第二話・樹の守護者(2)
遺跡の門をくぐり、ゼフィランサスの案内で中へと進んでいく三人。
その門の先にあったのは――これでもかというほど崩壊して苔むした建造物と、遺跡中を侵食する樹木の姿だった。
自然の驚異が遺跡を襲っているのか、はたまた遺跡を崩壊から守っているのか――。そんな事を彷彿とさせるほどに、共に長い時を刻んできた事が見て取れる。
その様は痛ましいというよりも――、むしろ退廃的な美しさを訪れる者に与えるような――そんな美しささえ感じさせるほどだ。
「何だか神聖な場所だねぇ~。樹がすんごいまとわりついてて、もう幹なんだか根っこなんだかわかんないよ」
「しっかし古くさい建物だなー。冥界の城もだいぶ古いけど、なんか歴史が感じられるってゆーかさ」
「そうだね。お花もたくさん咲いてて、神秘的で、すっごく素敵なところ……」
三人がそんな会話をしながらキョロキョロと歩いていると『……足元にご注意下さいね。崩れた建造物に苔が生えて滑りやすくなっていますから』と、ゼフィランサスはしっかりガイドを務める。
クレーヴェルの村や登ってきたローレル山脈と同様に、桜桃色のクリスタルがそこら中に生えており、風に揺れる花のように優しい輝きを放っていた――。
「ここって、遺跡……ですよね?」
『……ええ。ここはもともと、神々が住む土地だったのです』
ゼフィランサスの返答に「「「ええっ!?」」」と、驚きの声を上げる三人。
目を見開き、口をあんぐりとさせる面々を見て『……遠い昔の話しですよ』と、ゼフィランサス。
『……私やダフネ様がこの世界に生を受けるより遥か昔の事なので、詳しくは存じませんが……。先代の樹の大精霊が残した書物に、そのように記されておりました』
「へぇ~! なるほど、そうやって知識を後世に受け継いでいくのは精霊も同じってわけだねぇ」
『……ええ。私たち樹の精霊は、先代の精霊たちと顔を合わせる事が叶わない種族ですので。こうして書物で歴史を受け継いでいくのです』
「顔を合わせる事が叶わないっつーのは、どういうことなんだ?」
『……それはですね。樹の精霊というのは、大精霊と使える精霊が同時に生を受けて共に過ごした後、同時に生を終えるからなのです。つまり――同じ植物から花咲いて産まれる為、枯れゆく寿命も同じ――という事なのです』
「ええっと……つまり、つまりは……一心同体ってこと?」
頭の中を整理しながら話すフィトに『……簡潔に言えば、そういう事ですね』と、丸眼鏡をくいっと持ち上げながらゼフィランサスは答える。
『……精霊は属性によって、産まれ方が全く異なるのです。その生の長さも、種族によって大分違いがあります』
「そうなんですね!? 精霊さんのこと知れるの、すっごく嬉しいなぁ!」
『……そう言ってもらえると私も嬉しいです。仲間以外の方とお話しするのは本当に久方ぶりなので』
ほわほわとフィトとゼフィランサスが笑い合っていると――。
点在する遺跡の奥に、大きな建造物の入り口が見えてきた。その建物を指さして『……ここが祭壇の入り口です』と、ゼフィランサスは一行に告げる。
祭壇の入り口に入ろうとした時――四人の頭上から、はらはらと色とりどりの花びらが降り注いだ――。
「花びら……?」
「歓迎されてるってこと、かなぁ?」
「わぁ~っ! きれい~っ!」
三人が呑気に感想を述べていると――。遺跡に入る前と同じように、何者かの声が辺りに響き渡った――。
『……お洋服に咲いている花の名前はなーんだっ?』
その声を聞いた途端、三人はポカンとその場に立ち尽くす。
急に何を問われたのか、わけが分からないという顔で「どゆこと?」と、首を傾げるリオン。
さっぱり状況が読めない面々に対し『……はぁ』と、頭を抱えてため息をつくゼフィランサス。困ったように辺りを見渡すと――にっこにっこと裏ピースサインを送る仲間が樹の上に見えた。
久しぶりの来客なのだから、無理もないかもしれませんね……と、丸眼鏡をかけた樹の精霊は、はしゃぐ仲間に対して素早く理解を示す。
ここはひとつ、乗って差し上げましょう――という風に、くすっと微笑んだ。
「これって……もしかして、なぞなぞ?」
閃いたようにそう口にしたフィトに対し『……その通り。これは、植物に関するなぞなぞです。正解したら、この先に進めますよ』と、ゼフィランサスは面白そうに答える。
「それって、正解しないと先に進めないってことかなぁ?」
『……ええ。このなぞなぞは、樹の精霊の仲間が出しているものです。なので、頑張ってなぞなぞを解いて下さいね』
ゼフィランサスの言葉を聞いて「精霊ヒマかよ……」「なんか、土の精霊とおんなじニオイがするよ……」と、呆れた顔をするレオンとリオン。
そんな中――。「えぇーっ!?」と、大きな声を上げるフィト。よほど衝撃的だったのか、黒髪の少女は下を向いてふるふると震えている。
予想外の関門だし、戸惑うのも仕方ないよなぁ……、とレオンとリオンはフィトを見つめる。
「フィト、心配すんなって。正解を答えればいいだけの話しだろ?」
「そうそう! なぞなぞなんて所詮は子どもの遊びでしょ? 簡単に解けちゃうよ!」
そんなふたりの優しい声掛けに対し「なぞなぞ! なぞなぞだってよ!? 楽しそうーっ! ふたりとも、油断は禁物だよ!? なぞなぞって、大人でも解けない超難問があるからねっ!?」と、ノリノリで答えた。
どうやら今回も心配無用だった様子――。楽しすぎる展開に歓喜の声をもらして、興奮のあまり震えていたようだ。
誰よりもはりきるフィトに何とかついて行こうと、レオンとリオンは何かを振り切る思いで「「イエスッ! イエースッ!」」と、遺跡中に響き渡る声で拳をあげるのであった。




