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ロマンス・カラコール

お前が俺のことを好きだと知ってしまった。だから、俺がお前のことを好きなことも知ってくれ!

作者: 羊光

 ――――ヒロイン視点。


「いえーい! 真面目に授業を受けて偉いね!」


 私は授業中に明人へちょっかいを出す。


「…………」


 でも、明人は私のことなんてまったく気にしていない。


「ねぇ、これならどう?」


 私は制服のスカートの端を掴んで、パンツが見えないギリギリの範囲でパタパタとさせる。


「ほら、こんな間近で同級生の女の子が際どいことしているよ~~」


「…………」


 でも、明人は相変わらず無反応だった。


「ふふふ、じゃあ、私のとっておきの秘密を教えちゃおっかな」


 私は明人の耳元へ近付いた。


「実は私、明人のことが好きなんだよ」


「…………」


 私の愛の告白に対して、明人はやっぱり無関心だった。


 それを見て私は悲しくなる。


 明人は私を無視しているわけじゃない。

 

 明人には私の姿が見えていないし、声が聞こえていない。


 だって、私は…………


「もう死んじゃったんだもんね……」


 明人へ伸ばした手が彼の体をすり抜ける。

 こんなに近くても明人には触れられない。



 ――――ここから主人公視点。


 俺には由奈という名前の幼馴染がいる。

 インドア派の俺とは違って、身体を動かすことが好きな奴で良く山や川へ連れて行かれていた。


 そのくせ、危なっかしい所があって、山の傾斜を滑ったり、川に落ちたりとよく怪我をしていた。


 高校生になってからは多少、年頃の女の子らしくなってきたのにな…………


(木の上から降りられなくなった猫を助ける為に木登りするなんて…………)


 その上、猫に暴れられて木の上から落ちてしまった。


 それが一週間前のことだ。


 由奈は木から落ちて死んでしまった。

 …………と本人は思っているみたいだが、実はそういうわけじゃない。


(お前、そのスカート、パタパタさせているやつ、パンツが見えているからな!)


 現在、由奈には二つの想定外が起きている。


 一つは俺に由奈が見えていることだ。

 俺に霊感があるかは知らないが、とにかく俺にだけ見えている。


 そして、もう一つは由奈がまだ生きているということだ。


 由奈は確かに木から落ちた。

 かなりまずい落ち方をしたので、一時は生死の境を彷徨ったが、どうにか助かった。


 そして、今日、幽体化した由奈が教室にいたのだ。




 由奈は俺に喋りかけてきたが、あまりの事態に混乱して、話しかけられても無視をしてしまった。


 それが事態を悪化させる。


 俺や他の誰からも反応をもらえず、由奈は自分が死んだと思ってしまった。


 その結果、「子供の頃からずっと好きだった。付き合いたかった。結婚したかった」と泣きながら、告白をされてしまったのだ。


 こんな告白を聞いた後に「実は見えていました」と言ったら、由奈は発狂するかもしれない。


 現在、由奈の体の容態は安定しているが、目を覚ます気配がない。

 それに加えて、幽体の由奈に出会うなんて現実離れした状況だ。

 もし、彼女の精神にショックを与えて、事態が悪い方向へ向かったら、と考えると恐ろしい。


 というわけで、俺は由奈の無視を続けている。

 俺が由奈を見えないふりをしているとその行動はどんどんと悪化していった。


 三限の授業中にスカートをパタパタさせていると思ったら、四限目の時にはブレザーを脱いで、シャツのボタンを一つ開け始めた。


「なんか、イケない解放感で満たされる……」


「…………」


 誰にも見えないことで不健全な快感を覚え始めているようだった。

 こいつ、このまま行ったら、午後の授業では裸になったりしないだろうな。


 さすがにそこまではしなかったが、「好き」とか「結婚しよ」とか「私は処女だよ」とか普段は言わないことを連呼する。


 お前、普段そんな素振り一切なかったじゃん!

 男友達かよ、って距離感で接してきただろ!


 そのせいで俺は由奈に見えていることをどんどんと言いづらくなってしまった。


 この状態をどうしようかと思っていると一日が終わる。


(あっ、そうだ)


 俺はあることを考えて、教室を出た。


「おっ、帰宅? 私、このまま明人に付いていっちゃおうかな?」


 そう言いながら、いつものように俺の後を付いて来る。


 よし! と正直、思った。


 このまま病院へ行こう。

 そして、ベッドで寝ている由奈自身と対面すれば、意識を取り戻すかもしれない。


 俺がそう思って、バスに乗って、由奈の実体が入院している病院へ向かった。


 案の定、由奈は付いて来る。


「バスにタダで乗れるなんてラッキー」などと由奈は俺の気持ちも知らないで気楽なことを言う。


 そして、病院へ到着した。


 後はこのまま由奈が寝ている病室へ行けば良い。


 そう思っていたのに……


「びょ、病院? 誰か入院しているの? じゃあ、私が邪魔するのは悪いよね」


 由奈はそう言って、立ち去ろうとしてしまった。


 おい、ちょっと待て!

 俺はお前(実体)に会いに来たんだよ!


 しかし、それを由奈本人に言うわけにもいかず、

「今日も来たぞ、由奈」

と俺はかなり大きめの独り言を呟いた。


「えっ?」と由奈が驚きの声を漏らしたのが聞こえた。


「それはどういうこと?」という由奈の質問には答えず、俺は病院へ入る。


「明人君、今日も来たのね」とここ数日で仲良くなった看護師に言われる。


「部活もしてなくて、暇だからですよ。面会って、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。もう少ししたら、由奈さんのご両親も来るわ」


 許可をもらった俺は由奈の病室へ向かった。


 病室の中へ入ると由奈が眠っている。


「えっ? 私?? 生きてる??」


 由奈は混乱していた。


 でも、ここまで幽体の由奈を連れて来たのに、実体の由奈は目覚めない。

 由奈は幽体のままだった。


「そうだ、分かった!」


 由奈は解決法を思う付いたようで、自分自身の体にダイブした。


 しかし、由奈は自分自身の体をすり抜けてしまう。


「あれ? 昔見たアニメだと、これで戻れたのに!」


 由奈に期待した俺が馬鹿だった。

 解決法をアニメに求めるなんて……


 でも、どうしたら、由奈は目を覚ますんだ。

 ここまで連れてきたのに駄目なのか?


 俺は何か方法はないかと考える。


 その結果、俺は恥ずかしくて、馬鹿馬鹿しい方法を思いついてしまった。

 俺も由奈のことを馬鹿に出来ないな。


 俺は寝ている由奈の手を取る。


「由奈、お願いだから目を覚ましてくれ」


「…………」


 俺は寝ている由奈へ語りかけた。


「お前がこのままいなくなるのは嫌だ。また一緒に遊びたい」


「明人……」


「それに……それに俺は……」


 この先の言葉を言うことを躊躇ってしまった。


 いくら、由奈の気持ちを知っているとはいえ、恥ずかしい。

 でも、これで由奈の目が覚めるなら、と思って覚悟を決める。


「お前のことが好きだ」


「えっ?」


「お前と結婚したい。お前を一生、大切にしたい。だから、目を覚ましてくれ!」


 体中が熱くなった。


 本人が目の前にいるのにこんなことを言うなんて恥ずかしすぎる。


「私だって、こんな状態嫌だよ…………」


 由奈は声を震わせた。

 多分泣いていると思う。


「でも、戻り方が分からないんだよ!」


「奇跡でもなんでも起こしてくれ!」


 俺は寝ている由奈へ言うふりをして、幽体の由奈へ言った。


 由奈の気持ちは知った。

 俺の気持ちは伝えた。


 由奈が目を覚ませば、今まで以上に楽しい日々になるのは間違いない。

 このまま由奈が目を覚まさないなんて嫌だ!


「頼む、由奈、目を覚ましてくれ」


「明人……」


 由奈が呟くように言う。


「仕方ないなぁ。そこまで言われたら、目を覚ましてあげるよ」


「だったら、早く……えっ?」


 俺はその声に驚く。

 だって、今まで幽体の由奈は俺の後ろにいた。


 なのに今の声は前から聞こえたのだ。


 俺が顔を上げるとベッドの由奈が目を覚ましていた。


 起きたばかりなのに、目をぱっちりと開いている。


 そして、ニヤッと笑った。


「うんうん、そうかそうか。明人はそこまで私に惚れていたか~~」


 由奈は勝ち誇ったように言う。


「…………何の話だ」と俺は惚けてみる。


「実は少し前から目を覚ましていたんだよね~~」


 嘘つけ、幽体で俺の話を聞いていたんだろ。


「だけど、明人がいきなり愛の告白をし始めるから、面白くなって寝たふりをしちゃった。聞いてるこっちが恥ずかしくなって、笑うのを必死に我慢したよ」


 いきなり告白してきたのはどっちだ。

 今日一日中、反応しないようにするのが大変だったんだぞ。


 お前、ここはドラマみたいに、

「明人の声が聞こえたら、戻って来れたよ。ありがとう」

ぐらいの反応が出来ないのかよ!


「まぁ、私としては明人はただの幼馴染だし、そんな熱烈な愛の告白をされると困るんだけどな~~」


 何だか、由奈の反応がめんどくさくなってきた。

 こいつはロマンチックな展開を作れないのかよ。


 由奈の名誉の為に思って、こいつの今日の蛮行は墓まで持っていくつもりだったが、もう知らん。


「一限目、突然の告白」

「えっ?」

 由奈は真顔になった。


「二限目、俺の周りをグルグルと回ってから二度目の告白」

「はい?」

 由奈は目を丸くする。


「三限目、スカートをパタパタとさせる。パンツの色は白。そして、三度目の告白」

「ちょ、ちょっと!」

 由奈は顔を赤くした。


「四限目、ブレザーを脱いで、シャツのボタンを外す。露出癖に目覚め始める。四度目の告白」

「待って!」

 由奈はさらに顔を赤くする。


「昼休み、寝たふりをしている俺の体を貫通して遊ぶ。五度目の告白。五限目……」

「待てって言っているでしょうがぁぁぁぁぁ!」


 由奈はついにキレた。


 一週間、寝たっきりだったとは思えない力で俺の胸倉を掴む。


「あ、あんた、まさか……」


 その後の言葉を言えないのか、言いたくなのか、口をパクパクさせる。


「いや~~、俺に霊感があったなんて驚きだ。それか幼馴染の絆かな?」


「その絆をここで終わらせて良いかな!? じゃあ、なに!? 今日一日中、私の存在に気付いていて、無視して、私が醜態を晒すところを笑っていたの!?」


「笑ってない。引いてた」


 言った瞬間、俺は由奈から鋭いボディブローがを喰らってしまった。


「悪趣味! 変態!!」


「変態はどっちだ?」


「そ、それは……とにかく、すぐに声をかけてくれれば、私は恥ずかしい思いをしなかったのに!」


「しょうがないだろ! ベッドで寝たっきりになっているはずの由奈が教室にいて、気が動転したんだ! 気持ちに整理をつけて、声をかけようと思ったら、いきなり告白してくるし……。もし、告白したと後に『実は見えてました』なんて言ったら、お前、発狂するだろ?」


「当然だよ! ポルターガイストを起こす自信があるよ! そして、今、発狂しそうだよ!」


 いや、もう発狂しているだろ。


「だから、見えないふりに徹しようとしたんだよ!」


「じゃあ、最後まで徹してよ!。なんでネタばらしをしたの!?」


「お前が俺を挑発したからだろ! それになんだかあのままだと負けた気がしたから……」


「こんなところで負けず嫌いを発揮しないでよ! 馬鹿! 最低!」


「なんだと!? 変態! 露出魔!」


 俺たちは精神年齢を十才くらい下げた言い合いを繰り広げた。


 二人で騒いでいる内に由奈の両親が面会に来る。


 初めは由奈のお父さんもお母さんも、由奈が目を覚ましてホッとし、泣きそうになっていた。


 しかし、俺と由奈がいつものように言い争いをしているのを見て、笑い始める。


 次の日、検査をして異常がなかったので由奈はあっさりと退院した。



「先生たち酷くない? 一週間以上も休んでいた私に課題をたくさん出してさ!」


 目を覚ましてから二日後、久しぶりに登校した由奈は遅れていた授業分の課題を出されてしまった。

 まぁ、由奈はいつも赤点ギリギリだから、先生方のブラックリストに入っているので仕方ない。


「愛の鞭だろ。先生たちも由奈にしっかりと高校を卒業してほしいんだよ」


 俺が言うと「う~~」と由奈は唸った。


 現在、帰り道、周囲には俺と由奈しかいない。


「なぁ、由奈」


「なに、勉強を教えてくれるの?」


「それはいつものことだろ。そうじゃなくて、告白の件、なんだけど……」


 言った瞬間、由奈はビクッとした。


「なに、私をまだ陥れるつもりなの!?」


「ち、違う! 一昨日は勢いで喧嘩になったけど、俺が由奈と付き合いたい気持ちは本当なんだ」


「…………」


「由奈はどうなんだよ? ちゃんと面と向かって、言って欲しい」


 俺の告白に対して、由奈は一度、視線を外した。

 そして、深呼吸をして改めて俺のことをジッと見る。


「私、自分が死んだと思っていたんだよ。あの状況で嘘や冗談を言うわけないじゃん。私だって、明人が付き合いたい」


 由奈は恥ずかしそうに言った。


「そ、そうなんだ。ありがとう」


 今日、幼馴染が恋人になった。


「由奈、ほら」


 俺は由奈に手を伸ばす。


「急にどうしたの?」


「いや、恋人らしく手を繋いで下校しよかと思って……」


 俺が恥ずかしさに耐えながら言うと、由奈はいつもと違ってしおらしい態度で手を繋ぐ。


「今まだって、手ぐらい繋いでいたのに、なんで私たち緊張しているのかな?」と由奈が言う。


「それは幼馴染じゃなくて、恋人と初めて手を繋いだからだろ」


「そうかな? ううん、そうだね」


 俺も由奈も顔が真っ赤だった。


 

もし、少しでも良かったと思って頂けたら、評価などをよろしくお願いします!


男女入れ替わりのラブコメ『幼馴染(女子)と身体が入れ替わったら、幼馴染が俺のことを好きだと知ってしまった!』を投稿(完結済)しました。

系統的には同じジャンルだと思いますので、宜しければ、こちらもよろしくお願いします。

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[良い点] よきです!! かなり好きな作風です!
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