第110話 そんなに下手ですか・・・?
いよいよ今日から本格的に立ち稽古が開始となった!私はひとまず台本を丸暗記し、そうして全てのセリフを自分のものにした。そう──これによって、私は演じるのではなく、この物語のなかのヒロインである「ローザ」になりきるのだ!
幸い、私のセリフは大半がレオンに対して発される。そのため、対レオンの演技は完璧だ!ほかの役に対しては若干まだ棒読み感が出てしまうけど・・・まあ、たぶん何とかなるでしょ!!
──と、思っていたのだが・・・。
「あのローザ?演出担当として、少しよろしいかしら・・・?ちょっとふたりきりでお話を──」
私の憧れの悪役令嬢役兼演出担当のマリーが、なにやら言いづらそうな様子で私に話しかける。・・・うん、まあ──なんとなくご要件は察しておりますよ。
「まず誤解のないように、これだけは言わせてくださいね?ローザ、貴方の恋するヒロインとしての演技は、どんな大女優にも負けないほど、完璧ですわ!!正直申し上げて、ローザとレオンハルト殿下のシーンは、どのシーンも美しい絵画、最高の芸術作品といっても過言ではありません!!」
「あ・・・ありがとう?」
「そのうえで・・・どうかお気を悪くなさらないでお聞きになってね?」
「・・・」
「それ以外の場面のローザの演技は・・・お遊戯会以下ですわ」
おおう・・・なかなかはっきりと仰ってくださいますね?
「正直、どうしたらあんなにお下手に演じられるのか、理解できないほどですの。もちろんわたくしたちは演劇部員ではございませんから、演技力云々でなにも言わないつもりでした。
ですがローザ、貴方には素晴らしいポテンシャルがあるのです!殿下とのシーンであんな素晴らしい演技ができるのに、どうしてほかのシーンではそれができないのです!?ローザの性格上、手を抜いているわけでもないでしょうから、理由がわからず、困惑しておりますの!
そして何より問題なのは、シーンごとで演技力が大きく違いすぎるせいで、その差が極端に際立ってしまうことですわ!」
なんてこった。やっと秘策を思いついたと思ったのに!!
「ローザ、貴方自身にはなにか心当たりはございませんこと!?これを解決しないと、演出担当としては気になって気になって・・・!」
・・・ううむ、心当たりはあるというか、ありまくりですよ?原因もはっきりわかってますもん。でもそれを説明するわけには──。
「・・・ローザ、その表情は貴方、心当たりあるのですね?」
おっとマリー、君はエスパーかい?
「ローザ、貴方は本当に隠し事も秘密も下手ですわね。・・・ああ、そうだわ!はじめから気づくべきでした!ローザに演技力があるはず、なかったのですわ!!だとしたら──
・・・わかりました、そういうことでしたのね。ローザ、貴方、殿下の前では、演技をしていないということですわね!?」
──!!
「どうしてそれを・・・」
「ふふふっ!とっても簡単な推理でしたわ!でも、そうだとしたらつまり──」
急に、マリーの表情がぱあああっと輝く。
「きゃあああっ!!つまりそういうことですわね!?ローザ、貴方、ただ本心をレオンハルト殿下にっ──!!」
私は急いでマリーの口を手で塞いだ。
「マリー!!それ以上はダメ!!」
「ムーッムーッ!!ぷはっ!大丈夫ですわっ !わたくしこの秘密、絶対に漏らしませんことよ!?だってこれ、推しの尊すぎる場面を舞台上で見放題という最高の機会ですもの!」
恐ろしいほどにっこりと笑うマリーの表情は、久々にザ・悪役令嬢に見えた──。
しかし、まさかこうもあっさりマリーに見破られるとは・・・。私の出演シーンはレオンとのシーンが大半だからこの戦法で何とか乗り切れると思っていたが、やはり厳しかったか。
それに、マリーにこうも簡単にバレたなら、このまま下手な演技を続けていれば、いずれレオン本人にも気づかれてしまうに違いない!どうにかしてこの件を解決しないと──。
「ローザ、ご安心なさって!」
「へっ!?」
「わたくし、理由がわからないから困惑していただけですの。ですが、こうして理由がわかったわけですから、後は演出家の手腕が求められるところですわね!
ということでローザ、はっきり申し上げて貴方の演技力は皆無に等しいですので──今後は演技を完全にやめることを本舞台の演出担当として要求します」
はっ?・・・演技を──完全にやめる?
「それはつまり、レオンに対してと同じように、相手に本気で言えってこと!?で・・・でも、それは無理よ!?だって、レオンはそのままの役だけど、ほかのみんなは全然違うじゃない!」
「もちろん、そんな高度な技をローザに求めるのは酷だと思いますわ。ですから、ただ貴方は、今から私の言う通りにしてください。
まず、レオンハルト殿下とのシーンは今のまま、ローザの自然な姿で挑んでいただければ完璧です!
そしてほかの人とのシーンでは──微笑みだけ浮かべて、丸暗記したセリフをただ読み上げるように言ってくださいませ!演技は全くせずに!!」
「へっ・・・?それで、いいの?」
「ええ!というより、下手に演技されるとローザの演技力のなさが露見して、逆に目立つのですわ!でしたら、ただ微笑みながら淡々と言うだけのほうが、はるかにマシなのです!
それに貴方の笑顔は人を癒す力がありますから、なんとなくローザの笑顔を見てるだけで、みんな良いもの見た気になれるんです。演技力のなさは、そこでカバーできるはず!」
いや、無茶苦茶だな。・・・っていうかマリーよ、私の笑顔をそんな過大評価されても困るのですが?
「と、いうわけですので!ローザ、貴方は金・輪・際、演技禁止です!わかりましたわね!?」
ものすごい気迫で元悪役令嬢のマリーに迫られ、その演技指導の正当性についてはまだ半信半疑ではあったものの、私はそれを承諾するほかなかった。
さて、その休憩後の稽古で、マリーの演出家としての能力の正しさは証明されることとなった。
私はただ本当にマリーに言われた通り、レオン以外の人との場面では愛想笑いを浮かべつつ、記憶したセリフを淡々と読み上げるように言った。そしてレオンとの場面では、ここぞとばかりにレオンへの想いをセリフにのせ、愛を伝えたわけだ。すると・・・
「ローザ!どうしちゃったの!?休憩中に、いったいどんな悟りを開いたのよ!?貴方の演技、見違えるほど良くなってたじゃない!!
休憩前の立ち稽古では正直、なんでレオンハルト殿下とのシーン以外、ローザの演技はこんな仕上がりなんだろうって本気で困惑してたんだけど──やればできるんじゃない!!まあもちろん、殿下とのシーンの完成度とは比べ物にならないけど・・・それでも十分、及第点だわ!」
「あははは・・・実はマリーがコツを教えてくれてね──」
「へえ!マリー、お前、やるじゃないか!無駄に小さいころから劇ばっかり見てたわけじゃないんだな?」
「失礼ですわ、お兄様!わたくしの手にかかればこんなの、容易いことですわ!ゲシヒテの演出担当を舐めないでくださいませ!」
なんと!マリー以外なにも言わないからみんな気づいてなかったのかと思いきや、しっかり気づいてたんですね。──っていうか、そんなに酷かったですか、私の演技・・・。
しょんぼりする私を見て、なんとなく私の気持ちを察したレオンが、となりで嬉しそうに笑う。
「いいんだよ、ローザはそのままで。それに──おかげで、また少し自惚れられそうだ。まあ、また勘違いかもしれないけどね」
よくわからないことを言いながら、しかし妙に上機嫌なレオンは、私のこめかみにちゅっとキスするのだった。
なお、演技上の問題があったのはどうやら私だけで、レオン、カイル殿下、クルト王子、マリーはとにかく演技がすごく上手いし、オスカー様とリリアナもなかなかのものだ。もともとここが演劇部だったといっても、みんな信じちゃうんじゃないだろうか?
というわけで、私の演技問題が解決した今、我らがゲシヒテは素晴らしい演劇集団と化していた。学園祭まで残り2か月ほど。こうなったら、誰もが唸るような最高の舞台を作り上げられそうです!!
それにしても──ふわっとした感じであつまったこのメンバーが、いまや同じ目標に向かって燃えているのだ!これを青春と言わずになんと言う!?
なんだか青春群像劇のような様相を呈してきたなあと不思議な感慨深さを感じながら、みんなと一緒に正門向かって歩いていると、突如として私たちの前に、謎の白いもふもふが現れたのだった──。
最後までお読みくださり、どうもありがとうございます!
マリーは名演出家のようです。
明日も18時にアップ予定です。




