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雨上がりの空へ  作者: トランクス
2nd STORY
118/129

9 三度目とお別れー1

「明日でお盆休みも終わりかぁ」


「だねぇ」


 従姉と2人して縁側に佇む。自作のかき氷を食べながら。


「宿題は全部終わった?」


「ん~ん、まだ少しだけ残ってるよ」


「俺、ヤバいよなぁ。夏休みも残り2週間切ってるのにほとんど手をつけてないぞ」


「だからここに持ってくれば良かったのに。ゆうちゃんって去年も夏休みの宿題やらずに登校してたでしょ?」


「違うぞ、正確には去年も一昨年もその前もだ。まともに宿題終わらせられたのは小5の時が最後だな」


「うわぁ……サボリすぎだよ、それ」


 これまでの人生を振り返ってみたが不甲斐ない結果しかない。お手本のような怠け者だった。


「葵は全部終わりそう?」


「ん~、多分大丈夫かな。昼間は部活はあるけど夜にやれば何とかなりそうだし」


「くっそ、なら答えを教えてもらう事が出来ないじゃないか」


「宿題なんだから自力でやりなよ~。それか愛莉ちゃん達に相談してみるとか」


「そだな。まぁスマホが返ってきたら連絡してみるかな」


 目の前で黄色い植物が揺れている。宿題に絵日記があったら良いモデルになりそうなヒマワリが。


「で、アイツは大丈夫なのか?」


「ん?」


 スプーンを口にくわえながら後ろを指差した。額に冷えたタオルを乗せて横たわっている1人の人物を。


「ど、どうかな…」


「すみれも宿題ここに持ってきてないんだろ? なら俺と一緒でほとんど手を付けてないんじゃないのか?」


「けどすみれちゃんは家だと普通に勉強してたよ。だからもしかしたらほとんど終わらせてたりするんじゃないかな?」


「マジか……なら俺だけがサボリ続けてしまったというのか」


「うん。そうだね」


 いつもは元気な従妹がグッタリとしている。その原因は体調不良。夏風邪をこじらせてしまい昨夜からずっと寝込んでいた。


「アイツでも風邪引く事あるんだな」


「当たり前だよ。すみれちゃんだって人間なんだもん」


「あ~あ、出来る事ならコイツみたいに中学生に戻りてぇ」


「でもゆうちゃんは中学生に戻ってもやっぱり宿題やらないんでしょ?」


「あったり前じゃん。戻ったら必ず小学生に戻りたいって言うに決まってる」


「ほらね」


 欲望も願望も留まる事を知らない。どれだけやり直そうが不満が出てくるのは必然だった。


「そういやさ、俺たち明日帰るじゃん?」


「ん?」


「もしアイツの体調が悪いままだったらどうすんの?」


「あぁ、私もそれ思ってた」


「さすがにこんな状態での移動はキツいだろう。2時間以上は車内に揺られてないといけないんだし」


「そう考えると厳しいよねぇ。Uターンラッシュで人も多いもん」


「悪化させて周りにウイルス拡散させそう。全員、風邪でダウンする展開は勘弁だぞ」


 公共の乗り物と違って移動時間や到着時刻が確約されていない。それは病人にとっては最悪ともいえる状況だった。


「むぅ……やっぱり誰かここに残っていくしかないのかなぁ」


「おう」


「でも誰が残ればいいんだろ」


「そりゃ、葵かおじさんおばさん達の誰かだろ」


「ん~、でも私は明後日から部活始まるんだよねぇ。部長だから休むわけにはいかないし」


「え、お前……部長になったの!?」


「お母さん達も仕事が始まるからやっぱり無理だし、ゆうちゃんのおじさんも休みは明日までって言ってたし」


 会話中、衝撃的な言葉が耳に入ってくる。思わず持っていたスプーンを落としてしまうような報告が。


「……なんて事だ。まさかオッチョコチョイな天然が部長という重役を任される日がくるなんて」


「そう考えるとゆうちゃんか、ゆうちゃんのおばさんしかいないかなぁ。でもおばさんも町内会の集まりがあるって言ってたからゆうちゃんかなぁ」


「誰だよテニス部の顧問……こんな奴に責任者やらせたらダメだろ」


「あ、あの……私の話聞いてる?」


「お前こそ俺の話聞いてないな」


 2人してお互いの顔を直視。会話のテンポが全く噛み合っていなかった。


「とりあえず明日までにすみれちゃんが元気にならなかったら、ゆうちゃんが残るって事でいいかな?」


「はぁ? 嫌に決まってんだろ。俺は一刻も早く家に戻って宿題に取り組みたいんだよ!」


「で、でも一番融通が利くのはゆうちゃんだし……それに凄く暇してそうだし」


「ふざけんなっ、メチャクチャ忙しいっての! こんなクソガキのお守りなんかしてられるかっ!」


 意見に反論するように立ち上がる。空になったかき氷の皿を床に叩き付けながら。


「やいやい、テメェ! 明日までに回復しなかったら許さんからな!」


「ちょ、ちょっとぉ!」


「意地でも病気治せよ。万が一このままの状態だったなら捨てていく。厳しいがそれが社会の現実というものだ」


「さすかにそれは可哀想だよぉ…」


「強くなれ、病を克服してみせろ。その時にお前は新しい力を手に入れているハズだ」


 続けて背後に敷かれた布団に移動。自分勝手な理論を力説した。


「祐人、うるさい!」


「え?」


「元気があるなら庭の草取りしてきなさい。鎌持って」


「嫌だよ、クソ暑いのに。こんな時に外で長時間労働してたら熱中症になるわ」


「たまにはぶっ倒れるぐらい誰かの役に立ってきなさいよ」


「なんつー非人道的な発想」


 喚いていたら母親に叱られてしまう。冷徹な口調に。


「ちっ…」


 後は天に運命を任せるしかない。従妹が自力でウイルスを撲滅してくれる事を心の底から願った。

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