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第10章 誘いと裏切り


「金曜日の夜、空いてますか?」


撮影からさらに10日経ち、プロジェクトはようやくひと段落した。


理沙も久々にゆったりと自席で昼休憩を取っていた所に、楓からのメールが送られてくる。


ついに、「お礼」の催促だ。


あの日、勢いで「何でもいい」と言ってしまってから、楓が一体どんな事をリクエストしてくるのか頭の隅でずっと考えてきた。


理沙は、メールを見ただけで、柄にもなく頰を染め、胸がドキドキするのを感じる。


楓のことは嫌いだったはずなのに。


単に会社の同僚と食事するだけ。

助けてもらったお礼に夕飯を奢るなんて、特別でもなんでもないこと。


そう気持ちを落ち着けて、慎重に返信メールを送る。


「空いています」


返事を待たれていたみたいに、楓からすぐにメールが送られてきた。


「夕飯ご一緒してもらえますか?8時に予約を入れておきます。店の場所は後ほどご連絡します」


丁寧かつちょっと強引な所が楓らしい。

理沙は了解の返信メールを送ってから、何を着て行こうかすでに頭の中であれこれ考える。

まるで初デート前の高校生みたいだ。


これは決してデートなんかじゃないんだから。


必死に自分に言い聞かせて、緩んだ顔を無理矢理引き締める。

こんな乙女チックな自分は知らない。

でも、誰かにリードしてもらうのも悪くない。

もしかしたら、こういうのを待っていたのかもしれない。


午後のミーティングを終えて廊下を歩いていると、奥の方から声が聞こえてきた。

どうやら突き当たりにある小会議室の一室からのようだった。


あの声は。

一人は最近ずっと理沙の頭を占めている楓のものだ。

誰と話しているのか。

何か嫌な予感がして、足を向けてしまった。


小会議室の扉近くに来ると、楓と話しているもう一人の女性の声が聞こえる。


「この間の年上美人と付き合ってるの?」


この声。

前に鉢合わせした。確か令美という名前だった。


「まさか。単に仕事の同僚です」


理沙は、頭をガツンと殴られたような衝撃を受ける。


「そう。まあいいわ。それより楓ちょっと痩せたんじゃない?今度夕飯作りに行ってあげるわよ、、、」


通い妻?半同棲?


とてもこれ以上聞いていられなかった。

理沙は踵を返して足早に立ち去り、最初に目に入った化粧室に飛びこむ。


何てバカなんだろう。

あんな社交辞令みたいな誘いに浮かれてたなんて。


楓にとって私は単なる同僚なんだ。

胸が掻きむしられるほど悔しかった。


いい歳して、私はなんてバカなんだろう。







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