第178話 眠れぬ夜と月の精
どうしよう・・・全然眠れない・・・。
私はベッドのなかで何度も寝返りをうつが、ベッドに入ってから随分経ったのに、目はまんじりともしない。
これは、よくない!明日はせっかくレオンとふたりっきりのデートだと言うのにっ!
明日、エリスは久々の里帰りをすることになっている。例の誘拐事件があったため、ご両親が死ぬほど心配されているのだ。
ご両親は自分達が王都に行くと何度も仰っていたそうだけど、エリスの実家はここからかなり遠い場所で、普通の馬車なら時間も相当かかるらしい。
そうなるとご実家のレストランも最低3、4日はお休みしなければならなくなるわけで、エリスは本当にすぐ元気になったのでわざわざ来てもらうのは申し訳ないからと、彼女が固辞していたらしい。
それでもご両親がずっと心配なさっているとのことだったので、私たちから国王陛下にお願いして、転移魔法の使える王宮の馬車を使わせてもらえることになったので、この休みにエリスは里帰りできることになったのだ!
ただ、前回のこともあるので、今後はより護衛を強化すべきだということになったらしく、その結果、なんとこれからはリヒターがエリスの護衛についてくれることに!!
といっても、もちろんリヒターはレオンの専属護衛騎士なので、エリスが街へ出かけるときなどに限定されるそうだけど、レオンとリヒターが国王陛下にそのように提案してくれたそうで、私としても本当に嬉しいっ!
だって、リヒターがエリスを護衛してくれるほど安心なことはないし、それにエリスはリヒターに恋してるのだから、こうして定期的にふたりが一緒に行動することになれば、ふたりがより親密なるのは間違いないもの!!
ということでレオンからこの話を聞かされたとき、もちろん私は大賛成したわけです!
するとレオンは、「せっかく明日はリヒターがいないんだから、久しぶりの、本当にふたりっきりのデートだね?」なんて言って、「ちょっと特別なデートをしよう」とか言うので、なんだかワクワクしてしまって、遠足の前の日の子どものような気分なのだ!
レオンはもう寝てしまっただろうな・・・。彼の部屋に繋がっているドアをじっと見つめる。眠れないからといって流石にもうレオンのベッドに忍び込もうとは思わないけれど、少なくともあのドアの向こうにはレオンがいるのだと思うと、それだけでなんだか安心する。
・・・それにしても、本当にまったく眠くない。私はガバッと上体を起こすと、ベッドから降りる。
もう、どうしたって眠れないのだ。潔く、一度起きてしまおう!
読書という気分でもないので(レオンが読書タイムの時間を長くとるので、寝る直前にも既に長時間読んでいた)、ちょっと夜風にでも当たろうかと、私はベランダに出ることにした。
ベランダへ続くドアを開けると涼しい夜風が頬をなで、とても気持ちいい。正面に大きく白い満月が浮かぶ濃藍の空には、無数の星々がダイヤモンドみたいにキラキラと輝いてる。すごく綺麗──。
ほうとため息がでるような美しさに感動しつつ、なんとなく寂しさを感じる。
──ここに、レオンが一緒にいてくれたらいいのに。そうしたらこの素晴らしい景色は、もっと素敵に見えるだろう。レオンがとなりで一緒に綺麗だと言ってくれたら、それだけでこの星空は何十倍も美しく輝いて見えるだろうと。
「・・・ローザ?」
その声のした方へぱっと振り向くと、部屋からベランダへ出てきたところらしいレオンの姿が、月明かりの中に浮かび上がる。
「レオン!」
私はすぐさま彼のもとに駆け寄ると、そのままぎゅっと抱きついた。
「ああ!本当にローザだった!」
・・・?
「ええと、それはどういう意味です?私以外、ありえないではないですか」
私が不思議そうにそう言うと、レオンは楽しそうに笑った。
「はははっ!それもそうだな。だが、まさかこんな時間に君がバルコニーにいるなんて思いもしなかったし、それに──」
「それに?」
「なぜか今日はなかなか寝つけなくてね。それで、燭台の明かりで読書をしていたんだが・・・突然、窓からやけに強い月光が差し込んできて、その光に誘われるように外に出てきたんだ。そうしたら、月の光のなかに立つ君がいて──あまりの美しさに、月の精がベランダに降り立ったのかと思った」
・・・レオンってば、大真面目な顔をしてそんなことを言うので困ってしまう。
「レオンったら、またそんなこと言って私を揶揄うんですから・・・」
「本当にそう思ったんだから、仕方ないだろ?」
レオンはそう言って静かに微笑むと、優しく甘いキスをくれる。
「──こうして、真夜中に思いがけず君とキスできるなんて、幸せで死んでしまいそうだ」
「ふふっ!レオンは本当に大袈裟ですね?」
「これも本当のことなんだから、仕方ないだろ?」
レオンは笑い、そして私にまた甘いキスをする。
「・・・でも、私も本当に嬉しかったんです。ベッドには入ったもののずっと眠れなくて、それでなんとなく外に出てみたんですけれど──今日の夜空があまりに美しかったので、レオンが今となりにいたらなあって、そう思っていたんです」
「本当に?」
「ええ!だからレオンの姿を見たときとーっても嬉しくて、思わず抱きついてしまったんです!──本当に不思議ですね。一人で見たって二人で見たって、この星空の美しさは変わらないはずなのに・・・でも今、こうしてレオンのとなりでこの星空を見ていると、やっぱり先ほど一人で見ていた時の何十倍も素晴らしく見えるんです」
私がそう言って笑うとレオンは本当に嬉しそうに微笑み、そしてさっきよりもさらに甘くとろけるようなキスをした。それから私たちは、ふんわりとした月明かりのなかでそのまま甘いキスを繰り返した。
キスのあとも、しばらくふたりで星空を見ていたけれど、レオンが「まだ眠くならない?」と聞くので、「まだダメみたいです」と答えると、レオンは笑いながら「私もだ」と言った。
「・・・ローザ、少し冷えてきたようだから、部屋のなかに入ろう。せっかくなら温かいものでも飲まない?」
「まあ、それはいいですね!真夜中のティータイムですね!」
こんな深夜にお茶をするなんて、なんだかとっても素敵だ。と、ここでいいことを思いつく。
「リヒターはもちろん今も起きてますよね?では、リヒターもお茶に誘いませんか?」
「いいね。誘ってみよう」
レオンは楽しそうに笑った。月光の下で優しく微笑むレオンって、本当に素敵だ。
私はそんなレオンに不意打ちでキスをした。
「ローザ!?」
自分からはいつだって不意打ちにキスしてくるくせに、私からのキスには毎回動揺するレオンがまた可愛いんだよね!
「さっ!早くリヒターを呼びに行きましょう!」
「・・・ああ、そのほうがよさそうだ」
月光でもわかるくらい顔を赤くしたレオンは、なぜかすごく慌てて彼の部屋の前にいるリヒターを呼びに行った。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます!
例の如く、ローザからの攻めにはめっぽう弱いレオンです。
明日も18時にアップ予定です。




