海に沈めたあの日の思い
「あのさ、あたしは君のこと、大好きだったんだよ。」
砂浜で一人の少女がそう呟く。白いワンピースに麦わら帽子をかぶった少女の隣には誰もいない。だんだんと海の方に向かっていく足跡。満月に照らされた彼女の瞳からは一粒の宝石が零れ落ちた。それは海に染みこみ、大地へと還ってゆく。
唐突に優しい風が吹く。その頃には彼女の涙は乾いていた。
「なんで、先に行っちゃったの。あたしを置いていかないでよ。」
風にかきけされた彼女の叫びを聞いた者はいない。だってもう彼女はいないから。彼女はあの日、海に沈んでいった。彼を追いかけるために。