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二章 4話 S級英霊

「俺がお前のマスターだよろしくな!」


 そう言って下級神レナと契約を結んでくれたのは、茶髪のハーフエルフの少年リアンだった。彼は皆が無能英霊と罵るのに、それでもかまわないとレナと契約を結んでくれた。

 

 それがとても嬉しくて、思わず涙がでてしまいそうになるが、レナはぐっと堪える。


 そう――喜んでいる場合じゃない。自分のせいでマスターはS級英霊と決闘することになってしまったのだ。


 学園の中庭に位置するバトルフィールドの決闘場。丸い大きな魔方陣の上で、英霊同士の決闘が行われる。相手はS級。それにくらべ自分は幼い少女で、武器といったら鎖鎌くらいで、攻撃のスキルは何一つ持ち合わせていない。


 召喚される前の記憶があいまいでよく思い出せないけれど武器による戦闘はそれほど強くなかった気がする。


 ――それでも、勝たないと。


 マスターの期待に応えないと。

 目の前に立つ大男の英霊を睨みつけ、レナは鎌を構える。


 本当は怖い。身体が震えているのがわかる。いくら死んでも生き返られるといわれても、怖くて仕方ない。でも、それでも、無能な私を拾ってくれた。だからマスターのために勝つ。


「レナ。無理はしなくていい。後ろに下がってろ」


 マスターの言葉にレナは振り返った。

 どういう事だろう?

 ひょっとして敵いそうにないから棄権でもする気なのだろうか?

振るえていたから失望されてしまった?

顔を真っ青にしながら、うつむくと、マスターは笑ってレナの頭を叩いてレナと相手の英霊の間にどでんと立つ。


「お前は立っているだけでいい。戦い方はこれから覚えていけばいいだけだ。まぁ見てろ。お前の無限の可能性をいま俺が魅せてやる」


 そういって英霊と対峙したのは、マスターだった。



★★★


「まさか生身のお前が戦う気か?」


 俺がレナを後ろに下がらせて、S級英霊と対峙すると、グドルがあざ笑いながら言う。

 

「もちろん。そもそも術者が戦っちゃいけないなんてルールはないからな。そのために術者にも攻撃OKにしたんだろ?」


 俺が挑発するようににんまりして言うと、グドルがにたぁっと笑った。

 どうせ俺をボコボコにできると喜んでいるのだろうが。

 

 やっぱり屑だなこいつ。


 本当なら肉体的にぼこぼこにしてやりたいところだが、さすがにこれから学園に入学にするので、それをやるのはまずい。


 こいつがこんなに威勢がよくて、傲慢なのに誰も注意しないのは伯爵家という以外にも理由がある。こいつも優秀で、ダンジョン攻略の期待の新人なためそれなりのわがままが許されていると、弟の作ってくれた書類には書いてあった。


 というわけで、そのプライドをズタズタに引き裂いてやろうと思う。


「無理よ!!やめなさい!!」


 女教師がバトルフィールドに張られた結界をバンバン叩いて制止にはいるが、それを無視してグドルが戦闘スタートボタンを押した。


「死ね!! 生意気なクソガキめ!!!」


 グドルの叫びが戦闘の合図。


 俺はすぐさまナイフで自分の手を切ると、そのまま血を流す。


「な!?」


 グドルやギャラリーが驚いたが、そんなことおかまいなしにS級英霊は殴りつけてきた。

 格闘クラスのS級英霊。

 まじものに殴り合っていたら勝ち目はない。

 

 大賢者時代の魔法を使う事もできるのだが、さすがに前世の魔法は隠しておきたい。

 というわけで、いま俺がこの世界で使えるのは、この世界で一般的に普及している魔法で、俺が知っていてもおかしくない魔法ということに限られてしまう。

 この世界の魔法もわりかし改良しまくってやったがここで披露するのは流石にはやい。


 一番手っ取り早いのがこの魔力に血を混ぜ込むこと。

 一部の術者は術の威力があがると、やる技だ。この世界では珍しい方ではない。


 がしんっ!!!


 S級英霊の拳を、血をまぜた魔法を薄く大きく拡散させ硬質化させ目の前に大きな盾として展開して遮った。


「んな!?」


 その場にいた一同から驚きの声が漏れ、S級英霊も自らの拳が遮られ目を細め、慌てて後ろにあとずさって距離をとる。

 むやみやたらに近づくと危ないと直感したらしい。

 流石他の世界でそれなりに修練を積んでいたであろう英霊ではある。

 見切りもはやい。


 本当は相手がこちらの手をしらないうちに一撃必殺で倒すのは簡単だった。

 だが、今回の目的はレナの力すごいアピールをしつつ、自信のないレナに硬質化の可能性を見せ、あの糞いけすかない傲慢な貴族のプライドをずたずたにすること。


 一発で終わらせるのは駄目だ。

 実力の差をおもいっきり思い知らせてやるべきだ。

 学園で横暴だからとかそんな理由じゃない。

 理由はただ一つ。


 この俺様が気に入らないからだ。


「な、血を媒体に魔力そのものを硬質化だと!?」


「そうだ。体の一部ならなんでも硬質化できるって書いてあったじゃないか。忘れてたろう?魔力に血を混ぜ込んだおかげで体の一部判定になった。それを操ればこれくらい容易いこと」


 俺がせせら笑って言うと、


「そ、そんな力あるなんて聞いてないぞ!」


「はっ。神クラスなのを甘く見ていたお前の落ち度だ」


 ばーんと指をさして俺が言ってやる。


 が、実は、英霊所持者も硬質化を使えるなんて力、レナは持ってない。

 将来的に英霊レベルがあがって身に着ける可能性もあるが、現在はその力を所持しておらず、ぶっちゃけ俺の力だ。前から硬質化は使えたのでそれを使っているだけなのである。

 この世界は魔力をまぜた血も体の一部という設定なため使える裏技。

 俺の本来持っていた硬質化もその定義を適用させた。

 だがこの力が俺なのかレナの力なのか、他者から見る術はないので嘘をついてもばれないのでどうでもいい。

 

『いいか、レナ。これがお前のもっている力がもつ無限の可能性だよく戦い方をみておけ』


 俺が小声で言うと、レナは力強くうなずいた。


 S級英霊が殴りつけてくるのを簡単にかわすと、魔力を硬質化させてそのままS級英霊にまとわりつかせようとするが、S級英霊もそれをさせまいと後方に飛び、それを避けた。

 

「ははっ。残念だったな英霊さんよ。ここがバトルフィールドということがあんたにとっては致命的だった。あんた得意の全体攻撃の大技はマスターを傷つけるためにつかえない。間抜けにもあんたのマスターが俺をボコりたい一心でマスターもバトルフィールド内で戦う設定にしたからな。大技がつかえなくなることなど考えもしない馬鹿なマスターを持つと大変だ」


 俺がそう言うとグドルの顔が青ざめた。


「無能なマスターを持つと難儀だな。お前の敗因は、お前の実力じゃない、マスターの無能さだ。そして俺はそいつと違って優秀だ。あとは言わなくてわかるよな?」


 俺の言葉に英霊が身構える。俺の挑発で突っ込んでくるかとおもったが意外と冷静な英霊らしい。マスターを守ることを最優先したようで、自らのマスターから距離をとった。

 突っ込んで来たら突っ込んでくる力を利用して串刺しにしてやるつもりで魔法を展開していたの察知し、俺がこれからやろうとしている事もたぶん予測している。だからマスターと距離をとったのだろう。この英霊は魔力の動きがみえる。


「ど、どういうことだ」


 グドルがたじろいで聞くと、俺はにまぁっと笑う。


「忘れたのか、俺は魔力最強の神童だ。ここを満たすくらいの魔力を持ち合わせているんだよ。これだけ言えばいくら頭の悪いお前でもわかるだろう?」


 俺の言葉にグドルが「うなっ!?」とよくわからない声をあげた。

 あいつもやっと気づいたようだ。

 レナの力がいかに偉大かということが。


「さぁ、馬鹿にしていたC級英霊に負ける気分をとくと味わってもらうか?」


 俺の言葉と同時にバトルフィールドの中を埋め尽くした魔力がそのままS級英霊にもまとわりつく。バトルフィールド全体に魔力展開していて逃げ場がないのでどうしようもない。そしてそのまま俺は英霊の上の空間全てを硬質化。S級英霊は動けば自らのマスターも巻き込んでしまうことを悟ってなすすべもなく圧迫され霧散した。

 

「う、うそだS英霊が負けるなんて、嘘だ、嘘だ」


 唖然と膝をついたグドル。

 バトルフィールドをほぼ埋め尽くした硬質化した物体を信じられないという表情で、見つめてる。


 まぁ、無理もない。

 今のところ人類が所持している英霊で1,2を争うと言われていたほど優秀なS級英霊がやられたのだ。そりゃショックだろう。

 けしてあの英霊が弱いわけじゃない。あの英霊の所持スキルなどがバトルフィールドとの相性が悪すぎた。この戦いもグドルが足を引っ張らないという条件下ならもっと善戦しただろう。


 

 それにS級英霊は決して弱くはなかった。

 判断力もいいし、戦いのセンスもある。ただ、彼にとってこれは本気をだすほどの戦いではなかったというのもあるだろう。

 マスターを守るということを優先したのはそういうことだ。

 おそらく彼もこの決闘自体に価値など見出していなかった。あまりやる気も感じられなかったというか、レナをぼこると聞かされたとき明らかに不機嫌だった。

 それでも従わないといけない彼には同情する。


 英霊の方は慰めてやってもいい。

 だが、グドルの方は慰めてやる気なんてこれっぽっちもない。

 負けて戦意喪失しているいまこそ、追い込むチャンス。

 そのプライドをずったずったのボロボロに全力で罵ってやろうっ、と俺が嫌味を言うため口を開けようとした途端。


「――何をしているんですか、兄さん」


 物凄く聞き覚えの声が俺の行動を制止するのだった。


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