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第11章 約束の日


さっさと終わらせよう。


金曜日、仕事を終えて楓から指定された店に向かいながら、理沙は一歩ごとに憂鬱な気分が高まるのを感じていた。


楓と令美の逢引シーンを見てから、会社では徹底的に楓を避けていたので、実際に面と向かって会うのは撮影日以来だ。


何度も断りの連絡をいれようと思って、メールを作成しては削除するのを繰り返して、結局当日になってしまった。


アイツは、私をからかって楽しんでるだけ。

やっぱり嫌い。


理沙は、楓の事を改めて「嫌い」と認識して、食事中は社交の仮面で通そうと気を引き締める。


楓が指名した店は、こじんまりとしたレストランだった。

都心にあるとは思えない、喧騒とは無縁な空間でホッとする。


前に行ったカフェもだけど、隠れ家風が好きなのかな。


あの夜の事を思い出しそうになって、慌てて思考をストップさせる。

平常心、平常心。


楓は既に先に来ていて、理沙を見るといつもの人懐っこい笑顔で迎えた。


「三崎さん。来てくれて嬉しいです」


「お疲れ様」


対して理沙は、あくまで仕事帰りに、たまたま同僚と食事するという姿勢を崩さない。


「この店、すぐ分かりました?こんな立地じゃお客さんに来てもらえないんじゃないかって助言してたんですけどね。聞く耳もたないから」


「え?知り合いのお店なの?」


「あ、ここ昔からの知り合いがオーナーなんですよ」


ああ、まただ。

楓のペースに巻き込まれていく。


その後は、丁寧な仕事ぶりが分かる料理と、楓の飽きさせない話術で、この日まで散々躊躇ってきたのが嘘みたいに、理沙の肩の力が抜けていった。


理沙のプライドや意地で築いた防壁を、楓は物ともせずに悠々と飛び越えてくる。


悔しくて。

なのに、嬉しくて、、、。


でも、忘れたらいけない。

これが楓なんだ。

私だけが特別なんじゃない。

彼女には、別にもう特別な人がいるんだから。


理沙は、気持ちを鎮めるために、「ちょっと失礼するわね」と言って化粧室に向かった。


鏡の中に映った顔は、アルコールを飲んでもいないのに頬が朱で染まって、眼が潤んでいる。

まるでこの後の何かを期待しているように。


ふう。

深呼吸をして気持ちを整える。


これ以上気持ちが膨らまないよう、しっかりと心を引き締めてから、楓のいるテーブルに向かった。





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