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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

踊る少女

踊る少女の記憶の欠片

作者: 水月美ツ夜

初心者ですが、暇つぶしに。期待はしないでくださいな。

「僕にとっての母上は、まさに理想とするお母様だ。しかしながら、世間的にはこの上なく最低な人間であるとわかっているつもりであったのだけども。どうにもさ、やりきれないものだ、これは」

 寂しげに笑うのが私の主人、シレネ様であらせられます。シレネ様は本名をシレネ・ド・ヴェルマリアといい、現在は子爵の地位を持っています。同時に、伯爵の嫡男ということになっております。ですが、シレネ様は本来、お嬢様、と呼ばれる方です。

 奥様に合わせておいでです。奥様が、その……大変な女性嫌いなので、シレネ様は奥様が、女の子だとお知りになれば、酷く絶望なさると考えておられるのです。

 本来なら、ありのままの自分で接していたいはずです。シレネ様は奥様のことを――こう言ってはなんですが――それはそれはもう、奥様さえいれば自分などどうなっても良いというような、ある種の自暴自棄といいますか、そのような考えを持っているのです。

 奥様は、シレネ様よりも愛人にばかり構う旦那様を愛しておられました。

 ですから、その……私としては、本当は、奥様と旦那様を好ましいとは思えません。

 シレネ様はお二人を愛しておられますが。……とても。

 話がだいぶ逸れてしまいました。

 ……ですから、先程の発言も、納得がいくことでしょう。世間一般では、やはり、シレネ様の感覚が珍しいのです。

「仕方がありません。……(わたくし)としては、正直に申し上げて、シレネ様の感覚が理解できないものです。ですが、理解できないからと言って相手の好きな気持ちを悪し様に罵るのはおかしいと思う常識は持ち合わせていますよ。専属メイドとお貴族様方の常識は違うようですが」

私がそう言うと、シレネ様は、疲れたご様子ではありますが、笑ってくださいました。

 そして、元気が少し湧いたようで、ふらりと、机にあった書類を読み始めました。

 ああ!良かったです! 

 シレネ様は椅子に座ったまま、立っている私をちらりと見て、

「……ヘデラ。ありがとう」

そうぽつりと言葉を零されました。…………私、ヘデラと申します。

 シレネ様にいつもの微笑みがお顔に浮かび、私としても安心します!

「私の主人のためならば、これくらい、なんてことありませんよ」

それよりも、シレネ様のほうが凄いお人です。

「前から気になっていたんだけど、僕は君に、そこまで慕われるような何かがある人間じゃないよ?」

口を開きつつも、書類を動かす手は止まりません。

「……シレネ様は、恐らく、クズがお好きです、よね?」

私がそう発言させていただくと、シレネ様は虚を突かれたかのように目を見開いた上で固まります。書類の処理も止まりました。

 どうしたのでしょうか。いえ、理由は分かるのですが、私に隠し立てするようなものでしょうか。

「……きゅ、急にどうしたんだい?いや、いや。まあ、正解、だけども。なんでわかった?誰にも話したことないはずなんだけど」

ここまで狼狽えたシレネ様は初めて目撃したかもしれません。この瞬間を切り取って取っておきたいものです。無念。

「シレネ様、犯罪系の小説や映画、ゲームなどをよくお選びになるではありませんか。そこまでなら分かりませんけれど、やたらと胸糞系を選ぶんですもの。その内容をよく、私にお話になられるのですから。早口で。胸糞悪い展開を引き起こす人物を特にかなり凄くお語りになります。私なら分かります。そもそもとして、旦那様と奥様を愛されている奇妙な方ですから、ああ、クズがお好きなのですね、と」

そう私が申し上げると、当惑なされていらっしゃる。

「その発想になる君が怖い。なんでそうなるんだよ。僕ではなく君がおかしいと思うよ。君はね?本人だからわからないだろうけど。転生者?とかとは違って本人以外わからないということではないのだから。自覚できないからね?うん。僕はおかしくな、……いや、おかしいとは思うけど、君ほどじゃないから。たとえ天地がひっくり返った上で天変地異が起こってさらに世界が崩壊しても、絶対に君ほどじゃない。世界をかけていいだろう」

早口でまくしたてるあたり、困惑と動揺が感じ取れます。

「世界をかけないで下さい。これで私がまともであったならどうするのですか。というか自分から話しそらしてどうなさるおつもりですか。今は私がシレネ様をお慕いしている理由についてでしょう!どうして邪魔をなさるのですか!そうまでして私にシレネ様を語らせるのを焦らしたいのですか!酷いです!とても酷いです!泣きたいです!」

私ヘデラ、目を覗き込みながら言いました!礼儀なんて今はどうでも良いのです!

 シレネ様は引き気味にごめんね、話していいよ?と笑ってくださいました。ああ!お優しい!

「たとえどうしようもないクズがお好きというあまりにも頭のネジが一、二本飛んでいるような性癖を持っていたとしても、絶対に人を傷つけることを許容することのない方です。――私の推測にはなりますが、シレネ様が奥様ほど旦那様を愛しておられないのは、奥様を傷つけているからではありませんか?……そして、私のような、どこか人とは違う、いわば妖怪、でしょうか。不思議な力を使える、或いは呪われているものにも、優しく接してくださいます。シレネ様は、優しく、強い、素晴らしい……いえ、凄い方です!どうか自信を持ってください!」

私ヘデラ。シレネ様以外に、優しくされた記憶はございません。理由はいいましたが、この身に宿す、呪いような力でしょう。転生者……前世の異世界の記憶を持って、神に愛された、今の王族のご先祖様のようなものではなく、神に嫌われた証の力。神の呪い。一人の人間しか大切に思うことはできず、その唯一の相手も、死後、必ず地獄行き。そういう話が各地に残っております。ですから、私に優しくする愚か者はおりませんでした。シレネ様を除きますが。

 自分語りがすぎましたか。つまりは、シレネ様は優しいお方であるということです。

「うん。ありがとう、なんだけどね?あは。……君は時々、少しの毒を吐くよね。僕は君のそういうところ、気に入っているんだけど」

 

「ありがたいお言葉です!貴方様のそのお言葉だけで私、一生生きていけます!いえ!死んでもなお心から幸福を感じるばかりです!」

私、嘘はつきません!

「君のその熱意はどこから来るの。うん。まあ、主としていい従者だと思うけど。あは。ほんとに、ありがとね。元気出たよ」

シレネ様が笑顔で言いました。ああ!その笑顔を見られるだけで私、幸福です!

「私程度で良ければ、死んでも離れずにそばにおります!ずっと、仕えさせて下さいね。シレネ様」

きっと今、私は笑顔でしょう。笑顔でなかったら自分で自分を許せません。こんな幸福で、笑顔でないとはどういうことかと。

「うん。君こそ、ずっとそばにいさせて、主人として居させてくれよ?」

シレネ様も、おどけたように笑ってくださいました。私のすべてを知って、シレネ様は笑ってくださいます。私は、そんなシレネ様のためになら、ずっと真っ赤なガラスの靴を履いていても踊っていられるほどシレネ様を敬愛しております。

 それを伝えたいだけの、くだらない短いお話です。聞いてくれた異世界の方、有難うございます。   ヘデラより。

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