第20話 レオンは私の推しです!
その日の授業がすべて終わり、いよいよ私たちが創部した物語研究部「ゲシヒテ」が始動となる!
部活なんて悪役令嬢らしくないものに入る気なかったくせに、前世は病気のせいで入部なんて夢のまた夢だったこともあってか、いざ部活に参加できるのだと思うと自然と浮き足立ってしまっている自分がいる。
「ずいぶんと嬉しそうだね?」
「そうですか?──ふふっ!そうかもしれませんね!前にもお話ししましたが、前世の私、病弱だったんです。クラスの他の子たちがときどきお見舞いにきてくれたんですけど、部活終わりに来てくれることが多くって、運動部の子はユニフォーム着ていたり、美術部の子は油絵の匂いが染み付いていたりして、なんだかそれがとっても羨ましくて。
それに、みんなが話す内容も、部内での流行りとか部内恋愛の話が多くって・・・やっぱり部活に入っていないと、そういう話にも参加できないから、すごく寂しかったです。だから、やっと自分も部活できるんだと思うとやっぱり感慨深くって──」
「・・・部内恋愛?」
「あ、つまり、同じ部の先輩を好きだとか、誰と誰が付き合ってるとか・・・そういうことです!女の子って、どこの世界でもいわゆる恋バナが好きなものですから!」
「へえ?君のいた世界の部活は、ずいぶんと奔放だったんだね?学園の部活では、そんなの全面禁止だよ?」
「ふふふっ!私のいた世界でも、だいたい部内恋愛は禁止でしたよ?でも、禁止されたら逆にしたくなっちゃうものじゃないですか!」
「・・・」
「やっぱり、学園生活っていったら恋愛ですよ!スクールラブ!ねっ、レオンもいつかその身を嫉妬に焦がすような恋ができますわ!」
「──現在進行形で焼け焦げてる」
「何か仰いました?」
「なんでもない。ところで、焼け焦げついでに聞くが、君は前世に好きな人はいた?それ──、どんな奴だったの?」
「残念ながら、乙女ゲームの世界で疑似恋愛を楽しむので精一杯でしたね・・・」
「ほう?」
心なしか、レオンが嬉しそうだ。──いや、めちゃくちゃ喜んでるな?いったい、なぜに??
「ごほん。では、その乙女ゲームの世界では、どんな疑似恋愛を楽しんだのかな?」
この人、本当に乙女ゲームに興味あるんだな?悪役令嬢モノにしても、興味あるものが本当に意外・・・いや、そうでもないか。そもそもレオンの恋愛対象は「二次元ちゃん」なのだった。そう考えると当たり前なのかな??
「そうですね・・・いろいろありましたが、わりと普通のことをしますよ?公園デートとか、突然の夜のお誘いにドキドキ!とか──、あ、スクールものなら放課後の教室でこっそりキス、とかもありましたね!」
「・・・ふーん。で、ローザはとくにどんなのにドキドキしたの?」
「私ですか?私は・・・そうですね、好きなキャラなら、どのイベントでもわりと楽しかったです。やっぱりどんなシーンも絵になるなーって!」
「──ローザは、どんなキャラを好きだったの?」
「そうですね・・・やっぱり、かっこいい人──?あ、といっても、綺麗系が好きでしたね。あんまり男くさいタイプはちょっと苦手で──」
「一番好きだったキャラは?」
めっちゃ掘り下げるな!?しかし、そんなの知ってどうするんだ?
「そんな、とくに推しがいたわけではないですが──」
「推し?」
「あ、はい、特別好きな・・・一推しの人!みたいな?」
「一推し・・・では少なくとも・・・どんなタイプを好きだったんだ?」
「タイプ・・・そうですね・・・」
これまた難しい質問を──。そう思いながら、やたら切実な口調で次々と私に問いかけてくるレオンのほうに目をやって、ふと気づく。ああ、なんだ!この質問への回答、すっごく簡単じゃないか!
「レオン!」
「へっ!?」
「だから、私のタイプでしょ?だいたい私が好きだったのって、レオンみたいな人でした!端正な顔立ちで、優しくて、気品があって、大切にしてくれて──でもときどき子どもみたいなとこがある。レオンって、私のタイプにぴったり当てはまってます!だからレオンが攻略対象にいたら、圧倒的に『推し』ですね!」
なんですぐ気づかなかったんだというほど、レオンは私のタイプ、ドンピシャだっ!レオンが攻略対象の乙女ゲー、めちゃくちゃしたかったなー。
──しかしまさか、悪役令嬢立ち位置でレオンの婚約者で生まれてきてしまうとは。せっかくなら、ふつうにヒロイン立ち位置がよかったのに・・・。
「・・・でもまあ、思えば悪役令嬢って、きっとそうなんですよね。前にも言いましたけど、ヒーローを一途に想い続ける立ち位置ですから、悪役令嬢にとってヒーローは、ドンピシャタイプなんだと思います。でも、それが報われないところに特有のカタルシスを感じるわけで──
って、レオン!どうしたんですか!?顔が真っ赤ですよ!?」
「もう・・・無自覚でそれは本当にヤバいから・・・」
「はっ?どういう意味でしょうか?」
「ねえ、どうして君は、それで私に恋してくれないの?」
「へっ?」
「ドンピシャで、推しで、婚約者で、こんなにずっと一緒にいるのに、なぜ君は──」
「ローザ!殿下!やっといらっしゃったんですね!」
「ここじゃないのかと、リリアナ嬢とふたりで少し不安になっていたところですよ」
部室の前にはすでに、笑顔のリリアナとキースリング様が2人で並んで待っていた。
「あら、ごめんなさい!ちょっと部室利用に関する説明を先生から受けていたのよ」
きゃー!この感じ、なんかすっごく学園生活っぽい!レオンがまた不満げな表情を浮かべているのは無視するとして(っていうか、2人に声をかけられたとき、ふつうに舌打ちしたよね?)、部室前で部員(まだ見学者だけど)と話すなんて、これぞ青春!って感じ♪
それに、いよいよ部室に入るわけで!私たちの部室っ!もうその響きだけで、テンションMAX!
レオンが部室の鍵を取り出す(鍵は部長が管理することになっているのだ)。それにしても、私が前世に漫画とかで見ていたような、銀色の金属製のザ・鍵みたいなのじゃないんだな。めちゃくちゃおしゃれなアンティーク調の美しい鍵ではないか。ああ、このへんもさすが貴族の通う学園って感じ・・・
──って、そんなことがどうでも良くなるような光景が、開かれた扉の向こうに広がっていた。え、これが・・・部室ですか!?これ──かなりガチなほうの貴族用高級サロンの一室デスヨネ!?
なんなんだこの──見るからに高そうな調度品で溢れ、輝くクリスタルのシャンデリアが天井からぶら下がり、美術館のような絵画が壁中に貼られたゴージャス空間は──?学園生の一部活の部室に、この煌びやかさは果たして必要か!?
こっちもね、16年も公爵令嬢やってきて、10年以上まるで自宅の如く王宮殿に出入りさせてもらっておりますからね、そんじょそこらの絢爛豪華では驚くことないんですけどね──?
たださ、私は勝手に「部室」=「前世に漫画で見た、パイプ椅子と長机とグレーのロッカーがあって、ボロくて臭くて狭い空間」と、勝手に想像しちゃってたもんですからね?
いや──もちろん貴族たちが通う、ましてや王太子殿下が利用する部屋がそんなだとは思っていませんけども!ただあんまりにもイメージとかけ離れすぎていて一瞬、頭がショートした次第です。想像と現実があまりに乖離していると、人間の脳は事実の受け入れを拒否するんですね。
「ちょ・・・ちょっと、これは部室にしては豪華すぎやしません?」
「そう?まあ、こんなもんじゃないかな?」
「部室って、こんな感じなのですね。私はそもそも、部室なんてものがあることを存じ上げませんでしたわ」
「いいですね、ここならくつろげそうだ」
3人ともこの部室には満足しているようだが、私のように前世の無駄な予備知識がない分、特別大きな衝撃はないようだ。
ま、そりゃそうか。あの日本の部室のイメージがあるわけじゃないここの貴族の皆さんにとっては、これが普通なんですよね。比較対象がないわけですもん。かくいう私も、別に前世で実際に利用していたわけじゃないけど──。
「ローザ、イメージしてたのと違った?部屋、変えてもらおうか?」
私は激しく否定する。
「いいえ、最高です!とっても素敵です!!すごく気に入りました!!!」
そりゃ、驚きましたよ?驚きましたけども・・・素晴らしいではないですか!こんな美しい部室で、毎日レオンや部員たちと悪役令嬢について語れるんでしょ!?そんなの、天国ですよ!!学園生活、最高!!!
「それはよかった。ではさっそく、部活を始めましょうか」
そう言いながら、レオンは私の腰に手を回すと、そのまま真紅のベルベットのソファに並んで腰掛けさせられる。ちょいちょいちょい・・・普段からわりと距離感近いけどね?これは「密接」のレベル、超えてませんか!?なぜこんなゆったりしたソファで、こんな詰めて座るんだレオン!暑苦しいわっ!!
抗議の目でレオンを見るが、やたら愛おしげにこちらを見つめてくる彼の笑顔を見ていると、すっかり戦意喪失してしまう。まあ、いいけどさ。いいけど・・・そんなに妹が好きか・・・?
最後までお読みくださりどうもありがとうございます!
好きな子に「めちゃくちゃタイプだよ」と言われてるのに、異性として全然意識されてない苦しみ・・・。
明日も18時にアップ予定です。




