第144話 絶対に死んじゃだめよ!
翌朝には、エリスの誘拐犯である国際犯罪組織のアジトが割り出された。レオンの言った通り、この国の捜査官たちって本当に優秀なんだな・・・。
アジトがわかるとすぐに、レオンたちは出発することになった。私はやっぱりとても心配だったけど、泣き言ばかり言ってレオンを困らせたらいけないと思って、「やっぱり行かないで」という言葉を必死に堪えた。
でもレオンに「いってらっしゃいのキスをして」と頼まれて、キスしてあげたときにはまた涙が溢れてしまって、すっかりレオンを困らせてしまったけど──。
それにしても、自分という人間がこうまで弱いやつだとは思わなかった。もちろんレオンの圧倒的な強さはよくわかってるし、今まで刺客に襲われても、本当にかすり傷ひとつ負ったことがないのも知っている。
でも、やっぱり怖いものは怖いのだ。レオンが危険な場所に行くとわかっていてそこに送り出すなんて、本当に辛くて苦しくて堪らない。万が一にもレオンに何かあれば、私は本当に生きていけないだろう。レオンは自分の命よりも大切な人だから──。
朝からまた王宮に来てくれているリリアナとマリーは、レオンを送り出してすっかり元気をなくしちゃってる私を慰めてくれる。でも、今は自分が落ち込んでる場合じゃない。誘拐されたエリスは本当に不安で怖くて心細いはずだ。レオンやリヒターが助けに行ってくれるなら、どれだけ心強いか。
「ローザ、さっき殿下やリヒターも言ってたけど、そんなに心配しなくていいはずよ?だって考えてもご覧なさいよ!いくら次期聖女の奪還のためとはいえ、王命でこの国の王太子に潜入させるくらいなんだから、陛下にも絶対大丈夫だっていう自信があるってことだって!」
きっと、リリアナの言う通りだ。そうじゃなかったら、あの国王陛下がそんなことをレオンに任せるはずない。でも──
「わかってる。だけど、正直このまま何もせずにここで待ってるだけっていうのはできそうにないわ。まったくの無駄かもしれないけど、自分でもこの件についてちょっと調べてみようと思うの!」
「それでローザの気が紛れるなら、いいんじゃない?私たちも手伝うわよ。どうせ私たちも、いまは他になにも手がつきそうにないしね」
「もちろん、お手伝いいたしますわ!お兄様ももうすぐ来ると思いますし!」
「みんな、本当にありがとう!」
というわけで、私たちはその国際犯罪組織というものを調べ出した。国王陛下はレオンを行かせたことで私がすごく心配してるのをご存知なので、知りたい情報があれば何でも教えてくださるということだった。そのため私たちは、捜査班が集めた貴重な情報を全て見せていただくことができたわけだ。
「想像以上に有名な犯罪組織なのね・・・これまでにもさまざまな犯罪を行っていたようだけど、何かしらの思想や信念があるというよりは、完全にお金目的のようだわね。つまりエリスを誘拐して、どこかの国にでも高値で売るつもりなんだわ!」
次期聖女などとんでもない値がつくのは間違いないが、つまるところ「人身売買」である。如何なる理由があろうと決して許されるものではないし、他の人とは違う特別な力を持っているだけでこんなことに巻き込まれたエリスは、本当に可哀想だ。
「この組織、爆弾テロまでしてるのか。金のためなら何でもやる、本当に危険な集団だな」
爆弾テロ──そのときふと、ある過去の記事が目に留まる。
「──ねえ、これちょっと見て」
「ん、どうしたの?」
「前にこの組織のアジトが他国で発見されたとき、直後に爆発が起きたそうよ。そのせいでそこにいた犯人たちは全員死亡し、捜査官たちは軽い怪我を負っただけだったけど、ほかの犯人逮捕に繋がる情報は全て失われてしまった。そのせいで、世界中に散らばる彼らの仲間たちに繋がる情報は得られずじまいになったと──」
「国際犯罪組織だもの、世界中に支部やアジトがあるんでしょうね。で、どこかがバレたらそこを消滅させて、ほかの支部まで捜査の手が伸びるのを阻止するんだわ!」
「だとしたら、今回だって同じことをするんじゃ──」
「同じことって、つまり──アジトを爆発させるってこと!?」
「そうよ!だとしたら・・・たとえレオンがどんなに強くっても、爆発なんかに巻き込まれたら、ただでは済まないわ!!」
「でも、この情報は捜査班が集めた情報なのよ?きっと殿下たちだってご存知だわ。その上で潜入されるんだから、その辺の対策もしてるんじゃ・・・」
「そうだとしても・・・私、不安だわ!──アジトって、トリーアのはずれにあるのよね?ここからそんな遠くないし、馬車で向かえば2時間で行けるわよね!?」
「はあ!?まさかローザ、アジトに乗り込む気じゃないでしょうね!?」
「乗り込むんじゃなくて、こっそり爆弾を探し出して、それを解除しちゃうのよ!」
「何を馬鹿なこと言ってるのよ!そんなの無理に決まってるでしょ!?」
・・・まあ、そりゃあそうですよね。でも、このままただここで待ってるなんて、私にはできない!!
「なら少なくとも、お城の近くまでだけ行っちゃダメかな!?」
「ダメに決まってるでしょ!!・・・って言ったところで、ローザはどうせもう行く気満々なんでしょ・・・」
おお、さすがリリアナ。よくご存知で!
「まあ、だろうな。だったらむしろ、俺たちもついていかないとな?知っててローザ嬢一人で行かせたなんてことがあとで殿下に知れたら、それこそ殺されそうだ」
「わたくしはそもそも大賛成ですわ!こういうの、一度やってみたかったんですの!」
「おいマリー、遊びに行くんじゃないんだぞ!?」
「お兄様ったら、失礼ですわね!!わたくしがそんな薄情者に見えますか!?」
相も変わらずの兄妹喧嘩に、思わず笑ってしまう。
「──よかった!やっと私たちのローザが笑ったわね!そうよ、ローザには笑顔が一番!それにしたって殿下からほんの少し離れただけでこんなに元気がなくなって、近くに行けることになっただけでこんなにすぐ元気を取り戻すのに、よくまあ今まで恋心を自覚してなかったものよね!?」
「リリアナ!?」
みんなに大笑いされるが、自分でも不思議なほど気分が軽くなり、一緒に笑ってしまうのだった。
そんなわけで、私たちはトリーアにやってきた。ちなみに国王陛下に本当のことを言うと止められそうだなと思ったので、気分転換に友人たちの家に行くと言って王宮を出て、キースリング公爵邸の馬車を借りてきたわけです。
なお、クルト王子とレーナ王女、そしてあとで王宮にいらっしゃったカイル殿下にはお留守番をお願いし、もしなにか新たな情報が入ったら連絡を入れていただくことになった。
「トリーアに来るのって久しぶりだわ!王都ほどじゃないけど、大きくて綺麗な街よね。で、アジトがあるのは、ここからさらに少し行ったとこの古城らしいわ。・・・ほら、あれじゃない?ちょっと先だけど、そこに見えてる──。殿下たちは古城への潜入後、エリスが捕まってるところを割り出したら、あとは彼女を助け出して脱出するのよね。早ければ、もうすぐ出てらっしゃるんじゃない?」
「・・・だといいけど、やっぱり不安だわ」
馬車は少しずつ古城のほうに近づくが、外から見る分には到底それが犯罪組織のアジトには見えない。あの中にレオンやリヒターがいて、エリスを探しているなんて、到底信じられない──。
そんなことを考えつつその古城を見つめていると、古城の最上部あたりに閃光が走った。それからドンッと重い音が響く──。
心臓がドクンとなる。まさか、爆発!?
「レオン──!!」
「あれは、爆弾ではないな。なにかの魔法だろう。あんな派手な魔法が使える人間はそうそういないから、たぶん殿下がなんかしたんじゃないかな。敵を攻撃したのか、あるいは閉じ込められたエリス嬢を助け出すために魔法を使う必要があったか・・・いずれにせよ、今ので潜入がバレたのは間違いないだろうが」
「そんな!どうしよう、レオンが!!」
「おっと、ここまでだな。これ以上は馬車では近づけない。この辺までなら観光客も多いが、これ以上近づくと危険だよ。城の外にもやつらの仲間がいるかも知れないし──あとは殿下たちを信じて待つしかない」
そんな──!目の前でレオンが危険な目に合ってるかも知れないのに!!
また閃光が走る。先ほどよりもさらに強い光だ。私はたまらず、止まっている馬車から飛び出した。
「ローザ!?」
他のみんなも慌てて馬車を飛び出し、私を引き止める。
「離してっ!レオンを助けに行かないと!」
「何言ってるのよ!?貴方が行ったって、何にもならないでしょ!?」
「でもっ!レオンに万一のことがあったら、私っ──!!」
と、その時、古城から人が逃げ出してくる。
「もうダメだっ──逃げろ!!」
逃げろ・・・?はっ!もしや、城を爆発させる気じゃ──!?
「レオン・・・レオン!!!!!」
だめっ!レオン、絶対に死んじゃだめよ!!
その瞬間、胸元のエメラルドのブローチがぱあっと光った。
「・・・ローザ!?」
目の前にはレオンとその足もとに転がる見知らぬ一人の男、エリスを抱き抱えるリヒターと、一緒に潜入していたらしい二人の騎士がきょとんとした表情で立っていた。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます!
レオンは最強チート王太子なので、まったく心配はいらないんですけどね笑
明日も18時にアップ予定です。




