第1話 どうやら私、悪役令嬢みたいです!
大好きな異世界転生モノに、これまた大好きな悪役令嬢(?)で完全なるラブコメを書いてみたくなりました!拙い文章ではありますが最後まで楽しく書いていきますので、お気軽にお読みいただけると嬉しいです。
「レオンハルト様!どうやら私、悪役令嬢みたいです!」
私が満面の笑みを浮かべながらそういうと、目の前の眉目秀麗な王太子殿下は呆気にとられた顔をする。
「へっ?悪役・・・なんだって?」
「悪役令嬢ですわ、レオンハルト様!ええと、どう説明したらいいかしら?そう、そうだわ!私のこの髪型、なんと呼ばれているかご存知ですか!?」
「髪型?うーん、なんだろう、くるくるヘアー?」
「違います、縦ロールです!悪役令嬢は、だいたいこのヘアースタイルですのよ!」
私は自信満々に言う。
「へえ。それで?その縦ロールがどうしたの?」
「私にぴったりでしょう?」
「ああ。とてもよく似合っている。かわいいよ」
「もうっ!そうではなくて、なんだかこれ悪役っぽくないですか?このヘアースタイルは、悪役令嬢の典型的なヘアースタイルなんです!」
「ほお?だが、その縦ロールは貴族令嬢に人気のものだろう。君以外にもたくさんその髪型の人はいるじゃないか」
「もちろん、これだけじゃありません!例えば・・・そうだわ、私ってわりとキツめの美人ですよね?」
「はははっ!そうだな、君は間違いなくとびっきりの美人だよ。私の知る限り、最高のね」
「見え透いたお世辞は結構です。でも少なくとも、かわいらしい顔立ちとは程遠いでしょう?ヒロインはだいたいゆるふわ系で、登場人物のなかで一番かわいい子なんです!」
「私には君がどこの誰よりかわいいが・・・」
「レオンハルト様!かわいいって言うのは、うさぎみたいな女の子のことを言うんですよ?私は、動物に例えるなら女豹です」
「そんなことはないぞ?私にはかわいらしい仔猫──」
「それに、公爵令嬢という身分もそうですわ!悪役令嬢は公爵令嬢などの上級貴族、一方のヒロインは平民か、よくても下級貴族です。ヒーローはだいたい王族か上級貴族なので、身分の違いが大きな壁となりますが、それが主役2人の恋をいっそう激しく燃え上がらせるのです!」
「ふーん?まあなんにせよ、君が公爵令嬢でよかったよ。現実問題として身分差が大きいと王太子の婚約者にはなれないからね。だが、たとえ君が平民でも私は──」
「あ!それから、王太子殿下の婚約者という立場もです!これがきわめつけですわ!」
「・・・私の婚約者だと、悪役令嬢なのか?」
「だいたいお決まりのパターンですの。幼いときに親同士に決められた婚約で、周囲もいずれ当たり前のように結婚すると思っているふたり・・・」
「待て待て、私たちの婚約は親同士が決めたのではなく私が──」
「そんなときに突然、とーってもかわいい女の子、つまりヒロインが現れるんです!殿下がその子に興味を持つと、私がそれに嫉妬して、その子にいじわるをはじめる!それでそんな私に嫌気がさした殿下が、私に卒業パーティーで婚約破棄を突きつけるんです!これを『断罪イベント』といいます」
「ん?よくわからないが、君が私のために嫉妬するというのは、なんだか楽しそうだな」
にやにやと嬉しそうに笑っているレオンハルト様のことはほっといて、私は昨夜の夢について語りはじめる。
「私、昨日の夜に不思議な夢を見たんです。そのときはっきりと思い出しました!私は前世、異世界にある日本という国で、若くして病死したんです」
「ちょ・・・ちょっと待て。急に話の毛色が変わってきたぞ?」
「前世の私は病弱で、幼い頃から入院してばかりだったから、病室でずっと『乙女ゲーム』と呼ばれるものばかりやっておりまして──」
私はレオンハルト様に乙女ゲームについて詳しく説明する。あわせて、私がこれまた大好きだった「悪役令嬢転生モノ」という小説のジャンルについても──。
「・・・ではつまり、君はこの世界がその乙女ゲームの世界だと?」
「ええ!あるいはそれを舞台にしたラノベの世界です!ただ、こういうキャラの出てくる作品は知らないので、どれなのかはわからないんですけど──でももしここが本当にそういう世界だとしたら、外見や立場的に、私は絶対に悪役令嬢です!それだけは確かですわ!
ええ、そうだわ!そんな世界でもなければ、王太子殿下がこんなに美しい顔立ちで、なんでもできちゃうパーフェクトヒューマンというのは変ですもの!こういうのは、架空の世界だからこそ、あり得ることです!」
「ん?これは私が褒められているのか?」
「ですから、やはり私はきっと悪役令嬢なので、いずれ殿下に婚約破棄を突きつけられることになると思うのです!」
「・・・君がまたおもしろいことを言い出したのは楽しいんだけどね、私に婚約破棄を突きつけられるかもしれないといいながら、君がそんなにこにこ笑顔というのはどうなのかな?私はそれをいったいどんな気持ちで聞けばいいのだ?そもそも、私が君との婚約を破棄することなど、ありえないのに」
「殿下。私たちは幼い頃から一緒に過ごしているせいで、もはや兄妹のようですわね?でも、まもなく学園生活がはじまります!そうして、そこでたくさんのかわいいご令嬢たちに出会えば、殿下も私に対して抱いているような親愛の情とは違う、ときめく恋、燃え上がるような恋に出会えるはずですわ!」
「まったく、人の話を聞かないやつだな・・・」
「そのときこそ、私の出番です!悪役令嬢の私が適度なトラブルを起こすことで、主役おふたりの恋心を燃え上がらせて差し上げますわ!」
「だが、さっきの君の話では、『悪役令嬢転生モノ』の主人公はなんとか悪役の立ち位置や断罪から逃れるために奮闘して、最後はハッピーエンディングを迎えるんだろう?それなのになぜ君は率先して悪役に──」
「そんなの、もったいないです!だって私、前世で悪役令嬢が大好きだったんですもの!わりと美人でちょっと意地悪。だけどその意地の悪さは、ヒーローに対する異常なまでの一途な愛ゆえでもあるんです!でも、彼女の想いは決して報われることはない。なぜなら、彼女は悪役だから!独特なカタルシスを感じさせてくれる生き様ですわ!それをまさか、自分が演じられるなんて──!」
「カタルシスねえ・・・」
私がこれから起こるかもしれない、さまざまなイベントにわくわく胸を膨らませていると、正面に座っていたレオンハルト様が急に立ち上がって、私のすぐ横にやってきた。そして私の黒髪縦ロールをそっと手に取る。
「──ときめく恋に、燃え上がるような恋、か。では、君はまだ知らないんだね」
「あら、そういう殿下だって、ご存知ないでしょう?きっともうじき、そういう恋ができますわ!ご安心くださいねっ!もしそういう恋を殿下がなさったあかつきには、私が悪役令嬢になって助けて差し上げますから!」
私が自信満々にそういうと、彼は首を少し斜めに傾けながら、手に取っている私の縦ロールで少し遊ぶ。
「残念ながら、私はもう知っているんだよ。だから、その悪役令嬢とやらの助けは不要だ」
「何を知っているんですか?」
「ときめく恋、燃え上がるような恋」
「うそばっかり!では、どなたに恋なさっているというのです?」
「君だよ、ローザ」
そう言いながら、彼は手に取った私の縦ロールに優しく口づける。
「もう!そんな冗談を聞きたいわけではないですわ!」
私は彼の手から自分の縦ロールを奪い返す。
「──うん、たしかに君は悪役令嬢の素質があるかもしれないな」
「まあ!本当ですか!?」
「ああ、君はなかなかに酷な人だから」
「そうですか!?ではやっぱり私は──!」
私が満面の笑みで微笑むと、彼はなぜか悲しげに微笑みながら、ぽつりとつぶやいた。
「──本当にひどい人だ」
「えっ?今、なにか仰いました?ちょっと聞き取れなくて・・・」
「なんでもないよ」
そう言いながら、彼は輝くような王太子スマイルで微笑むと、私の頬をそっと撫でる。
そのとっても美しい笑顔を眺めながら、いつかこの優しい人が怒りに燃えて私を断罪する日が来るのを想像すると、思わず笑みがこぼれた。あれっ、私ってどM・・・?
最後までお読みくださりどうもありがとうございます!
自分自身がストレスフリーなラブコメが好きなため、本作はずっとこんなテンションでのーんびりいく予定です。気楽にお付き合いいただけると、とっても嬉しいです(๑>◡<๑)
毎日17時にアップ予定です。
これからどうぞよろしくお願いいたします!