4 祐人と愛莉ー4
「愛莉ちゃんはこういう場所よく来るの?」
「いえ、あまり来た事はないです」
「そうなんだ。私は大好きだよ。ストレス解消になるし」
「へぇ…」
腹拵えを済ませた後は場所を移動する。若者で賑わうゲームセンターに。
女子高生2人は共に行動し、すみれは店に着いた途端に音楽ゲームコーナーへと直行。バラバラになってしまった。
「眠てぇ…」
満腹になったからか睡魔に襲われ始める。昨夜、遅くまでゲームに夢中になっていたせいもあってか。
騒がしい空間から逃げ出すように隅にあるベンチへと避難。背もたれに身を預けて目を閉じた。
「ゆうちゃん」
「……は?」
「もう出るよ。起きて」
「お、おう…」
ウトウトしていると優しく肩を揺らされる。不満そうな顔をしている従姉に。
「ふぁ~あ…」
外に出ても欠伸が止まらない。すぐにでも横になりたい気分だった。
「もう夕方かぁ…」
なんやかんやで結構な時間が経過。空の色が少しずつ変化していた。
「きゃっ!?」
「ん?」
道路を歩いている途中で前を歩いていた人物が姿を消してしまう。少しずつ場の空気に馴染んできていたクラスメートが。
「いったぁ…」
「おいおい、大丈夫かいな」
段差に足を取られたとすぐに察知。オマケに開いた学生鞄から中身が散乱していた。
「だ、大丈夫。愛莉ちゃん?」
「はい、なんとか…」
「顔ぶつけなくて良かったね。膝とか擦りむいてないかな?」
「へ、平気です。ちょっとバランスを崩してしまっただけですので」
「教科書飛び出しちゃったね。汚れちゃったら大変だ」
「あわわわ…」
近付いてきた葵が優しく語りかける。散らばったノートや筆記用具をかき集めながら。
「教科書なんて学校に置いとけば良いのに」
「ダメだよ~、ちゃんと毎日持ち帰らないと。宿題が出来ないじゃん」
「んなの適当にごまかせば何とかなるだろ。誰かの丸写しさせてもらうとか」
「そんな事ばかりやってて何回も怒られたのは誰? 真面目にやってれば先生に目をつけられる事もないのに」
「くくっ、痛い所を突きやがるぜ…」
自分も腰を落として手伝いに加わる事に。4人で地面に屈んだ。
「ん?」
作業中に足元の物体に意識を奪われる。赤いフレームのメガネに。
「危ないよ、それ」
「え?」
「踏むと割れちゃう。早く拾わないと」
「……あ」
指摘を受けた落とし主が手を伸ばした。出会った中で一番素早い動作で。
「割れてなかった?」
「あ、はい」
「そかそか。なら良かった」
「すみません…」
破損していない事を確かめた後は他の物も回収していく。辺りを行き交う通行人からは訝しげな視線を向けられた。
「あ、ありがとうございました。とても助かりました」
「うぅん、これぐらい良いよ。それより怪我しなくて本当に良かったね」
「はい。おかげさまで何事もなく荷物も拾えました」
「私もよくやっちゃうから分かるんだ。足元見ないで歩いてたら躓いちゃったり」
「俺はお金落ちてないか、いつも足元を確認しながら歩いてるぞ」
「へぇ、ゆうちゃん偉いね」
「……まぁな」
ボケに対してボケが返ってくる。疑いの感情を持たない天然発言が。
「これからどうすんの~?」
「俺は帰る。めちゃ眠たい」
「あ、なら私もそうしようかな。お母さんに買い物頼まれてるし」
「なら今日はお開きかな。まだ早いけど解散するべか」
時刻はまだ夕方の4時過ぎ。普段ならまだ学校にいる時間帯だが帰宅する流れになった。
「え~、もう帰っちゃうの?」
「嫌ならまだ遊んでけば良いだろ。俺達はもう帰るから1人でな」
「それだと電車乗ってわざわざこの街まで来た意味ないじゃん。せっかくお姉ちゃんや祐人とどっか行こうと思ってたのにさ」
「そんな事言って、お前がここまで足を運んだのは地元だと知り合いや先生に見つかってしまうからだろ?」
「ちっ、バレたか」
「バレないと思ってたのか」
腹黒従妹が本音を炸裂させる。中学生に成り立てとは思えない思考回路を。
「あ、あの…」
「ん?」
「もし良かったら、また今度…」
「また一緒に遊ぼうね、愛莉ちゃん」
「……え?」
そのすぐ横で女子高生組が向かい合って会話をしていた。空気を微妙にギクシャクさせなから。
「私は部活やってるからなかなか都合が合わないと思うけど、たまにはこうして一緒に遊べたら良いよね」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。これは社交辞令とかじゃなく本心。愛莉ちゃんと遊べてとっても楽しかったよ」
「……私も凄く楽しかったです」
「エッヘヘ、そう言ってもらえると嬉しいなぁ」
2人が笑顔を浮かべている。片方は自然に、もう片方は照れくさそうに。
「じゃあ、またね~」
「もう来るなよ~」
「酷い…」
駅に向かって歩く従姉妹を手を振って見送り。妹の方は不服そうな面を浮かべていた。
「……では私も帰りますね」
「ん、気を付けて」
「はい。また明日」
今度は隣にいたクラスメートが立ち去っていく。丁寧に頭を下げながら。気のせいでなければその表情は満足気だった。
「ふぅ…」
良い気分転換になったと思う。少なくとも自宅に直帰していたよりかは。
思いもよらない展開になってしまったが嬉しい誤算。彼女達に少しだけ感謝していた。
「あれ?」
振り向いて歩き出した時、足元に何かが当たる。小さなノートが。
「何だ、こりゃ」
確認すると生徒手帳だと判明。しかもうちの学校のデザインだった。
「火浦……愛莉」
確認するとすぐに持ち主の名前を発見。先ほど転倒した弾みで胸ポケットから落としてしまったのだろう。もしくは鞄に入れていた物が飛び出したか。
「……は?」
彼女の写真と共に記入されたプロフィールに意識が奪われる。そこには目を疑うような内容が記されていた。




