5 留年と引きこもりー2
「んっ……あぁーーっ」
休み時間になると背筋を伸ばす。間抜けな声を出しながら。
「なに見てんだよ」
「い、いや…」
ついでに隣の席の男子を威圧。毎日の恒例行事になっていた。
「お~い、飯食いに行こうぜ」
「あ、はい」
昼休みになると声をかける。出来たばかりの友人に向かって。
「ここの学食のハムカツ定食が結構美味いんだぜ。衣がサクサクしててさ」
「そ、そうなんですか」
「まぁ毎日あるわけじゃないんだけどね。回鍋肉定食も中々かな」
「へぇ」
「油っこい食べ物とか平気? つか苦手な食べ物ある? 甘いもの以外で」
「これといって特には」
「あ…」
会話の途中で足の動きを停止。廊下で立ち止まった。
「ごめん。またタメ口で話しかけちゃった」
「いや、だから全然構わないんですってば」
「年上だから敬語を使わないといけないハズなのに。本当に申し訳ないです」
「謝るとかやめてください。私は全く気にしてませんので」
「これからは愛莉先輩って呼んだ方が良いですか? いや、それだと馴れ馴れしいからやっぱり火浦先輩だな」
「や、やめてえぇぇえぇぇっ!!」
彼女が泣きそうな表情を浮かべる。本気で嫌がっているリアクションを。
当然といえば当然だった。同級生を先輩呼ばわりしていたら、年上だと周りに言いふらしているようなものなのだから。
「いただきま~す」
食道にやって来た後は席に座る。2人揃ってハムカツ定食を頼んだ。
「しっかり食べるんだよ。ここのおばちゃん達、残すとメチャクチャ怒るから」
「そ、そうなんですか」
「前にフライの尻尾を残してる女子生徒がいてさ、放課後に呼び出されて誓約書を書かされてたっけな。これからは二度と残さない事を誓う内容の文章を」
「し、尻尾を残すのもダメなんですか!?」
「だから愛莉ちゃんも気を付けなされ。一度でも目をつけられたら食べ終わるまでここを出してもらえなくなるよ」
「ひえぇえぇっ…」
箸を進めながらも虚偽を連発。真に受ける反応が新鮮で面白かった。
「あのさ、聞きたい事あるんだけど良い?」
「あ、はい。何でしょう」
「どうして2年前に高校入らなかったの?」
「うっ…」
タイミングを見計らって話題を切り替える。ずっと気になっていた物へと。
「普通なら中学卒業してそのまま高校に進学するでしょ? もしくは就職か。なのに君はなぜ2年遅れで進学なんかしようと思ったわけさ」
「そ、それは…」
「のっぴきならない事情でもない限りそんな事しないと思うんだよね。なんで?」
「えっと…」
「別に言いたくないなら答えなくて良いよ。どうしても知りたい訳じゃないし。ただ少し気になったから聞いてみただけ」
目の前にあった体の動きが停止。明らかに動揺していた。
「……笑わないで聞いてくれますか?」
「何々、そんなに爆笑出来るエピソードが隠されてるの?」
「いえ、そういう訳ではないんですけど…」
「別に何を聞かされても笑ったりなんかしないよ。例え愛莉ちゃんが2回も受験に失敗した~とか言いだしたとしても」
「本当ですか?」
「うん。まぁ昨日今日出会ったばかりの男を信用するかどうかは君次第だけど」
彼女が口ごもりながら声を発している。どうやら隠すつもりはないらしい。なるべく平静を装って紡がれる言葉を待った。
「じ、実は私……中学の時に不登校でして」
「ほう」
「3年生になってしばらくしてから学校に行かなくなりました。それから2年以上引きこもりだったんです」
「なるほど」
「けど部屋で1人で過ごしているうちにこのままではいけないと考えるようになって…」
「そして高校生になる事を決意しましたとさ」
「……はい、その通りです」
食事を進めながら話に聞き入る。ショックは受けたが衝撃は受けていない。打ち明けてくれた内容が前もって予想していた物となんら変わらないエピソードだったからだ。




