第12章 「お礼」の内訳
これが「お礼」じゃなかったの?
食事を終えると、なぜか楓は自分が誘ったんだからと、さっさと会計を済ませてしまった。
知り合いのオーナーなのだろうか、店を出る時に歳上と思しき男性と、寄り添うように美人な女性が並んで楓に声をかけてきた。
「大切な日に来てくれてありがとな、楓」
「楓ちゃん、頑張ってね!」
夫婦なのだろうか。
息もピッタリに楓をからかっている。
「そう言うのやめて下さいよ。でも今回は急なのにありがとうございます。相変わらず美味しかったですよ」
「そりゃ楓の為とあれば気合いが入るってもんよ」
そう言えば今日はお任せコースだった。
オーナーは理沙に向かって声をかける。
「楽しんで頂けましたか?」
「どれもとっても美味しかったです。ご馳走さまでした」
「お口に合ったようで何よりですよ」
「楓ちゃん、照れ屋さんだから素直に言わないかもしれませんけど、よろしくお願いしますね」
「あ、はい」
理沙は意味を掴めてないまま、勢いで頷いていた。
楓が理沙の背中を押して、急かすように店を出ようとする。
「ご馳走さま。じゃ」
からかわれて恥ずかしかったのか、慌てているようだった。
いつも余裕があってスカした楓のこんな姿は見た事がない。
「『大切な日』って何?」
理沙は先程のオーナーの一言が気になって尋ねる。
「あ、それは、こっちの話で。何でもないですよ。三崎さんは気にしなくていいです」
楓は、しまったという風に顔をしかめ、強い口調で話題を終わりにする。
理沙は、それならと本題に移った。
「ねえ。今回の食事は私からの『お礼』のはずでしょ。あなたに奢られるんじゃ意味ないじゃない」
楓は、少し俯いて躊躇った後、ゆっくり理沙に向き合って、あの夜のように熱っぽい視線で見つめてきた。
「三崎さんにお礼してもらうのはこれからですよ」
そう言うと、理沙の手を引っ張って人気のない路地裏に行くと、グッと理沙を抱き寄せた。
「ちょっとの間だけ。このままでいて下さい」
理沙は急な展開に頭がついていかない。
心臓ががうるさい程ドキドキ鳴っていて、自分のか楓のか判断がつかなかった。
背の高い楓は、理沙をすっぽりと包み込むように抱きしめていて、理沙は自分の腕を背中に回すか躊躇っていた。
どのくらいの間そうしていただろう。
楓は、そっと腕を解いて、少しでも動いたらキスしてしまいそうなほど顔を理沙に近づけて囁く。
「、、、理沙さん」
そのまま理沙にそっと口づけた。
意外にも柔らかい感触。
何度か啄ばむように唇を合わせた後、楓はグッと理沙の後頭部を引き寄せて舌を入れる。
角度を変えては、理沙の全てを味わうように、浅く深く舌を絡めてお互いの唾液を味わった。
もっと、もっと。
理沙は、楓に置いていかれないようにキュッとしがみついて必死にキスに応える。
ひたすらに甘く快楽を誘うキス。
久しぶりの感覚に、理沙の理性が麻痺していく。
理沙の腰に回された手が滑るように下に降りていった。
タイトスカートの縁が少し持ち上げられて、理沙は我に返る。
ドンっ。
理沙は楓を思いきり突き飛ばす。
「、、、なんでこんなこと」
楓は、キスに応えてくれていた理沙がいきなり態度を一変させたので戸惑いを隠せないでいた。
「理沙さん、、、」
理沙は先日見た楓と令美の逢い引きを思い出して、グッと唇を噛みしめて楓を睨む。
「相手がいるくせにこんな事するなんて。最低よ」
理沙はそう言い捨てて、全速力でその場を去った。




