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雨上がりの空へ  作者: トランクス
2nd STORY
110/129

7 災難と遭難ー3

「お姉ちゃんとは会えた?」


「む…」


「あんな草むらで何してたのさ。山菜でも採ってたの?」


「……んっ」


「そんな格好だと歩きにくくない? 山道は特に」


 前を進む人物に声をかける。空気を読まず積極的に。


 1人で行動しているぐらいだから姉の方とは合流出来ていないのだろう。会えたのに逃げ出した可能性もあるが。


 街灯のない道をスタスタと歩行。サンダルが地面を擦る音が何度も響き渡った。


「ねぇ。本当にこっちの方角で合ってんの?」


「ぐっ…」


 ふと不安に駆られて質問を飛ばしてみる。進んでいる道が明らかに下を向いていたので。


 少なくともここに来るまでの間に坂を登った記憶は無い。なので平地を進むのが正解のハズだった。


「……お化けとか出ないよな」


 妖怪でも出そうな雰囲気が辺り一面に広がっている。不気味で漆黒とも呼べる暗闇が。


「はぁ…」


 対話相手は言葉を失っているので会話は成立しない。自分が声を発さなければ沈黙が付きまとってしまうという気まずい状況だった。


「お~い、お~い」


「……む」


「瑠那さ~ん」


 意見を窺う為に名前を呼んでみる。やや大きめの声で。


「道、これで合ってんの?」


「う…」


「どんどん人気が無くなっていってるんだけど」


 彼女が立ち止まったので質問を投下。しかし期待も虚しく睨み付けるというリアクションだけが返ってきた。


「……まさか君まで迷子になってるなんてオチは無いよね」


 自分と違って地元民なんだからその可能性は低い。ただ同時に梓に聞かされた話を思い出した。


 彼女は元々は別の町の住人。親の再婚をキッカケに引っ越してきたのでこの場所は生まれながらの故郷ではなかった。


「いや、けどな…」


 再婚は半年前に行われていたらしいから少なくとも知らない土地ではないハズ。ただどう考えても目の前を歩いている女の子は自宅を目指しているように思えなかった。


 安心しきった心に再び不安が降りかかる。プラス恐怖感が。2人して山道を下っていくと、やがて小さな川へと辿り着いた。


「どこ、ここ…」


 全く見覚えがない。辺りを見渡してみたが橋はなく、以前に釣りをしていた所とは別の川だった。


「……む」


 隣にいる相方も体が硬直している。どうやら自分でも思ってもみなかった場所へとやって来てしまったらしい。


「あ、おいっ!?」


「うぅ…」


「足、濡れるって!」


 引き返すかと思ったのに彼女はそのまま前進。水面にサンダルごと突っ込んでしまった。


 川は比較的浅く、川原部分もあったのでそこを進めば着水する事はない。ただ周りが暗かったので視界は最悪。どこが水場でどこが陸地なのかの判断がつきにくかった。


「……やれやれ、仕方ないな」


 さすがにここで見捨てる訳にはいかない。別行動をとるメリットは皆無だから。


「うひゃあ、ちべたい!」


 自分も覚悟を決めて川に突入する。山の自然水なので思っていたより水温は低かった。


「くっそ…」


 そして足元を濡らしながらも何とか渡る事に成功する。舗装されていない対岸に。


「なぁ、これ絶対適当に進んでるでしょ」


「ん…」


「大人しく引き返そうぜ。民家がある場所に行けばとりあえず何とかなるから」


「……う~」


「お~い、話聞いてる?」


 後ろから何度も声をかけるが彼女はそれを全て無視。目線も合わせてはくれなかった。


 このまま闇雲に突き進めば本格的に迷子になりかねない。野生動物に襲われて命を落とす可能性さえ視野に入れなくてはいけなかった。


「瑠那~、瑠那~」


「んっ!」


「おい、ちょっとは人の話に耳を傾けろや。興奮した牛じゃあるまいし」


「……ぐっ」


「まだ体触ったりスカート破いた事を根に持ってんの? 謝るから仲直りしようぜ」


 ぶっきらぼうに和解の提案を持ちかける。その意見に同意なんかするハズがないと理解した上で。


 それから当てもなく散策を継続。時計もケータイも持っていないので現在時刻を知る手段さえ存在していなかった。


「……あ」


 ふと頭上にポッカリと空いた空間に意識を奪われる。強い光を放っている黄色い物体に。


「綺麗だなぁ…」


 満月に近いのでいつもより明るい。それに加え辺りは暗闇。照明のような役割を果たしてくれていた。


「……ぅあっ!?」


「ん?」


 星空に見とれていると突然前方から大きな音が聞こえてくる。草木を激しく揺らした音が。


「おいおい、何やってるんだよ」


「うぅ…」


「大丈夫か?」


 視線を移した先に倒れている相方を発見。駆け寄って優しく声をかけた。


「……うぁ」


「もしかして怪我したんじゃ…」


「ぐうぅ…」


「見せてみ。骨が折れてたら大変だ」


 サンダルが脱げかかっている足首を掴む。暗がりで分かりづらいが出血したような傷は見当たらない。


「あれ? 無傷じゃん」


「んんっ!」


「おっと!? 悪い悪い、別に変な意味で触った訳じゃないし」


 直後に平手が顔面に飛んできた。当たったら確実にダメージを負っていたであろう攻撃が。


 身の危険を感じたので慌てて距離を置く。彼女は苦しそうに立ち上がると再び山道を登り始めた。


「……元気だな」


 どうやら打ち所が悪くて苦しんでいただけらしい。やせ我慢という可能性もあるが。


「はぁ…」


 怪我人を背負わなくていい事に安堵するが喜べはしない。遭難状態という問題は何一つ解消されていないからだ。


「皆どうしてるかな…」


 きっとこんな時間まで連絡も無しに外出しているから心配しているのだろう。自分の家族も彼女の家族も。


 初めは母親に叱られる展開に怯えていた。しかし今は無事に帰宅出来るかどうかの方が不安になってきていた。

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