異世界に転生したら肉マシマシ令嬢でした!
リクエストがあったので、思いついた短編です。
お暇であれば、どうぞ~。
異世界転生ってあるじゃない?
ふふふ。そうなんです。私も今回あるあるなトラックにひかれて異世界転生を果たしたごく一般的なアラサー女子なのですが。
ほら、やっぱり異世界転生って期待するじゃないですか。悪役令嬢であろうとヒロインであろうと、堅実に生きていけばおそらくそこまで不幸にはならないだろうし。
だから異世界のファンタジーな世界を私は楽しみにしていたわけです。
そうなんですよ。うん。
「お前とは婚約破棄だ! 絶対に! お前とは結婚できない!」
目の前にいらっしゃる第二王子殿下は、私を指さしてそう叫ぶと、子どもらしく地団太産む。
まぁそりゃあ八歳の男児であるから、子どもらしい反応である。
私もそりゃあ目の前に百キロ超えの肉マシマシな令嬢が婚約者になりますよって言われたら、そりゃあ、うん、泣きわめくかもしれない。
異世界に転生したまでは良かったのですがねぇ。私、肉マシマシ病という奇病に侵されていまして、現在八歳にして体重が百キロを超えております。
異世界に転生して肉マシマシになるなんて誰が想像していました? 普通悪役令嬢なら美しいのがテンプレではないのですかね?
私はため息を漏らしながら、涙目で地団太を踏んでいる第二王子殿下の前で美しく見えるように一礼しました。
「かしこまりました。私から父に話をいたします。第二王子殿下であらせられるカイル・エイデン様のお目汚しをしてしまい、申し訳ございませんでした」
そう伝えると、カイル様は唇を噛み、小さな声で言った。
「ごめん……」
さすがに悪いと思ったのかそう呟いたカイル様。私はカイル様の気持ちだってわかるし、別に断られたところで問題はない。
結婚できなくてもいいとずっと思っていた。ただ、私のことを溺愛して心配していた両親がカイル様との婚約を持ってきたのである。
うちのリート公爵家、お金あるからね。王家からしてみても美味しい話だったのだろうけれど、カイル様がこれだけ嫌がるのだからやめてあげてと思ってしまう。
「では、失礼いたしますね」
私はそういうと、婚約前の顔合わせの席から立ち上がった。
先ほどカイル様は婚約破棄だとかいっていたけれど、実際にはまだ婚約は成立していないので、婚約破棄ではない。
せっかくだから王城内を散策でもして帰るとかと護衛を連れて庭を歩く。するとその先にて私と同じ空気を醸し出す少年が見えた。
あれは、肉マシマシである。
私は仲間がいたと思わず足早に少年へと駆け寄ると、その肩へと手をかけた。
「ちょっと貴方!」
「え? うわぁぁ。ご、ごめんなさい」
「へ?」
両手で顔を覆う肉マシマシな少年は、体を震わせており私は慌てて手を離した。
怖がらせるつもりではなかったのである。けれど怖がらせてしまったので一歩後ろへと下がると、少年を怖がらせないように、優しめの声で話しかけた。
「あのね、怖がらせるつもりじゃなかったの……あの、お友達になれるかもと思って、その、話しかけただけなのよ?」
すると少年はゆっくりと顔をあげた。
真ん丸な顔の中には、大きな瞳と可愛らしい口元が隠れていた。おそらく、この憎き肉マシマシ病でなければ、この少年は絶世の美少年として名をはせたかもしれない。
「あ、友達? あの、僕をいじめにきたのじゃないの?」
「違うわ。貴方いじめられているの? まぁ。酷いことをする人がいるのね! 大丈夫よ。仲間ですもの。私が助けてあげるわ」
にっこりと笑って手を差し伸べると、少年は微笑みを返してくれた。その笑顔はとても可愛らしくて、この肉マシマシ病であろうとも、天使に思えた。
「私、リオーラ・リートというの。貴方は?」
「僕は、シスト・エイデン」
「え? シスト様というと、第二妃様のお子様の?」
「え?リオーラ様というと、カイルお兄様のご婚約者になる?」
私達は顔を見合わせ、それから曖昧に笑みを浮かべると手をつないで一緒に園庭を散歩しながら話をすることにした。
私は婚約者にはならなかったことや、太っているのは大変よねぇといったようなことを。
シスト様は兄たちに太っていることが原因でいじめられるということを。
私達はお互いに共通点が多かったから仲良くなれた。
この時の私は知らなかったのだ。
シスト様は肉マシマシ病なのではなくて、ただのストレスが原因の肥満児だったことも。
そして私と仲良くなってから肥満を改善しようと心に決めて痩せ、美少年天使になることも。
そんな美少年天使が肉マシマシな私に恋をして、考えを改めて私の婚約者に名乗り出たカイル様と私をめぐって争うなんて少女漫画的な展開も。
この時の私は知らなかったのである。
今日の天気はこちらは晴れでした。まもなく梅雨がやってきますね。……じめじめ嫌ですね。洗濯物の生乾きの季節が、もう間近です(/ω\)