第20章 好き
こんな気持ち、知らなかった。
理沙は目を覚ますと、自分の身体が後ろから楓にしっかり抱き締められている状態に、昨夜のあれこれを思い出して、身悶えしそうな程恥ずかしくなった。
嫌いだと思っていた楓と、まさかこんな風になるなんて。
理沙が身じろいだことで目が覚めたのか、楓がギュッと理沙を抱きしめて耳元に甘々ボイスを囁く。
「理沙さん、おはようございます」
振り向いた理沙に甘えたように抱きついてきた楓に、理沙の胸がキュンとなった。
ずるい。カッコよくて可愛くて。
離れられなくなっちゃう、、、。
「おはよう、たけ、、、」
楓がすかさず遮る。
「名前」
昨夜は、昇りつめるたびに何度も呼んだけれど、さすがにこの状態で改めて名前呼びは恥ずかしい。
「か、、、か、、、か、え、、、」
楓は、理沙が断れないような甘い笑顔で頼む。
「名前、呼んで下さい」
理沙は観念したように囁いた。
「、、、楓」
ちょっと掠れた声で、恥じらいながら自分の名前を呼んできた理沙に、楓の理性が朝から飛びそうになる。
「ずるい」
そう言いながら理沙に覆い被さり、キスの雨を降らせる。
理沙はさすがにこのままではいけないと、楓の胸を少し押し返す。
「会社、、、」
その一言で我に帰った楓は、ハアとうなだれてしまった。
「まだ火曜日でしたね」
がっくりきている楓に、理沙は子供みたいと笑ってしまう。
「支度しましょう。一旦家に帰らなきゃいけないでしょう?」
「そうですね」
楓は渋々とベッドから下りた。
「シャワー浴びてきていいわよ」
「一緒にですか?」
真っ赤になった理沙は枕を投げつけて
「バカ」
と言うと頭から布団を被ってしまう。
理沙のあまりに初々しい反応に、楓の方が赤面してしまった。
「可愛い過ぎて反則ですよ」
シャワーを浴びてリビングに行くと、テーブルには、コーヒーと朝ご飯を用意されていた。
トーストにスクランブルエッグとサラダ。カットフルーツにヨーグルトという、まるでホテルみたいな豪華な朝食。
理沙のリラックスした様子から、無理して作ったのではなく、普段通りな事が分かる。
楓も一人暮らしは長いし、家事も一通り出来る。
だからこそ余計に理沙のスキルの高さと、手際の良さが分かった。
「すっごい美味しいです」
「そう?良かった」
美味しそうに食べる楓を見て、理沙の顔も綻ぶ。
こんな風に誰かと一緒に朝ご飯食べた事なんてなかったな。
理沙は、これまで割り切った関係しか持ってこなかったことを実感する。
すっごい新鮮。
まるで、、、。
その続きは、頭の中で思う事さえ恥ずかしい。
会社に行く前に、自分の家に一旦帰る楓を玄関で見送る。
靴を履き終えて、ドアに手をかけながらクルッと振り向いた楓が、当然の事のようにサラリと言った。
「まるで新婚みたいですね」
「バカな事言ってないで、早く帰りなさい」
顔を真っ赤にした理沙を、楓はいつもの飄々とした表情で「はいはい」といなしてから、グッと理沙を引き寄せると、唇にチュッとキスを落とした。
「それでは会社で」
バタンとドアの閉まる音で、理沙は玄関に固まっていた身体をビクッとさせた。
ああ、もう色々なんか反則。
楓が、好き。




