サイダー
愛飲している三ツ矢サイダーが品切れだったので、伊藤園の天然水サイダーを買ってきた。
味が全く同じだった。昔飲んだスプライトも同じ味だったような気がする。
なぜこんなに味が似ているのだろう。違っているのはデザインだけなんじゃないの。
三ツ矢サイダーは、白地に緑の奇怪な模様、中央には商品名が紫の文字でプリントされている。
天然水サイダーは、サイダーをイメージしたであろう青い液体が、缶の上部までプリントされている。
スプライトは…なんだったっけ。思い出せない。
今までメーカーが違えば当然、味も違うだろうと思っていた。
だけど、本当はサイダーはサイダーでしかなかった。
もちろん厳密には完全に同じ味ってことはないんだと思うけど、
目の前で気泡をたたせている液体は、どう味わっても昨日飲んだものと違わない。
「何を一人でぶつぶついってんの?」
三つばかり歳の離れた妹が500mlコーラを片手に話しかけてきた。
「サイダーおいしい」
「コーラのほうがおいしいわよ」
「いや、サイダーのほうがおいしい」
「コカコーラは人類が苦労の末に作り上げた、至高の炭酸飲料なのよ」
「いや、これだけは譲れない。コーラよりもサイダーのほうがおいしい」
妹は深い溜息をつきながら机にコーラを叩きつけた。
「世界のどこでも、炭酸飲料っていったらコーラでしょ、こんなに愛され
ているのなんて、コーラ以外にあると思ってんの?ふざけないでくれる!?」
大げさなジェスチャーを交えて、妹はコーラのすばらしさを説き続ける。
右手に持ったコーラが僕の顔面すれすれで右へ左へ行き交う。危険が危ない。
「たしかにコカコーラはペプシほどに旨い、しかしそれ以外の類似品は軒並み
中国のコピー商品レベルといっていいほどの出来のものばかりだ」
「ちょっと待ちなさい。ペプシよりコカコーラのほうがおいしいわよ!」
「コカコーラとペプシ以外のコーラが微妙な出来だというのは同意するだろう?」
「…それは、同意するわ。でもそれとサイダーのほうがおいしいというのと何の関係があるのかしら」
「どれだけ洗練されているか、ということさ。サイダーはどんな安っぽいメーカーのものでも大した違いはでない、極論かもしれないが一缶50円のようなものでもな、それに対してコーラはどうだ、
ペプシとコカコーラ以外のコーラでお世辞にもおいしいと言えるようなものに出会ったことがあるか」
2分ほどの沈黙が流れただろうか。悔し涙を浮かべながら、妹はコーラの蓋に手をかけた。
瞬間、弾けるように蓋が跳ね上がり、天井をノックした。同時に泡が盛大に机の上を広がっていく。
「う、ひっく、うわぁーん、お゛があ゛ざぁーーーーーん雑巾どこーーーーーーっ」
居間を出ていく妹。ふりむきざまに落とした涙のしずくが、コーラの海に吸い込まれていった。
まるで、はごろもフーズのCMのように綺麗なコーラクラウンをつくって、消えた。
「あんまりメグをいじめるんじゃないぞ、はっはっは」
甲子園中継から一切目を離さずに父親がそういった。
枝豆をつまみにビールを飲んでいた。昼間だぞ、我が父ながらけしからん。サイダーを飲め。
それにしても、
「いやあ、やっぱり」
『「ビールはおいしいな」「サイダーはおいしいな」』
見事なタイミングで重なった。
妹はまだ後始末に追われていた。