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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
12/129

4 祐人と愛莉ー3

「へぇ、ゆうちゃんがガラスを割った家の子なんだ」


「は、はい」


「私はゆうちゃんと同い年。だから愛莉ちゃんの1つ上だね」


「どうも…」


 女子高生2人が会話を始める。互いの素性を打ち明けながら。


「いい加減その名前で呼ぶのやめてくれって」


「どうしてぇ? 良いじゃない、別に」


「恥ずかしいんだよ!」


「でも昔からこうだから今さら変えろって言われてもなぁ」


「ぐっ…」


 居心地が悪い。知り合ったばかりの人間に思い切り恥部を見られていた。


「いらっしゃいませ~」


 逃走案を考えながらも4人で大通りを歩く。適当に空いてそうなファミレスを見つけると入店。平日なので待ち時間ほぼ無し。窓から離れた中央辺りのテーブルに座った。


「祐人、グラスの中身が空になったからジュース入れてきて」


「あ?」


「10秒以内で」


「自分で行ってこいや、クソガキ」


 向かいに座る従妹がワガママを振りまき出す。偉そうな態度で。


「あ、あの……私が行ってきましょうか?」


「へ?」


「何を入れてくれば良いでしょう。さっきと同じオレンジジュースで良いですか?」


「いやいや、行かなくて良いよ。愛莉ちゃんは座ってなって」


「で、でも…」


「俺が行くから良いって。ついでに自分のも補充してくるつもりだったし」


 動き出そうとしたクラスメートを制止。グラスを2つ手に持ってドリンクバーコーナーへ移動した。


「……ったく」


 初対面の人間の前でも遠慮がない。あまりにも言動が図々しい。


 少々腹が立ったので仕返しをする事に。受け取った従妹のグラスに全てのジュースを混ぜてやった。


「ふひひひ」


 更にガムシロやミルクを投入する。真っ赤なタバスコを入れると中身は茶色く怪しい液体に変色。見たからに不味そうな飲み物になっていた。


「ほらよ。入れてきてやったぞ」


「ん、ご苦労」


「なんで偉そうなんだ、こら!」


「あれ?」


 やや乱暴にグラスをテーブルの上に置く。その中身をすみれが怪訝な表情で見つめだした。


「お姉ちゃん、これ飲んで良いよ」


「え? 良いの?」


「うん。ずっと喋りっぱなしだから喉乾いちゃったでしょ」


「そういえばそうだね。私のコップも空になっちゃったから貰おうかな」


 彼女は味見をしないままグラスを献上してしまう。隣に座っていた姉へと。


「……あ」


 止めようかと思ったが踏みとどまった。ここでネタバレしては意味が無いから。


「んぐっ!!?」


 逃げようか迷っている間に予想通りの事態が発生する。勢いよく中身を吸った従姉の表情が激しく歪んでしまった。


「ゲホッ、ゲホッ! な、何これぇ…」


「え~と、合成ジュース」


「変な味するよぉ……お茶の中に炭酸と砂糖が混ざったような感じ」


 激しい咳が辺りに響き渡る。周りの客の視線を集めてしまうレベルの声が。


「大丈夫、お姉ちゃん!?」


「う、うん。平気」


「ごめんね、私が祐人にジュースを入れに行かせたばっかりにこんな事になるなんて」


「すみれちゃんは何も悪くないよ。本当に大丈夫だから気にしないで」


「……お姉ちゃん」


 健気なフリをする妹と、それに優しく返す姉。目の前で繰り広げられる人間ドラマをクラスメートが不思議そうな表情で眺めていた。


「ちょっと、祐人! 私の大事なお姉ちゃんに何するのさ」


「お前、ふざけんなっ! 絶対中身がなんなのか分かってて渡しただろ!」


「私はただお姉ちゃんに気を遣って譲っただけだよ。それとも祐人は私にこんな変なジュースを飲ませようとして作ったわけ?」


「当然」


「うわっ、最悪。これだから女子に嫌われるんだよね」


「ぐっ…」


 何も言い返す事が出来ない。目論見に失敗した事が恥ずかしくて。


「あの……大丈夫ですか?」


「うん、もう平気。みっともない姿を見せちゃってごめんね」


「いえ、そんな。私はただ…」


「ゆうちゃんっていつもこうなの。人にイタズラばかりしてさ」


「ぐぐぐ…」


「本当に中身が子供なんだから。もう少し大人になってくれれば良いのに」


 一連のやり取りにクラスメートも介入。恥をかかせるつもりが逆に自分が恥をかいてしまった。

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