第39話 いったいどうしちゃったんだ、自分!?
「リリアナ、ごきげんよう!」
「ごきげんよう!──って、ローザ!一昨日はいったいどうしたのよ!?夫婦そろって風邪でもひいた?」
「ちょ・・・!やめてよ、その夫婦っていうの!」
「構わないよ、リリアナ嬢。そう遠くない未来に現実になるんだし」
「レオンっ!!」
私の肩を抱くレオンは、またそういうことを平然と言ってのける。
「一昨日のことはここではちょっと──あ、あとでちゃんと話すからっ!それはそうと、部活ごめんね!オスカー様とふたりでやったの?」
「え!?いや、ええっとその・・・一応?」
・・・?
「そうだ、エリスは大丈夫だったかしら!?あれからマリー嬢とは遭遇していない!?」
「大丈夫!一昨日はまったく会わなかったみたいよ」
それはよかった。だが、私個人としてはマリー嬢と接触したいので、ちょっと残念でもある。なぜなら、次にエリスがマリー嬢に遭遇してなにか嫌なことを言われたら、『ローザ・ミュンスターが貴方にすごく会いたがってる』って言ってもらうことになっているからだ!
そうすることで、エリスが平民であるために嫌味を言ったマリー嬢への牽制となるとともに(私はマリー嬢と同じ公爵令嬢だからね!)、うまくいけば私が直接マリー嬢と接触する最高の機会を得られるからだ!
・・・と、そうこうしているうちに授業が始まる時間になったので、私たちは席に着いた。
そのまま平穏に午前の授業が終わって、昼食の時間。今日はレオンが学園長から呼ばれたとかで(サボりの件ではないと思うが・・・)、私とリリアナで食べることになった。なおエリスも誘ったが、彼女を後援している伯爵が学園に来ているそうで、その方と一緒に食事をとるらしい。
「で?一昨日は何があったの?」
リリアナは興味津々だ。というわけで、私は彼女に一昨日と昨日の一連の出来事を話した。
「・・・というわけなの。せっかくリリアナがいいアイデアを出してくれたのに、結局うまくやれなくてごめんね。でも、レオンに避けられたり、嫌われるのはやっぱり私には耐えられないみたい・・・。だから、またちょっと違うやり方を考えてみるね」
「──想像以上の成果だわ・・・!」
「えっ?なにか言った?」
「ううん、なんでもない!(これはもう、殿下から褒美を賜りたいレベルね!)」
・・・?
「でもローザ、ちょっと・・・最後のほうの話については、若干いろいろ問題があると思うんだけど」
「問題?」
「そう、つまりその──夜の話だけど。それ、ほかの人には話してないよね?」
「えっ?うん、リヒターは目撃者だから知ってるけど、誰にも話してないわ。なんで?」
「それはよかった。ね、その話は、ほかの人にはもう話しちゃダメよ?私は貴方たちのことをよく知っているからいいけど──、場合によってはいろいろ誤解させるから」
「そ、そりゃあこんな話、ほかの人にしないわよ!リリアナは私たちのことよく知ってくれているし、変な誤解しないでしょ!?だから・・・!」
そうはいったものの──本当は、リリアナにそう言われるまで、ことの重大さを少しも考えてなかった。
いや、もちろんこの話をリリアナ以外にするつもりは全くなかった。だが言われてみれば、いくら私とレオンが家族のように互いを信頼し大切に思っている関係であっても、本当の家族ではない。
年頃の男女が同じベッドで眠っていたなんて世間に知れたら、確実によからぬ想像をされてしまうだろう。いまさらその事実に気づいて、さあっと顔が青ざめる。
「(どうやら、ようやく気付いたみたいね・・・ではダメ押しで、もうひとつ。)それとねローザ、貴方はすっかり忘れているみたいだけど、殿下は男性なのよ?可愛い女の子が隣で寝ていたら、どんなに殿下が理性的な方でも、よからぬことを考えてしまうかもしれないわ。意味、わかるよね?」
「そ、それだけは絶対ないわよ!だって、レオンは私のことを本当に妹みたいに──!」
「どうしてそう言い切れるのよ?貴方がいくら殿下のことを実の兄のように思っていても、殿下も同じ気持ちかどうかなんて、わからないじゃない?」
いやいやいや、それだけは、絶対にありえない!だってレオンは・・・!!
──「君にとって私は、そんなに男に見えないか?」
はっと、昨日の朝に言われたことを思い出す。
ううん、違う!そんなはずない!あれはきっと、ちょっとした冗談で・・・!
──でも、あのときのレオンはすごく真剣な顔をしてた。もし・・・冗談じゃなったら?レオンが私を少しでも異性として意識していたんだとしたら・・・?
突然、顔が熱くなる。
「ローザ」
「ひゃいっ!?」
背後からのあまりにも慣れ親しんだその声にすっかり驚いてしまう。
「はははっ!『ひゃい』って!やっぱりここにいたんだな。リリアナ嬢、私のローザはいったいどうしたんだ?なんだか・・・顔が赤いな?」
なんでだろう、今、レオンの顔がまっすぐ見れない。なんか──ドキドキする。さっきリリアナとあんな話をしたせいだろうか。
「どうしたんだローザ?どうしてそっぽ向いてるの?ほら、こっち向いて」
「きゃっ!」
私の顔をこちらに向けようと彼の手が頬に触れた瞬間、顔がさらにかあっと熱くなった。レオンが私の頬に触るなんていつものことなのに、どうしちゃったんだ、私!?レオンに変に思われないかな、そう思ってちらっとレオンの顔を覗き見ると──
「え・・・嘘──」
小さくそう呟いたレオンがばっと顔を逸らし、手で口もとを隠した。え?何が嘘?よくわかんないけど──あれっ、なんか・・・レオンも顔、赤い?
「はいはいはいっ!じゃれ合うのは構いませんが、見ていてこっちまで恥ずかしくなるようなのはできれば昼食時にはご遠慮ください!」
じゃれてなんか・・・!と、いつものように言い返したいのに、なぜか言葉が出ない──。本当にどうしちゃったんだ、自分!?
「リリアナ嬢・・・!私のローザにいったい何の話をして、困らせたんだ!?」
「困らせただなんて、人聞きの悪い。私は殿下に感謝されることはあっても、責められるようなことは何もしておりませんよ?」
「感謝・・・だが、それならなぜこんな──」
「いい兆しです、非常に」
リリアナはいったい何を言ってるんだろう?いずれにしても、今の自分の状態は明らかにおかしいし、レオンが変に思うのも無理もないよね・・・。でも、どうすればいつもの自分に戻れるのか、わからない──。
「ところで、殿下は学園長に呼ばれていらしたんですわよね?もうお話は終わりましたの?」
「ああ、終わった」
「いったいなんのお話だったのか、伺っても?」
「別に言ってもいいかな。どうせ、すぐにわかるんだから。実は、明日から隣国のカナール国のカイル王太子が留学に来るそうだ」
「隣国の王太子が留学に?」
「それで、私がいろいろ応対せねばならなくなった」
カナール国の王太子か。私はお会いしたことはないが、レオンは会ったことがあるのかな?
そんなことを考えながらレオンのほうを見ていると、レオンがふっと微笑んだ。
「よかった、もう私のことを見てくれないんじゃないかと思って心配した」
そんなことを言われると、なんとなくまた見づらくなるんですが・・・。
「ローザ、そんなわけだから、少し一緒にいられない時間ができてしまう。非常に不本意だが、だからそのときは、必ずリリアナ嬢かエリス嬢あたりと一緒にいること!最悪、オスカーまでだ。──いや、たとえオスカーでも、男とふたりっきりは絶対にダメだからな!」
「もうっ!レオンはどうしてそんなに過保護なんですか!私のことなど心配なさらず、しっかり王太子としてのお役目を果たしてくださいね!」
「ええ、わかりましたよ、未来の王太子妃さん」
レオンは笑いながら私のこめかみにちゅっとキスした。
「ひぎゃっ!!」
「『ひぎゃっ』・・・?」
ぶわっとまた顔が熱くなる。もう!いったいどうしちゃんだ、自分っ!?
最後までお読みくださりどうもありがとうございます!
お・・・?これはもしや──。
明日も18時にアップ予定です。




