表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第五章・美しき村クレーヴェル
81/130

第三話・キャンドルの夜(6)

 マル婆に背中を押され、再び席に座ったレオンとリオン。

 兄弟を心配したフィトは「ふたりとも、戻ってくれてよかったぁ……」と、ホッとした表情を見せた。



「ワシはまだ、貴様らの事を信用した訳じゃないんじゃ! その見た目がモンスターである、何よりの証拠じゃろうて!」



 相変わらずピリピリとした態度で、兄弟に()み付いてくるメロ爺。

 そんな爺さんに対し「まだ言うかねぇ、このジジイは……」と、呆れ事をつぶやくリオン。

 ふたりをサングリアに(とどま)まらせた張本人――マル婆は、頭を抱えながらメロ爺を睨んだ。



「……まったく。このハゲジジイはなんだってこう、頭が足りんのかのぅ~。髪の毛だけじゃなく、脳ミソまで足りなくなった脳足(のうた)りんじゃわぃ!」

「ななななん、なんじゃと!? マル婆、オマエはさっきからどっちの味方なんじゃ!?」

「はんッ。アンタの見方なんて、生涯するこたぁないよ! 自惚れなさんなハゲジジイ!」



 そう言って悪態(あくたい)をつくと、マル婆はメロ爺に向かって「んべ!」と舌を出す。

 血が頭に上り詰め、テカった頭まで真っ赤になるメロ爺。そろそろ、耳から蒸気(じょうき)が出てきそうな勢いだ。



「アンタ、その髪脳足(かみのうた)りん頭で、もっとよ~く考えたらどうぢゃ? この子たちのどこがモンスターなんぢゃ?」

「そ、それは何度も言っておろう!? あの見た目が……!」

「寝ぼけた事を言うのも大概(たいがい)にせい! アタシらが見たモンスターは、もっと毛むくじゃらで、巨大で、恐ろしい見た目だったはずぢゃろうが! 言葉も発せなくなった、感情の伺えない殺戮生物(さつりくせいぶつ)……それが、モンスターじゃ!」



 説得力のあるマル婆の物言いに、返す言葉をなくすメロ爺。

 それでも納得が出来ない頑固な爺さんは「た、たわけがっ!」と、歯ぎしりをしてそっぽを向いた。

 その時――。何も言わず、事の次第を見ていたウォールの父親が、カウンターから出て来て言葉を投げかける。



「……メロ爺さんよぉ。もう、いいんじゃねぇか? マル婆さんとウチの息子の言う通りだと思うぜ」



 おたまを片手に、腕組みをしながら話すウォールの父親。

 メロ爺に言い押され、口ごもって下を向いていたウォールは、父の突然の言葉にはっと顔を上げた。



「こいつらが本当に凶悪なモンスターだってんなら、今頃は皆生きてねぇと思うしな。……それに、俺は息子の言うことを信じるぜ」



 父親の力強い言葉に「とーちゃん……!」と、ウォールは嬉しそうに顔をほころばせる。

 笑顔になるウォールに、父はニカッと笑って見せた。

 まわりで聞いていた客たちも「確かに……」「言われてみりゃ、そうだよな……」と、頷き出す。

 その顔からは、先ほどまでの(おび)えた様子はなくなっていた。

 メロ爺はまわりの声を聞くうちに、少し考えて冷静になったようだ。強く握った拳を、そっと振りほどいた。



「……ううむ。……ワシは、早とちりしたのかもしれん。確かに……こやつらの見た目は奇怪(きっかい)ではあるが、モンスターとは似ても似つかない存在じゃ……」



 メロ爺の言葉を聞いて「だから言ったじゃん!」と、ウォールは鼻高々として威張(いば)って見せる。

 追撃するように「ほっほ! ようやっと、このハゲ石頭は納得したようぢゃの!」と、マル婆はニンマリ勝ち誇ったような顔をした。

 マル婆の言葉に耳を貸したくないメロ爺は「黙れシワババア!」と、売り言葉に買い言葉をし、老人コンビはまたも火花を散らし始める。



「ウォールくん。ふたりのこと、信じてくれてありがとう……!」



 ぺこりとお礼を言うフィトに、照れながらも嬉しそうに「あったりまえ! だってオレたち、友達だかんなっ!」と、ウォールは親指を立てた。




 ***




 少し落ち着いた空気の中――。

 マル婆は「……では、話を戻そうかのぅ」と、レオンとリオンに向き直った。



「念のために聞くのぢゃが……あんちゃんたちは、モンスターではないんぢゃろう?」

「ああ。俺たちは、モンスターじゃない」



 レオンの言葉を聞き「そうかぃ……」と、目を伏せて一息つくマル婆。

 そして――兄弟の方をまっすぐに見ると、申し訳なさそうに老婆は口を開いた。



「……やはり、こちらが勝手に思い違いをしていたんぢゃな。無礼(ぶれい)をしたこと、許しておくれのぅ」

「いやいや、お婆さんは悪くないよねぇ? 先に喧嘩をふっかけてきたのは、あの爺さんだし?」



 心底恨みを込め、リオンはメロ爺をジト目で見てやる。

 その場の全員から視線を浴び、メロ爺は「ぐぬぅ……分かった、ワシが悪かった! 分かったから、そんなに見つめるでない!」と、気まずそうにそっぽを向いた。

 本当に反省しているのか怪しい爺さんの物言いに、リオンはすかさず「……見つめてるんじゃなくて、睨んでるんだっての」と、ボソッと嫌味を吐き出す。



「先ほど、ウォールが言った妙な話ぢゃが……あれは本当なのかのぅ? 精霊の番人なぞ、にわかには信じがたいのぢゃが……」



 マル婆がそう言うと「ホントだよ! だって、フィトねーちゃんが教えてくれたもん!」と、ウォールはまたも興奮して話に割って入る。



「こら! まーたあんたは、余計な口を挟むんじゃないの!」

「だって、かーちゃん! ホントのことなんだからさぁ!」

「ほっほ! いいんぢゃ、いいんぢゃ。大勢の大人を前にして、正しいと思った自分の意見をしっかり言えるのは、立派なことぢゃ! 将来有望ぢゃないか~のぅ!?」



 褒められて「へへへ!」と、喜ぶウォール。

 ウォールの突拍子もない精霊の番人設定は、やはりフィトが作った話だったのか……と、兄弟は心の中で納得した。

 そんなメルヘンチックな乙女思考を口にするのは、言うまでもなく、フィトしかいないだろうが。


 フィトというのは、このお嬢ちゃんの事ぢゃな……と、マル婆はフィトの目をじっと見つめる。

 そして――。ふいに、マル婆は「……お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは、確か人間と言っていたかの」と、少女に質問の矛先(ほこさき)を変えた。



「ふへっ!? あ、はい! 私は人間のフィト、十六歳ですっ! 元気ですっ!」



 急に話を振られて、思わずいきなり自己紹介をかますフィト。

 それを聞いて、サングリアの店内がどっと笑いに包まれた。

 緊迫していたはずの店内が、これを機に明るい雰囲気に変わる――。



「あの、えっと……私、何かおかしなこと言ったかなぁ……?」

「フィトってば……! その返しはいくら何でも、予想の斜め上を行き過ぎてるよぉ~!」

「はははっ! おまけに、元気ときたもんな! 悪い、あまりに面白くてさ……!」



 店が笑いに溢れる中、マル婆は笑みを浮かべながらも冷静に三人の様子を観察していた。

 そして、意味深に何度か頷くと「……ウォールとピスタの言う通り、この子たちは嘘はついていないようぢゃの」と、ウォール親子を眼鏡越しに見て微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ