悪い。何よりたどたどしい女の子の姿に妙な正義感が湧き出していた。


「やっぱり片付けぐらいします。自分が原因で引き起こした事故ですし」


「あっ!?」


 一歩踏み出すと彼女が体をドアから離す。それを中へと入っていい許可だと勝手に解釈した。


「お邪魔します」


 彼女の顔を見るが目を逸らされてしまう。とりあえず進入を止めようとする気はないらしい。


「二階……良いですか?」


「……ん」


 続けて天井を指差した。スニーカーを脱ぎながら。


 無言で頭をコクコクと振るリアクションを確かめた後は行動開始。何故か自分が住人を引き連れる形で階段を上がった。


「割れたのどこの部屋ですか?」


「そ、そこ……です」


 二階へと来たタイミングで後ろに振り返る。その視線の先に開いている扉を見つけた。


「この部屋か…」


 中では床にガラス片が飛び散っている。うっかり見とれてしまうぐらい見事に。


 部屋にはあったのは女性を彷彿とさせるベッドと学習机。並べられたヌイグルミから察するに彼女か、彼女の姉妹の部屋だと思われた。


「あ…」


 ついでに転がっている野球ボールを発見する。真っ先に拾ってポケットの中に収納。証拠を隠滅しようとする犯人みたいで罪悪感が込み上げてきた。


「とりあえずガラス回収しましょうか」


「あ……はい」


「そういえばガラスってどこに捨てれば良いんでしょう。燃えるゴミ……ではないから不燃ゴミ?」


「もしくは資源ゴミか、粗大ゴミか…」


「ちょっと分かんないですよね」


「……ん」


 おかしくなって笑い出す。しかし対話相手は相変わらずの薄い反応を継続中。


「よっ、と」


 破片の位置を確かめた後は膝を突いた。冷たく感じるフローリングに。


「あっ、俺やるんで良いですよ」


「で、でも…」


「怪我するといけないんで触らない方が良いです。それより袋を持ってきてもらえませんか。ゴミ袋でもスーパーの袋でも良いので」


「あ、はい」


 隣から伸びてきた手を制止する。危険に晒さないように別の指示を出した。


「……人見知りなのかな」


 いくらなんでも戸惑いすぎ。こちらから迷惑をかけておいて何だがパニクりすぎだろう。


 いきなり窓ガラスを割られたりしたら焦る気持ちも分かる。だがその点を差し引いたとしても彼女の態度は不自然だった。


「ほうきとチリトリありますか?」


「あ……すいません。今、持ってきます」


「いや、謝らなくても…」


 戻ってきた彼女からスーパーの袋を受けとる。それと同時に片付けの為のアイテムを要求した。


「ん…」


 道具を手にすると散らばった破片をかき集めていく。無言で立ち尽くす住人を横目に。


「君、中学生?」


「へ!?」


「多分、同い年ぐらいだよね。なら中学生かな」


「いや、それは違うような気がします…」


「なら高校生? 大学生……はさすがに無いか」


「さ、さぁどうでしょうか」


「ん?」


 沈黙に耐えられずに話しかけた。無難な話題を使って。


「……俺さ、留年しちゃったんだよね」


「え?」


「高1だったんだけど停学喰らいまくっちゃって。ついでにサボりまくってたから出席日数が足りなくなっちゃってさ」


「は、はぁ…」


「春からまた1年生としてやり直す事になっちゃったんだよ。やんなっちゃうよなぁ、まったく」


「……ん」


 自信の境遇を語る。自虐的な雰囲気を醸し出しながら。


「まぁ自業自得なんだけどさ。半分ぐらいは」


「半分…」


「あ、聞いてる? 興味ない?」


「え? へ?」


「ごめんね。ガラス割っておきながら勝手に身の上話とかしちゃって」


 唐突な独演会は相手のリアクションを見て途中で中断。謝罪の言葉を口にした。


「……っしと」


 破片を全て回収した後は袋を縛る。破れて飛び出してこないように二重にして。


「多分、もう大丈夫。ただ細かい欠片とか落ちてるかもしれないから念の為に掃除機はかけた方が良いかも」


「あ、あの……留年しても頑張ってください」


「はぁ?」


 片付けを済ませた床を確認。手を突いて立ち上がったタイミングで今度は彼女の方から声をかけられた。


「別にダメな事ってわけではないですし、ただ周りより少し遅れてるだけですし」


「な、何……いきなり」


「だから人の目なんか気にしなくて良いです。何を言われようが自分は自分ですから」


「え? え?」


「凄く素敵な事だと思います。リタイアしないで努力しようとするその気持ちが」


「……そりゃどうも」


 ずっと無口だった女の子が急に饒舌になる。目の前にいる人間を鼓舞するように持論を力説しながら。


「じ、実は私も4月から1年生でして」


「え? 高1?」


「はい。だからアナタと同じなんです」


「そうなんだ。なら1個下なんだね」


 先ほど年齢を尋ねた時に困惑していた理由が判明。卒業はしたから中学生ではない。そして入学もしていないので高校生でもないと、そういう意味なのだろう。


「もしかしたら同じ学校だったりしてね」


「あはは……どうでしょう」


「高校入ったら喧嘩とかしない方が良いよ。すぐ停学になるから」


「そ、そんな事はしません。喧嘩なんて」


「君、真面目そうだもんね。サボリとか絶対しなさそうだ」


「……そうでもないと思います」


 数分前と比べて彼女の口数が多い。時々渋い顔をするが、多少なり心を許してくれているようだった。


「はぁ…」


 ガラス片が入った袋を手に持ち語り合う。しかも全くの他人の家で。不思議な状況に違和感を覚えずにはいられなかった。

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