第202話 不器用で本気の願掛け※リリアナ視点
急にローザに誘われて、ずっと行ってみたかったケーニヒス湖へみんなでピクニックに出かけることが決まったのは、つい先週のこと。
当初の予定では夕方には王都へ戻ることになっていたんだけど、全員翌日の予定がないことがわかったので、せっかくならお泊まり会にしようということになった。
そうして今、私たちは無事ケーニヒス湖に到着し、この素晴らしい景色を思いっきり楽しんでやるぞって、そう思ってたんだけど──
ローザたちからの無茶振りで私は今、オスカーとイチャつくことを求められている。
正直、ちょっと意味わかんないです。まあ、わからなくはないんだけど──いや、やっぱりわかんないです。そしてオスカー、貴方なにを勝手にこんなわけわかんないこと承諾しちゃってるのよ!?
──そりゃあ私だって、本当はオスカーともっとイチャイチャしたいわよ!?なんといっても私たちの前には常にあの恐ろしいバカップルが存在するわけで、毎日毎日飽きもせず超幸せそうにじゃれあってる姿を見せつけられたら、誰だって羨ましくなるでしょ!?
うん、まあ私自身、あのバカップルっぷりを見せつけられてまんまと羨ましくなってるんだから、ローザのクインティプルデート大作戦とやらにも、それなりの効果があるのかもしれないわ・・・。
でも、だ・と・し・て・ですよ!?「はい!じゃあ今から存分にイチャついてください!」って言われて、誰がイチャつけんのよ!?普通無理でしょうが!
いやまあ、例のバカップルは目の前でなんの躊躇いもなく存分にイチャついてますけどね!?でもそのふたりは例外ですから!第一私とオスカーは、あのプロポーズの日以来、キスひとつまともにできてないのよ!?
というのも・・・あれからお互いいろいろと忙しくって、デートすらまだ一度もできていないのよね。学園では普通に会えてたけど、ローザと殿下みたいに所構わずイチャイチャするなんて芸当、私たちには到底できないわけで──。
そんなわけで変に期間が空いてしまったから、オスカーとキスしたいという気持ちはあるのに、なんだかキスのハードルがすごーく高くなってしまったというか・・・。
ああもうっ!こんな微妙な状態で、いったいどうオスカーとイチャイチャしろって言うのよ!?意識すればするほど、いっそう難しく感じちゃうじゃないのよ!!
「リリアナ」
「えっ!?あっ、な、なに?」
「その──俺たちもさ、手、繋ぐ?ほら、さっきの・・・な?」
「あっ、うん!そうね、手──はいっ!」
そ、そうよ、手くらいなら・・・!そう思ったわりに、私は思いっきりギクシャクした動きで、手をオスカーの前に差し出す。するとオスカーがその手をぎゅっと恋人繋ぎで繋いできたので、心臓がドキンと大きく跳ねた。
こっ──これは、なかなかヤバいかも!?手を繋ぐって、こんなに緊張するものだっけ!?
少し前を歩いているローザと殿下のほうをちらっと見ると、まあいつもの通り、ごく自然に恋人繋ぎで手を繋いで、幸せそうに笑い合っている。
ううっ──!なんなのよ本当、あのバカップルは!!これが経験値の差なの!?どうしてあんな普通に楽しそうにできるのよ!?同じことしてるだけのはずなのに、私は死ぬほどドキドキしてるってのに!!
「──リリアナ、なんかさ・・・」
「えっ、な、なに!?」
「なんか・・・緊張するな」
「えっ・・・あ、うん・・・そうね」
オスカーのその言葉で、なんだかざわざわしてた気持ちがすーっと落ち着いた。
なーんだ、オスカーもちゃんと緊張してたんだ。そう思ったら、気持ちに余裕が出たみたい。
「その、なんかごめんな」
「えっ、なにが?」
「ほら、ローザ嬢の頼みをさ、俺、勝手に承諾しちゃっただろ」
「あー、別にいいわよ、そんなこと」
そりゃあ、「なに承諾しちゃってんのよ!?」って思ったのは事実だけど。
「実はさ、ちょっとラッキーって思ったんだよな、俺」
「ラッキー?」
「ああ。ほら、なんていうか・・・俺たち、正式に婚約もしたけどさ、婚約したからって急にいろいろ変えるのも変だしさ。でも本当のこと言うと、俺はもっとリリアナと・・・イチャイチャしてみたかったし」
「えっ!?」
「あっ、いや別に、変な意味じゃないからな!?その、殿下とローザ嬢くらいのさ、健全な、普通の恋人レベルの・・・な!?」
いや、殿下とローザのあのレベルは絶対に「普通の恋人レベル」ではないけどね!?貴方だってそんなこと、わかってるでしょうが!
まあでも、正直なところ私も全く同じ気持ちなわけで。あのバカップルほどじゃなくても、やっぱりオスカーともっと恋人らしいことしたいし、されたい。だからオスカーが、この機会を利用してそういう意味での進展を望んでくれたんなら、それはすごく嬉しい──。
「・・・私も同じ気持ちよ?」
「えっ?」
「だから、安心して。まあ、ローザの考えることっていつも突拍子もないけど、結局そんなに悪くないのよね。ほら、せっかくのこんな機会だし──イチャイチャしてみるのも、悪くないんじゃない?」
私がそう言って笑うと、オスカーが妙に少年っぽく笑ったので、なんだかキュンとしちゃった。
と、そのとき、私たちは少し先にいたローザと殿下が湖の前に設置された石のベンチに座って、思いっきり熱いキスをしてるのに気づいた。
まあ、あのふたりがキスしてるのなんていまさらなんにも珍しくないんですけど、でもいつも以上に極甘の雰囲気なうえ、やたらに長い・・・!
いや、たしかに存分にイチャつくとは仰っていたけれど、殿下は本当に容赦ないな!?と思いつつ、あんなに幸せそうに笑っているふたりを(一応こっそり)眺めていると、ただ見てるだけなのに、こっちまで幸せな気分になっちゃうのよねえ。
あと、あのふたりに関しては、目の保養にもなるしね!なんといっても世紀の超美男美女カップルだし!!
「──つまりあそこが、例のベンチなんだな」
「えっ?・・・ああ!」
そうだった。このケーニヒス湖が「恋人たちの湖」って呼ばれてるのは、この湖の底にあった石で作られたあのベンチに座って恋人同士でキスしたら、その恋人たちはずっと幸せで、ずっと一緒にいられるっていう言い伝えがあるからだ。
「俺たちも・・・しような」
「えっ!?あっ・・・うん」
あの話を聞いたとき、確かにそこでキスしたいとは思ってたけど、まさかこんな感じでキス宣言されると思わなかったから、なんだかものすごーく恥ずかしいんだけど!?
それからしばらく私たちは変な緊張感のなかそこが空くのを待つはめになったわけだけど──ようやくローザたちがその場を離れたので、私たちはそこに並んで腰掛けた。
今からキスするんだってわかっててこうして座ってるのって、こんな緊張するもの!?まだキスしてもないのにもう顔がめちゃくちゃ熱い!こっ──こんなの、どうしたらいいのよ!?
「リリアナ」
「はっ、はい!!」
いよいよかっ!?って身構えてたのに、オスカーはちょっとあることを思い出したと言って笑った。
「──殿下がさ、ここに初めてローザ嬢を連れていらっしゃった時の話をしてくれたことがあるんだ」
・・・?
「そのときはまだ、殿下はローザ嬢と両想いじゃなくて──いや、厳密には両想いではあっただろうけど、まだローザ嬢のほうは自覚ゼロのころでさ。でも殿下は、このベンチの上でローザ嬢とどうしてもキスしたくて、騙し打ちみたいにしてキスなさったらしい」
「あははっ!なんか殿下らしいわね!」
「ああ、そうだよな!殿下って普段はあんなに澄ました感じの人なのに、ローザ嬢のまえでは本当にただの恋する不器用な少年って感じで、なんか可愛いんだよな。まあそんなこと、本人には怖くて言えないけどな」
「本当よね!あの魔王みたいな殿下をひとりの男にしちゃうローザは本当にたいしたもんよね!」
私たちはふたりで笑い合った。さっきまで感じていた緊張が嘘みたいに消えて、すっごく気楽な、いつもの私たちの空気になった。
「でもさ、俺もそうなんだからな?」
「へっ?なにが?」
「俺さ、自分で言うのもなんだけど、割となんでもそつなくこなすっていうかさ、自分て器用な人間だなーって思ってたんだよな」
「ふうん?」
「でも、リリアナといると──なんか不器用になるんだよな」
「えっ、なにそれ!?どういう意味よ?」
「つまり・・・君の前での俺は、ローザ嬢の前の殿下と同じなんだってこと。君の前で俺は、なんていうかさ、キースリング家の長子だとかそういうのが全部関係なくなって、一人の男になっちゃうんだよな」
「オスカー・・・」
「俺、本当にリリアナのことが好きだよ。君の前だけいろんなことが不器用になって、子どもっぽくなって、自分でも本当に無様だなって思うくらい。それくらい必死だし、恥ずかしいくらい本気なんだ」
想像もしなかったオスカーからの言葉に、幸せで胸がいっぱいになる。それでオスカーになにか言葉を返したいけれど、伝えたいことがあり過ぎて、うまく言葉にならない。
ああ、私も同じみたい──。オスカーの前では本当に不器用で、子どもで、すっかり無様になっちゃうけど、それだけ本気で、私は彼を愛してる。
どちらからともなく唇を重ね合う。そうだ、この感じ──とろけるほど甘くて、幸せな、オスカーとのキスの味。
このベンチの言い伝えが、本当でありますように。オスカーとふたり、ずっと幸せで、ずっと一緒にいられますように。子どもっぽいけれど、私の不器用で本気の願掛け。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます!
こちらは本当に初々しいカップルです♡
明日も18時にアップ予定です。




