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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第五章・美しき村クレーヴェル
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第三話・キャンドルの夜(9)

 マル婆の話しを聞いて「あの悲劇の、生き残り……?」と、思わず聞き返すフィト。

 ずっと地上で暮らしてきたフィトだが、悲劇を乗り越えてなお、生きている人間と会った事など今までなかったのだ。

 少なくとも、ガルデニアにはそんな長寿(ちょうじゅ)の老人はいなかった。悲劇の時代を生きた人間がいまでも生存している話など、聞いたこともなかったのである。

 そもそも――百三十歳まで生きている人間が、目の前に二人もいる事の方が奇跡に近い。長生きの秘訣(ひけつ)は、やっぱりリンゴかなぁ……? などと、頭の片隅(かたすみ)で少女は思う。



「ああ、そうぢゃ。生き残るというより、死に遅れたと言った方が正しいかのぉ~? アタシらはもう、十分生きたからのぅ」

「なぁにを言っとるか! ワシは、マンサナとアルペンテの分まで生きると決めたんじゃ! あと百年は生きんと、三人分の寿命を謳歌(おうか)出来んわぃ! 死にたいならお前一人でおっ()ねシワババア!」

「このハゲジジイは、また見当違いな事をぬかしよるのぅ~。馬鹿の煩悩(ぼんのう)は、おぉこわいこわい!」



 互いに暴言を吐き捨て合い、火花を散らす老人二人。

 話について行けない三人に「……マンサナさんはメロ爺さまの奥様で、アルペンテは娘さんよ」と、皆に紅茶を出しながらノエルが説明してくれた。

 どうやら今まで、ココナの手伝いをしていたらしい。ピスタが客たちと飲んだくれているので、ココナとおしゃべりをしながら店の事をやっていたのだとか――。



「あの爺さん、奥さんと娘がいたのか……」

「ええ。……二人とも、ずいぶん昔に亡くなっているんだけどね」

「なるほどねぇ。だから、二人の分まで生きる……かぁ」



 シリアスな話の中、ひそかに酒を口にするリオン。

 気付いたレオンに「……って、だからお前は酒を飲むなっての!」と、グラスを取り上げられた弟は「……ちぇ。ケチ兄!」と、口をとがらせた。



「メロお爺さん……きっと寂しくて辛いのに、私たちにも明るくお話ししてくれてたんだね……」

「そうだな……」



 フィトの言葉にレオンが相槌を打つと「なぁ~に、心配するこたぁないわぃ! ワシはいま、心から元気に楽しく生きておるからのぅ!」と、メロ爺はレオンの肩を叩く。



「メロ爺さま、聞いてらっしゃったんですか?」

「ワッハッハ! ワシの特技は、地獄耳じゃからのぉ!」

「それは特技とは言わないよねぇ~」

「あのハゲ頭の中は、空っぽなんぢゃ。仕方あるまいわなぁ」



 息ピッタリに茶々(ちゃちゃ)を入れるリオンとマル婆に「うるさいぞ、たわけ共がッ!」と、メロ爺は怒鳴る。

 それから――フィトとノエルが黙り込んでしまっているのに気付いたメロ爺は「……久しぶりに、あの話をしようかの」と、アップルビールを一杯飲み干して言った。



「で、でも! メロ爺さま、あのお話しは……!」

「ノエル。この者たちには、伝えなければならん気がするんじゃ。モンスターの悲劇が起きてから、今日のような騒動が起きたのは初めてじゃ。騒ぎを起こしたのはワシじゃが……何かタイミングのようなものを感じてならん。不思議なんじゃが、話したい気持ちになったんじゃよ。それに……こうして伝えて、広がって、また繋がるんじゃ」



 メロ爺がそう話すと、ノエルはそれ以上は何も言わなかった。

 マル婆は「……ハゲジジイ。自分の傷をえぐるような事はしなさんなよ」と、犬猿(けんえん)の仲なりにもメロ爺を気遣う様な言葉をかける。

 内容を知らない三人にも、これからメロ爺が話そうとしている事はすぐにわかった。悲劇のことについて、だと――。

 グラシナの悲劇について話を聞いた後、まさかクレーヴェルの悲劇の話を聞くことになろうとは――。フィトはきゅっとスカートを握りしめ、メロ爺の話を聞く覚悟を持った。



「……精霊の番人とやらは、悲劇の事にも詳しいのかの?」

「いや。俺たちは、ちょうど悲劇が終わった後に産まれたんだ。だから、悲劇に関しては少し知識がある程度で、詳しくは知らない」

「そうそう。僕たちは、あの悲劇があったから産まれたんだ。精霊様をお守りするためにね。それに……精霊様も、悲劇の事はあまり思い出したくないみたいでねぇ。精霊様にとっても、よっぽど辛い出来事だったみたいだからさ。……ね、兄さん?」



 自然と話しを合わせて信憑性を持たせる弟に「……あ、ああ」と、レオンは言葉を返す。

 ふたりの話しを聞いて、ふむふむ、と頷くメロ爺。一息つくと、当時の事を思い返すようにゆっくりと話し始めた――。



「……遠い昔。まだワシも若く、髪の毛もフサフサだった頃の話じゃ。ワシの幼い娘が、病に倒れてなぁ。手厚い看病も虚しく、そのまま息を引き取ったんじゃ。その時の悲しみは、胸が張り裂けるようなものじゃった。そりゃぁ辛くて、悲しくて、苦しくてのぅ……。妻もワシも、ショックから立ち直れなかった。……そんな時。このグラスランドから海を渡った西の大陸――ベリーフィールドで、【蘇生魔法――アルティメルト】が産み出されたという噂が、クレーヴェルにも流れてきたのじゃ」



 話を聞いて「それって……」と、思わず口走るリオン。

 メロ爺はそのまま、話しを続ける。



「そうじゃ。それこそが人間の……ワシの、罪じゃ。ワシら人間は過去に、死者を蘇らせるという大罪を犯した。ワシも蘇らせてしまったんじゃ……実の娘をな……」



 メロ爺の話を聞き、目を見開く三人。

 驚くばかりの三人に、メロ爺はありのままを話す――。



「ワシと妻は蘇生魔法の話を聞くやいなや、その魔法を求めてベリーフィールドへと渡った。……人づてに話を聞いてまわり、ついに蘇生魔法を生み出した張本人である、()()と呼ばれる者に会うことが叶ったのじゃよ」



 メロ爺の話を聞いて「魔女……」と、小さくつぶやくフィト。

 実際に魔女と関りを持った人に会えるなんて……と、少女は驚愕(きょうがく)していたのだ。



「魔女に蘇生魔法を使ってもらい、ワシと妻は娘を蘇らせる事が出来た。……しかし、ここから先は知っての通りじゃ。娘を含め、生き返った者たちがモンスターと化して、次々に村の者たちに襲い掛かった。作物は荒らされ、村は崩壊状態、ワシの妻も……命を落とした。暴れまわる我が娘を止めようと、ワシが向かって行った時――。妻は……マンサナは、モンスターになったアルペンテがワシを目掛けて繰り出した攻撃を、代わりに受け止めたんじゃ……」



 辛いであろう話を、淡々と語るメロ爺。

 気付けば――兄弟の目の前に座っているフィトの瞳から、ぽろぽろと透明な(しずく)がこぼれ落ちていた。



「ワシは一人、生き延びてしまった。家族を失い、生きる希望を失い……。来る日も来る日も、泣いていたよ。いっそ後追いしようか考えた日もあった。……ワシは許されたくて、罰を望んで生きてきた。……それでも、消せない罪は痛むだけでなぁ……。だがな、ある日のことじゃった。いつものように泣き疲れて眠ってしまったワシの前に、妻と娘が現れたんじゃ――。夢なのか、幻なのか……もしくは本当に()いに来てくれたのか。その中で、二人が言ったんじゃ。……パパ、ごめんね。……あなた、生きて。……と――。それから、ワシは決めた。祈りを捧げながら、いつも明るく生きてゆく事を決めたんじゃ。この村を復興へと導き、娘が大好きだと言ってくれたワシの果樹園のリンゴを、もう一度この地に芽吹かせようと。そのリンゴを、娘のように愛でて育てようと。妻のぶんも長生きして、ワシらの罪を(つぐな)っていこう、と……」



 悲しみをこらえながら、懸命に過去を伝えるメロ爺の話に聞き入る兄弟。

 モンスターの悲劇について詳しい事を知らないレオンとリオンは、モンスターの存在は人間にとって脅威(きょうい)で、憎むべき存在なのだと思っていたのだ。だから自分たちは先ほど見当違いな憎しみを買い、吊し上げされていた――と。

 だが、どうやらそれは違ったようだ。人間は、モンスターを憎んでなどいなかった。レオンとリオンは、ガルデニアの降臨祭で聞いたフィトの言葉を思い出す――。



 ――人間の罪は消せないけど……皆、許されたいんだと思うんだ。自分たちの身勝手で、死んじゃった人をまた殺した事になるから。

 その悲しみと苦しみを忘れないように、あんな事が二度と起きないように、祈りと願いを込めて。死んじゃった人たちに寄り添う気持ちも込めて――。



 モンスターは、元は人間なのだ。メロ爺は、モンスターに対して恨みや憎しみではなく、罪の意識を感じていたのだ。

 メロ爺が喧嘩を売るような剣幕(けんまく)で自分たちに突っかかって来たのは、ただ虚勢(きょせい)を張っていただけなのだろう。本当は脅威から村を守ろうと必死だっただけなのだと、レオンは理解した。

 メロ爺の話を聞いて、レオンとリオンも胸が痛んだ。様々な気持ちが込み上げて来て、目の奥が熱くなる。


 初めて悲劇を経験した人の話を聞いて、フィトは心臓をわしづかみにされたかのような苦しさを感じた。

 辛いと言葉にするのは簡単だが、その気持ちは計り知れるものではない。きゅっと胸を押さえ、フィトは唇を噛みしめる。

 全てを話し終えると「モンスターの事は、片時も忘れた事はない。決して、忘れはせんよ……」と、メロ爺は妻と我が子を思うように、そっと瞳を閉じた。

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