第172話 オスカーがキスしなかった理由(1) ※リリアナ視点
※今回、リリアナ視点です。
それにしても、いつも恋愛のアドバイスをしてあげてたローザに、まさか私の方がアドバイスされよう日が来るとは・・・。
妙な感慨深さを感じつつ、私はローザが一生懸命レクチャーしてくれたあの可愛すぎて到底真似しようのないキスの迫り方を思い出し、ひとり思い出し笑いをする。
あー、あれは本当にヤバいわ。私が男でもしあんな風にローザにキスを迫られたら、もう完全に理性が飛んじゃうわね!ローザは自分の行動に伴う結果というか、その恐ろしい威力をまるでわかっていないようだわ。そりゃあ、殿下が過保護になるわけよ・・・。
だからといって、彼女が実はそれほど無防備なタイプではないことも、付き合いが長くなるにつれてわかってきた。たとえば殿下が所用でローザのもとを離れていて、私たちだけで教室にいたりお茶を飲んだりしているときに男子生徒が声をかけてくるときもあるわけだけど──そういう時のローザは、驚くほど隙がない。
もちろんみんな殿下の恐ろしさを知ってるから、ローザにちょっかいをかけようとしてくる大馬鹿者はいないんだけど、それでもローザは殿下の前とは表情からして全く違って、なんていうか、凛として見える。
彼女自身は完全に無意識のようだけど、殿下がローザ以外の前で超絶クールになるのに妙に似ていて、私たちはそれをみるとどうしても笑いそうになり、実は必死で笑いを堪えていたりする。
不思議なんだよねー。だってローザ、殿下の前では本当に無邪気で無防備で隙だらけなんだもん。私が殿下でも死ぬほど心配になると思うわ。でも当の本人はそんな心配不要なくらいに、ガードが硬いタイプなのよね。ま、殿下だけはその事実を知りようがないけどね。
あれが計算だったらすごいけど、それを完全に天然無自覚でやってるあたり、さすがローザとしかいいようがないわ・・・。
まあ、女の私でもときどきくらっとくるあのローザの無自覚最強テクを真似するなんて到底できるはずもないんだけど、でもローザのアイデアも、一理あると思う。
オスカーってめちゃくちゃモテるくせに、妙に初心なところがあるというか、手を繋ぐまでにもまあまあ時間かかったし、デートに行ってもすごーく健全というか・・・いや、もちろん健全でいいんですけど、本当に友だち同士で遊んで帰るって感じの、本当に真面目なお付き合いで・・・。
オスカーに聞いた感じだと、誰かと付き合うのも私が最初みたいだし、やっぱりいろいろ探り探りなんだとは思うんです。それに私自身も、当然誰かと付き合うなんて初めてなんだから、彼と同じ状況なんですけど・・・だからこそ、釈然としない。
だって私は、オスカーともっとイチャイチャしたいのに、オスカーはそうじゃないってことでしょ!?手を繋いで、友だち感覚で出かけたら、それで十分ってことでしょ!?なんかそれ、よくわかんないけど女としてなんかプライドが傷つくわけよ!!
私たちの目の前には甘さ300%(いや、それ以上かも!?)な、超極甘バカップルがいて、人目も憚らずに毎日毎日幸せそうにイチャついてるわけで、あんなの見てたらどうしても羨ましくなっちゃうじゃない!でも、一緒にそれを目の当たりにしてるはずのオスカーは、そうはならないわけでしょ!?
やっぱり、私に女としての魅力がないからなのだろうか。そりゃあのローザと比べられちゃったら、どうしたって敵わないのはわかるわよ?でも、オスカーは私のことを好きなはずでしょ!?だったらあばたもえくぼで、私のこと可愛く見えたりしないわけ!?キスしたいなとか、そういうの思わない!?
・・・正直、こんな悩みは侯爵令嬢として相応しくはないと思う。でも、どうしても考えちゃうわけよ。私なんて、たいして取り柄もないし、見た目も──まあ体のいい顔、とでも言えばいいのか、悪くはないとは思うけど、すごくいいわけでもない。勉強はまあできるほうだけど、オスカーのほうがいつも少し成績は上だし、そもそも頭がいいからってキスしたくはならないよね・・・。
つまり、私は不安なのだ。公爵令息で顔もいいし頭もいいし社交的で超モテるオスカーに対し、私は全部わりと普通。正直、オスカーが私のどこを好きになってくれたのかもよくわかんないわけで、オスカーとこうして恋人関係になれたことだって、未だにちょっと信じられない。
だからこそ、いつこの関係に終わりが来てもおかしくないのだという漠然とした不安を抱えているのかも。
レオンハルト殿下のように、誰がどう見てもローザにベタ惚れなうえ、婚約まで済ませてるくせにあんなに嫉妬したり束縛したりしてるのなんか見てると──ちょっと重すぎで引く時もあるけど(当のローザはまったく気にしてないけどね)、でもやっぱりすごく愛されてるなーって感じるというか。
そういう意味では、私とオスカーの関係は全然違うわけよ。たしかに私はオスカーのことが好き。本当にすごく好きなのだ。でも、オスカーが私のことをどれくらい好きでいてくれてるかなんて、まったくわからないわけで。
たしかに告白してきてくれたのはオスカーからだけど、彼はあのとき、私の兄を私のパートナーだと勘違いして焦って告白してくださったわけだし、ほら、いろいろ──気の迷いだったのかも、なんて・・・。
だからこそ、こうして時間が経っていろいろ冷静になった結果、やっぱりそんなに好きだったわけじゃないかもなんて思われてたらどうしようって、弱気になってしまう。だからもう付き合い始めてからかなり経つのにキスひとつしてくれないのかも、なんて考えちゃったり──。
・・・ああ、もうっ!なんでこんなにマイナス思考になっちゃうんだろ!?私は基本的にプラス思考のはずなのに!!
──そうよ!やっぱり私に、弱音なんて似合わない!ここはいっそ、ローザのアドバイスに従ってみるのもありかもしれないわよね!?
もしかしたら本当にオスカーは、キスしたことがないからキスしたいって発想がないのかもしれないし、そうじゃなくたって、私が素敵なキスをしてあげられたら、オスカーも私ともっとキスしたいって思うかも!?
ま、まあ、ちょっと色仕掛けっぽいと言えなくもないから、本当は貴族の令嬢としてはあまり褒められたものじゃないかもしれないけど──でも私・・・どうしてもオスカーとキス、してみたいのよ!!
というわけで、「次のデートで絶対にキスしてやる!」と心に誓ったあの日から一週間。
以前から約束していた私のお誕生日デートということで、私とオスカーは、王立公園の池のそばにある東屋の中にいた。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます!
いつも目の前に超極甘バカップルがいると、ふつうの感覚が麻痺してきそうです。
明日も18時にアップ予定です。
(明日も引き続きリリアナ視点です)




