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第16話 聖都市ディラン。

聖王国ディラン。

神聖なる神アディスを崇拝し騎士道を重んじる、聖なる騎士の国。

いまディランは慌ただしくなっていた。

シャルデール帝国が一方的な宣戦布告をしてきたのだ。


「アレキア様」


名を呼ばれてアレキア・キュラウス・ディランは振り返った。

金髪の凛々しい顔立ちをした少女。

弱冠18歳にして聖騎士ディランの名誉ある称号を賜った聖王国ディランの姫。

部下に呼ばれ少女はその部下に視線を向ける。


「何かわかりましたか?」


「はい。帝国はすでにハウドラの丘を越え、国境付近に到着しております」


「近隣の村の避難は?」


「終了しております。敵の先陣の司令官は帝国の第一皇女。一万の兵を引き連れており、魔道兵器もかなりの数所持しております。開戦は免れないでしょう」


「わかりました。皆に油断なきよう伝えてください」


 アレキアの答えに部下は「はっ」と答え、鎧をガチャガチャ音をたててそのまま去っていく。


(帝国は一体何を考えているのでしょう)


 現帝国皇帝は野望高き人物だとは聞いていた。

 それでもこのような一方的な宣戦布告による侵略は許されるものではない。

 人間同士の争いは魔族を喜ばせるだけだ。

 確かに今は魔族たちは闇に潜み平和な時世ではある。だからといって人間同士で争っていいわけではない。


「とにかく、このような横暴を許すわけにはいきません。必ず返り討ちにしてみせましょう」


 そう誓いアレキアは砦の前に視線を向けた。

 そこには魔道具師デネブから買った人間よりも二回り大きい起動型ゴーレムが数体鎮座している。このゴーレムはディランの人々に危害を与える物を認知し、攻撃破壊するようにプログラムされている。デネブのゴーレムがあるかぎり、そう簡単にやられることはない。


 それでも、出来れば帝国とは戦いたくなった。

 まだ先代の皇帝が生きていた頃は、帝国と聖王国ディランは交流があった。

 その時に第一皇女とも親睦があったのだ。まだ幼い帝国の皇女と聖王国の姫。

 アレキアと第一皇女シャルロッテは気が合い、二人で未来を語った。


 世界を平和にして、魔王がきても立ち向かえるくらい強い国にしよう。


 笑いあいながら二人で語った未来。


 けれど、前皇帝が暗殺され現皇帝が帝国を仕切るようになってから、世界ではあちこちで戦争がおこり、第一皇女も皇帝には逆らえず、皇帝の忠実な手ごまとして戦争をはじめるようになった。


『絶対平和な世界にしてみせるんだ!』


 昔、花園で微笑んだ、第一皇女の顔が浮かび、アレキアは皮肉めいた笑みを浮かべる。


 時はいつだって残酷だ。

 清きものを平気で闇に染める。

 ならば私はそれに抗うまで。


「さぁ、来なさい帝国の者よ。私達は民を守るために闘いましょう。聖騎士の名に懸けて」


 アレキアは剣を構えるのだった。



★★★


「第一皇女見えました」

 

 部下の言葉に第一皇女は馬をとめ、進軍をとめる合図をおくる。

 はるか眼前には聖都市ディランを守る鉄壁の要塞が鎮座している。

 第一皇女の任務はその砦を落す事。


 まだ祖父が皇帝だった時代、よくアレキアと過ごした要塞でもあった。

 厳格で公明正大な祖父が生きていたころは帝国もいまのような戦にあけくれるような国ではなかった。

 だが、父が皇帝になってからというもの常に血に飢え、どこかを血で染めている。


 なんどかやめるように進言はした。けれど父の横暴は日増しに酷くなり…‥最後には母と妹、そして帝国民をも人質にとり第一皇女を逆らえなくしたのだ。


「逆らうか。ならば、お前の母とお前の母の故郷がどうなってもいいのか」


 横暴な行動をいさめたときに言われた言葉。その言葉に第一皇女は押し黙るしかなかった。皇帝はどんな冤罪をきせてでも気に入らない者は落とし、貶める。

 祖父の世代に仕えていた優秀で正義感のある人材がどんどん処罰され死んでいったように。母の住む領地も冤罪を着せさせられ母を葬るのは可能だろう。


 第一皇女に逆らう術などないのだ。皇帝に逆らえるとしたら祖父の代に仕えていた双璧くらいだが、彼らとてうごけば大規模な戦争は免れない。双璧は祖父との血の約束を守り、帝国の守護だけに力をいれていて、領地からでてこない。結局はみな押し黙り皇帝の横暴に黙って従うしかない。


 第一皇女は視線をディランの鉄壁の要塞と呼ばれるグランにむける。


 幼き日をともにした、清くそして強い聖王国の姫であり騎士アレキア。


(……君に討たれるなら悪くないかもしれないな)

 

 第一皇女は皮肉めいた笑みを浮かべるのだった。



★★★


「お父様!!!」


 辺境であるカンドリア。その地にて、カンドリア公爵の娘ラシューラは、父の書斎の扉をばんっとこじ開けた。


「ラシューラどうしたのだ?」


「どうしたのではありません!帝国が聖王国に戦争を仕掛けたと」


 娘ラシューラの言葉にカンドリアはため息をついた。


「知っている。そのすきをついて帝国が狙われぬように、我らは防御をさらに固めねばならぬ」


「そういう事を言っているのではありません!!このような大義のない戦争をお父様はお許しになるというのですか!!」


 怒りをあらわにばんっと机を叩く娘。


「いい加減にしなさい。そのような事を聞かれたら、謀反の意志があると思われる」


 ラシューラとは目もあわせず、公爵が言うと、ラシューラはわなわなと肩を震わせたあと


「お父様は臆病者です!!主の間違いを正すのが臣下のはずなのに!!」


ラシューラが叫んで部屋をでて行った。その背後を公爵が見送ってため息をついたその瞬間。空間がぐにゃりと歪む。


『まったく自分が人質にとられて身動きが取れないのを知らずにいい気なものね♡』


 歪んだ空間から現れるピンク髪の女性魔族。公爵は目を細め、


「誰がでてきていいといった」


 と、そのまま睨み返すのだった。


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