第241話 もうひとつの夢 ※レーナ視点
※今回、レーナ視点です。
すっかり金色の秋!イチョウの葉は美しい黄金色、カエデの木々は燃えるように赤く染まって、最高の季節だわ!!
そんな美しい日に、私はカイル様とふたりで船の上にいる。実はこの三連休に、カイル様が一度カナール国に遊びに来ませんかとご招待くださったのだ。
最初はいつものみんなで行くのかと思ったけど、今回は私だけとのこと。それでお父様とお母様にこのご招待を受けてもよいか尋ねるとご快諾くださったので、今回はカイル様とふたりだけで彼の国に行けることになったわけ!
カナール国はうちの国の隣なので、陸から馬車でも行けるけど、カイル様は私が海が好きだとご存じなので、わざわざ船をご用意くださった。船旅は、やっぱり一番素敵だわ!海の上で青空を見上げていると、誰よりも自由になった気がするもの!
「レーナ、寒くない?」
「ええ、少しも!潮風が、とっても気持ちいいわ!」
「そう、よかった」
「そういえば、少し寄り道なさると仰いましたわよね?いったい、どちらへ?」
「レーナは、どこだと思いますか?」
「そうですわね・・・海の上で寄り道できるなら、どこかの港かしら。それとも島?」
「もうすぐ着きますから、そこで答え合わせしましょう」
カイル様は優しく微笑む。銀色の髪が日の光の中でキラキラ輝いて、とっても綺麗──。あまりに綺麗で、私は思わずその髪に触れた。
「レーナ?」
「あっ、勝手に触ってごめんなさい。カイル様の髪が、とても綺麗だったので。・・・まるで、みなもの煌めきのようだわ」
すると、カイル殿下は水色の美しい目を笑顔に細めながら、彼の髪に触れた私の手にそっと口づけたので、私は頬が熱くなるのを感じる。
「レーナに触れられるのは、いつでも嬉しいですよ。この髪にも、好きなだけ触れて構いません。そしてもし許されるなら、私も貴方にこうして触れることを許してくださると嬉しいです」
「・・・ええ、もちろん」
すごく素敵な、幸せな気分──。恋をするって、こういうことなのね。レオンハルトお兄様とローザがいつもあんなに幸せそうな理由がいまはよくわかる。
まもなく、船の進行方向になにやら小さな島が見えてきた。ここでようやく、寄り道というのが島であることを知った。
「あの島に行くのですね!いったいあそこには、何があるのです?」
「それは、行ってからのお楽しみ、ということにしましょう」
にっこりと笑うカイル様。そのまま船を進め、その小さな島に着いた私たちは、船からいったん降りた。
「凄いわ!海の水が透明で、珊瑚のあいだを綺麗な魚たちが泳いでるのが見えるわ!」
「ここは、無人島なのです。国指定の環境保護地域で、水質が大変よく、また、外来種も入ってこないように管理が徹底されているため、ここでしか見られない大変貴重な植物が生えていたり、大変珍しい動物などもたくさん住んでいます。『大自然の宝庫』と呼ばれるカナール国自慢の島なのです」
「本当に、素晴らしいわ!まさか、こんな素敵な場所を見られるなんて、思いもしませんでした!カイル様、私をここに連れてきてくださり、本当にありがとうございます!」
「レーナに喜んでもらえて、本当に嬉しい。ですが、この島の魅力は、まだあるのです。レーナ、少し歩きましょう」
とても嬉しそうに微笑むカイル様の手をとり、私は島の中央へと進んでいく。森というほどではないけれど、たくさんの木々に囲まれたその場所には、これまでに見たことのない不思議な植物や、大きな極彩色の花なども咲いていて、私は幾度となく感嘆の声をあげた。
そうして、少しだけ開けた空間になっている場所に出た。そこには木で作った長椅子が置いてあり、腰かけられるようになっていた。カイル様はハンカチを椅子の上に置いて私をそこに座らせると、そのとなりに自分も腰かけられた。
「ここは、休憩場所なのですか?」
「そうですね。ただ、この時間に来ると、それだけではありません。──もうじきですよ」
「えっ?」
カイル様は微笑み、そして天を仰ぐ。すると、遠くのほうから、何かが聞こえ始めたことに気が付いた。
それははじめすごく小さかったけれど、その音が外側から近づいてきて、まもなく大合唱となっていた。そう、それは鳥の歌声だ──。
「ああっ──ではここが・・・!」
カイル様はにっこり笑うと、目をそっと閉じる。そして、私の手をそっと握った。
それに倣って、私もそっと目を閉じる。島全体が歌うような素晴らしい鳥たちの大合唱と、カイル様に優しく握られたその手の感覚に、胸がこれ以上ないほど大きく高鳴る。
それは丸10分ほど続いた。最後の数分は最初とは逆で、その声が次第に少なくなり、そして最後には完全に沈黙した。
本当に、その10分間だけ、演奏会をするかのように美しい声で歌っていたのだ。なんて──なんて不思議で、神秘的なコンサートだろう!
私は大自然の神秘とも言えるその素晴らしい大演奏に、目を閉じたまま、深く感銘を受けていた。
──と、不意に唇にやわらかなものが触れる。
その甘い口づけに、私はうっとりとしながら目を開く。
「カイル様・・・」
「また・・・勝手にキスをしてしまいました」
ばつの悪そうな顔をして笑うカイル様。まあたしかに本当なら、目を閉じて感動に浸ってる女性に急に口づけするなんて、いけないことだわ。
でも──カイル様、貴方からのキスなら大歓迎よ?
私はカイル様に抱きつくと、そのままぎゅーっと抱きしめた。
「とーっても素敵なサプライズをありがとうございます」
「気に入ってもらえてよかった。どうしても、貴方をここに連れてきたかったのです」
「本当に素晴らしかったわ。私、胸が震えたわ。でも・・・最後のが一番ドキドキしてしまったけれど!」
「最後の?」
聞き返したカイル様に、今度は私からキスをする。
「・・・ああ、たしかに私も、今のが一番ドキドキしてしまった」
そう言って、照れながらもとても嬉しそうに笑うカイル様と、ふたりでくすくす笑い合った。
船に戻り、再び出発する。次はいよいよカナール国に上陸するのか。そう思っていると、カイル様が私を船首のほうへと連れていく。
「今日は私が船長で、レーナは船員ですね?」
「ふふっ!ええ、そうですわね?あの日の夢が、もうひとつ実現しましたわね!」
「ひとつめの夢が叶うとき、私のもうひとつの夢をその船上で教えて差し上げると申し上げたのを思えておいでですか?」
「ええ、もちろん!あら、では今から教えてくださるのですか!?」
カイル様はとても優しく微笑むと、私の前にそっと跪いた。
「・・・カイル様?」
「レーナ、私のもうひとつの夢は、貴方です」
「私?」
「ええ。私は言いましたよね、『一緒に世界中を旅しましょう。以前お話しした場所はもちろんですが、私もまだ行ったことのない場所も、すべて見に行くんです』と。今日、その夢の最初の一歩を踏み出しました。でも、これはまだほんの小さな一歩です。そして私たちの前には、これから数えきれない程の大冒険が待っている。
レーナ、私は人生というこの長い航路を私にとってたった一人の特別な貴方とともに進んでいきたいと思っています。きっと、穏やかな日ばかりではないでしょう。嵐で大荒れの日もあるでしょうし、岩山や氷山を避けながら進まねばならない日もあるかもしれない──。
でも私は貴方とともに進めるのであれば、どんな海だって嬉々として越えていけると思う。貴方と一緒なら、どんな旅も最高に楽しくて、素敵な旅になる。貴方さえ私の隣にいてくれたら──私はこの人生という旅路を誰よりも自由に進んでいける、そう確信しています。
私に、このもうひとつの夢を叶えさせてくれませんか。愛しいレーナ、人生が終わるその日まで、最高に自由で愉快な冒険の旅に、私とご一緒いただけないでしょうか」
大空のように美しい水色。どこまでも広がる、自由な空のようなその瞳を持つその男性に、私は思いっきり抱きついて、そしてキスをした。
「ええ、ええ!もちろんよ!是非、私をその素晴らしい冒険に連れて行って!!」
それから私たちはもう一度、とっても甘くて素敵なキスをした。そうしてどこまでも広がる紺碧の海の上、空の下、私たちふたりは最高の船出を誓い合った。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます!
ちなみにカイルは事前にちゃんとレーナのお父さん(国王陛下)、お母さん(王妃様)にはもちろん、レオンとクルトにもプロポーズの許可をとりました。
明日も18時にアップ予定です。




