第15話 キス、してもいいよ?
そうだ、確かに私の聞き方が悪かっただけなのだ。だとしたらレオンは、別に秘密を隠すために嘘をついたわけでもなければ、ごまかすためにキスをしたわけでもないということになり、今回落ち度があったのは私のほうだということになる。
彼はあくまで正直な気持ちを私に伝えてくれたわけで、本気で私を大切に想っているからこそ、キスもしたのだろう。だとしたら、別にレオンは悪くない!
(もちろん、いくら溺愛していても、妹の唇にキスするというのはちょっと異常な気もする。でも、彼の愛情表現はいつも特殊で過剰だから・・・ね?)
二次元を好きだということについては、やっぱり異性だから(あるいは兄としてのプライドのようなもので?)私には言い辛くてあえて言わなかっただけで、それでも私が単刀直入に聞けば答えてくれるつもりなのかもしれない。
だから本人はこれが「秘密」にあたると認識しておらず、あえて言う必要がないこととして脳内で処理している可能性がある。だとしたら、たしかにこれは「秘密」とまではいえない。
そうじゃないと、さすがにあんな曇りなき眼で「自分に秘密はない!」なんて、言えないよね!?
・・・そう思うと、なんだか急にレオンが可哀想になってきたな。そうだ、本当に今回は、私の聞き方が良くなかっただけなのだ。「好きな子いるんでしょ?」あるいは、「意中の相手がいるんでしょ?」という質問に「君だよ」と言ってきたなら怒ってもよかっただろう。
だが、「なによりも大切なものは何?」という質問に、「君だよ」で怒ってはいけなかった。だって彼は、本当にそう信じているのだから!!
冷静になった頭で目の前のレオンの様子を確認すると、本当にすっかりしょげかえっている。それもそうか、なにも悪いことをしたつもりがないのに二次元ちゃんよりも愛してる妹に急に突き飛ばされて、キレられたわけだからね・・・。
それにしても、このしょげてるレオンはかわいいなあ、おいっ!普段のキラキラした王子様な感じが全然なくって、哀れな捨て犬みたいではないか!私は思わず背伸びして、レオンの頭をなでなでする。
「・・・ローザ?」
私の行動に驚きつつ、しかし大人しく頭を撫でられているレオン。それどころか、私が撫でやすいように片膝をついて私に撫でられるままになっているのが、やたらめったらかわいいっ!本当に子犬かっ!!
「・・・レオン、ごめんなさいね。私の聞き方が、間違っていたのよね?レオンが私を誰より大切に想ってくれているのは、わかってたのに。あと、レオンの愛情表現が特殊なのも知っていたのにね。──私、冷静じゃなかったんだわ。急に突き飛ばして怒るなんて、確かに子どもだった」
「ローザ、あの・・・」
「大丈夫、もう何も言わないで。ちゃんと、わかったから」
「・・・本当に?」
「ええ!だから私も、これからはもっと柔軟に考えるようにする。そうよね、もっとシンプルに、素直に考えるべきだったんだわ!なんか一般常識とか、他の人たちはどうとかってどうでもいいことに囚われすぎてたの。
でも、私は私だし、レオンはレオン!私たちはそもそもから特殊な関係性なんだから、一般論にあてはめちゃダメね!これからはもっと自分の感覚や感情を信じてみることにする!」
「ねえローザ、それってつまり・・・!」
「レオンが言ってくれたから、私もちゃんと、改めて言うわ!私にとっても、なによりも一番大切なものは、レオンハルト、貴方よ!」
「ローザ・・・!!」
「だからこそ!貴方がいつか二次元じゃなくて三次元の女の子に恋をして、妹に対する溺愛を超えた、本当の意味で『一番大切なもの』を見つけるその時まで、私が誠心誠意ご協力いたしましょう!」
「は・・・?にじ──何だって?」
「だからレオン、安心してね!それから──」
私はきょとんとした顔のレオンの唇に、そっと口づける。
「──!?ロ・・・ローザ!?」
レオンの顔がぶわっと赤く染まる。ふむ、喜んでる。やっぱりレオンはキスが好きなようだな。
「あのね、レオン。さっき私が逃げたのは、別に貴方とのキスが嫌だったからじゃないのよ?でも貴方はそういうふうに誤解したみたいだったから、誤解はちゃーんと解いておきたくて。
最初は、兄妹みたいな関係の貴方とキスするなんてすごく変だと思ったけど──、でもさっきの話にもつながるけど、そもそもが超特殊な私たちの関係においては、一般的に変かどうかより、自分たちが嫌か嫌じゃないかのほうが重要だなって思ったの。それに海外ドラマでは、兄弟姉妹でもふつうにキスしてたし」
「・・・海外ドラマ?」
「それで考えたんだけど、どうやら貴方は私とキスしたいみたいだし、私もレオンにキスされるのはわりと──嫌いじゃないみたい。やわらかくてほわっとしてなんか気持ちいいし。だからときどきなら・・・キス、してもいいよ?」
本当のこと言うと、さっきキスされたことに気づいてもすぐレオンを突き飛ばさなかったのは、まあ驚いて思考停止したのもあるけど、正直レオンとのキスが嫌じゃなかったからだ。
いや、むしろ・・・ふわふわしてすごく心地よかった。つまり私も、レオンとのキスはかなり好き──なのかな?
そう言って私が笑うと、片膝をついていたレオンが地面にどしゃっと崩れ落ちたので、驚いてしまった。え、どうしたの?ここは喜ぶかと思ったのに。人の心とは、本当にわからないものだな。
「ローザ・・・君、反則すぎる・・・私は今、どこにいるんだ?絶望の淵にいたと思ったんだが、ふっと天国に連れて来られて、でもやっぱり地上に強く叩き落とされたみたいな・・・でも、君という天使も一緒に落ちてきてくれて──」
「・・・は?仰ってる意味はよくわかりませんが──、でもまあ、レオンが大袈裟なのは今に始まったことではないわね!さあ、そろそろお部屋に行きましょうよ?もうずいぶん長いこと外におりますから。走ったら喉も乾いてしまったし、お茶にしましょうね」
すぐに追いついてきて、また私たちのやり取りの一部始終を見ていたリヒターがすぐそばで大爆笑しているなか、私たちはレオンの部屋へと移動したのだった。
最後までお読みくださりどうもありがとうございます!
ローザは天然小悪魔系です。
明日も18時にアップ予定です。




