4 祐人と愛莉ー3
「へぇ、ゆうちゃんがガラスを割った家の子なんだ」
「は、はい」
「私はゆうちゃんと同い年。だから愛莉ちゃんの1つ上だね」
「どうも…」
女子高生2人が会話を始める。互いの素性を打ち明けながら。
「いい加減その名前で呼ぶのやめてくれって」
「どうしてぇ? 良いじゃない、別に」
「恥ずかしいんだよ!」
「でも昔からこうだから今さら変えろって言われてもなぁ」
「ぐっ…」
居心地が悪い。知り合ったばかりの人間に思い切り恥部を見られていた。
「いらっしゃいませ~」
逃走案を考えながらも4人で大通りを歩く。適当に空いてそうなファミレスを見つけると入店。平日なので待ち時間ほぼ無し。窓から離れた中央辺りのテーブルに座った。
「祐人、グラスの中身が空になったからジュース入れてきて」
「あ?」
「10秒以内で」
「自分で行ってこいや、クソガキ」
向かいに座る従妹がワガママを振りまき出す。偉そうな態度で。
「あ、あの……私が行ってきましょうか?」
「へ?」
「何を入れてくれば良いでしょう。さっきと同じオレンジジュースで良いですか?」
「いやいや、行かなくて良いよ。愛莉ちゃんは座ってなって」
「で、でも…」
「俺が行くから良いって。ついでに自分のも補充してくるつもりだったし」
動き出そうとしたクラスメートを制止。グラスを2つ手に持ってドリンクバーコーナーへ移動した。
「……ったく」
初対面の人間の前でも遠慮がない。あまりにも言動が図々しい。
少々腹が立ったので仕返しをする事に。受け取った従妹のグラスに全てのジュースを混ぜてやった。
「ふひひひ」
更にガムシロやミルクを投入する。真っ赤なタバスコを入れると中身は茶色く怪しい液体に変色。見たからに不味そうな飲み物になっていた。
「ほらよ。入れてきてやったぞ」
「ん、ご苦労」
「なんで偉そうなんだ、こら!」
「あれ?」
やや乱暴にグラスをテーブルの上に置く。その中身をすみれが怪訝な表情で見つめだした。
「お姉ちゃん、これ飲んで良いよ」
「え? 良いの?」
「うん。ずっと喋りっぱなしだから喉乾いちゃったでしょ」
「そういえばそうだね。私のコップも空になっちゃったから貰おうかな」
彼女は味見をしないままグラスを献上してしまう。隣に座っていた姉へと。
「……あ」
止めようかと思ったが踏みとどまった。ここでネタバレしては意味が無いから。
「んぐっ!!?」
逃げようか迷っている間に予想通りの事態が発生する。勢いよく中身を吸った従姉の表情が激しく歪んでしまった。
「ゲホッ、ゲホッ! な、何これぇ…」
「え~と、合成ジュース」
「変な味するよぉ……お茶の中に炭酸と砂糖が混ざったような感じ」
激しい咳が辺りに響き渡る。周りの客の視線を集めてしまうレベルの声が。
「大丈夫、お姉ちゃん!?」
「う、うん。平気」
「ごめんね、私が祐人にジュースを入れに行かせたばっかりにこんな事になるなんて」
「すみれちゃんは何も悪くないよ。本当に大丈夫だから気にしないで」
「……お姉ちゃん」
健気なフリをする妹と、それに優しく返す姉。目の前で繰り広げられる人間ドラマをクラスメートが不思議そうな表情で眺めていた。
「ちょっと、祐人! 私の大事なお姉ちゃんに何するのさ」
「お前、ふざけんなっ! 絶対中身がなんなのか分かってて渡しただろ!」
「私はただお姉ちゃんに気を遣って譲っただけだよ。それとも祐人は私にこんな変なジュースを飲ませようとして作ったわけ?」
「当然」
「うわっ、最悪。これだから女子に嫌われるんだよね」
「ぐっ…」
何も言い返す事が出来ない。目論見に失敗した事が恥ずかしくて。
「あの……大丈夫ですか?」
「うん、もう平気。みっともない姿を見せちゃってごめんね」
「いえ、そんな。私はただ…」
「ゆうちゃんっていつもこうなの。人にイタズラばかりしてさ」
「ぐぐぐ…」
「本当に中身が子供なんだから。もう少し大人になってくれれば良いのに」
一連のやり取りにクラスメートも介入。恥をかかせるつもりが逆に自分が恥をかいてしまった。




