第三話・キャンドルの夜(4)
「ええい黙らんかッ! その証拠とやらを今から見せてやるわぃ!」
メロ爺はそう言うと、三人が座るテーブルの前に仁王立ちした。
そして「……ここまで言っても名乗り出んのか」と、三人の事を一瞥する。
「さぁ、そのフードを取ってみぃ。その頭に何が付いとるのか、しかとこの場にいる人間に見せつけたらどうじゃ!?」
そう言ってビシィ! と、腹巻から出したリンゴの木枝を三人に突き付けるメロ爺。
兄弟は同時にため息をつき、言われた通り被っていたフードを取って見せた。
ふたりについた動物の耳があらわになった瞬間――。
サングリアの店内に、客たちのどよめきが沸き起こった。
店の客たちは「嘘だろ!? アレ、本物なのか!?」「でも、モンスターはもっと恐ろしい見た目だって聞いたぞ!?」などと、様々な事を話し出す。
勝手な事を言われても、兄弟は黙っていた。
しかし。客たちはついに「あの子は? あの女の子は、獣耳が生えてねーぞ?」「まるっきり、人間の見た目をしたモンスターもいるのか!?」などと、フィトの事を囁き出す。
すると――。その声を潰すように、レオンは喉の奥から圧のある言葉を発した。
「……この子は人間だ。俺たちと一緒にするんじゃねぇよ」
レオンの迫力に、騒がしかった店内はたちまち静まり返る。
しんとなる客たちを見て「……出るぞ」と、レオンはリオンに声をかけて席を立つ。
リオンは何か言いたそうだったが、不服ながらも兄の言葉に同意を示すように黙って立ち上がる。
誤解を解こうともせず、黙って去ろうとするふたりの姿を見て、本当にこのままでいいの――? と、フィトはやるせない気持ちになった。
フィトは何もしないまま、和解する事を諦めたくはなかったのだ。
それに――人間の勘違いでふたりが追い出されることが、何より納得出来なかった。そんなのは、理不尽極まりない。
フィトは振り絞るような声で、この場にいる全員に訴えかける。
「どうして……? レオンもリオンも何も悪いことしてないのに、どうして追い出されなきゃいけないの……? そんなの、おかしいよっ!」
その場にいる全員の視線が、瞬く間に黒髪の少女に集中する。
思いもしなかった少女の抗議で、呆気に取られているメロ爺。
しかし――。フィトの言動に一番驚いているのは他でもない、レオンとリオンだろう。
相手に言葉をぶつけることが出来るのは、自分が傷つくことを覚悟しているから出来る事――。
フィトは自分が傷つく事よりも、レオンとリオンが濡れ衣を着せられることを黙って見ている事が嫌だったのだ。拒絶される事の悲しみや痛みを、フィトは誰よりも分かっている。
大事にしたいからこそ、言わない優しさ。
大事にしたいからこそ、伝える優しさ。
ふたつの気持ちは、どちらも間違ってなどいない。
フィトの思いを聞いたレオンの中に、ぶつかっても話し合う事が正しかったのか――? という、迷いが産まれる。
しかし――。その思いを掻き消すように「あやつらは間違いなくモンスターじゃ! ワシの勘は外れはせん!」と、メロ爺の厳しい言葉が飛んできた。
「……お嬢ちゃん。やはり、お前さんもモンスターなんじゃろう? どうにも、この犬耳男たちとお嬢ちゃんは、お互いをかばい合っているように見える」
メロ爺がそう発した途端――。
今まで黙って兄の意向に従っていた、リオンの堪忍袋の緒はブチ切れた。
「……だからさぁ、違うって言ってんだろ? 大体、この子のどこがモンスターなわけ? 同族の見分けもつかないなんて、頭悪すぎもいいとこだよねぇ?」
メロ爺に向かって、リオンは煮えくり返った怒りをぶちまける。
リオンの挑発するようなセリフに「たわけがッ! 証拠もないだろうに、信じられるか!」と、メロ爺は怒鳴り返す。
「馬鹿言えよ! 証拠なんかそっちにもないだろ!? これ以上、この子を傷付けるような事を言ってみろ。お前の喉元引きちぎって……」
リオンが牙を剥いて言おうとした言葉を「リオン、やめとけ」と、レオンが制止する。
怒りが収まらない弟は「でもさぁ……!」と不満をぶつけるも、レオンは黙って首を振った。
リオンの物騒な発言を聞いて、途端にざわつくサングリアの店内。
それを聞いたメロ爺は、当然のごとく兄弟を責め立てて追い打ちをかける。
「そら見た事か! 獲物を狙う様な殺気と目つき! 恐ろしい脅し文句! 貴様らやはりモンスターで間違いないんじゃろうて! いよいよ、頭角を現しおったわぃ!」
リオンが「このジジイ……!」と舌打ちをした後――。
静かに怒りを込めながら、レオンは吐き捨てるようなセリフを発した。
「……爺さん、これで満足か? 俺たち見せモンじゃねーからさ。これ以上用がないなら、もう失礼するぜ」
レオンはそう言うと、弟の肩を叩いてこの場を去ろうとする。
話すこともせずに分かり合うことを諦めるのは、確かに悔しい。だが、無闇に発言してこれ以上の混乱を招きたくはなかった。
それに――これ以上、フィトに嫌な思いはさせたくない。
リオンも仕方なく、ため息をつきながら兄について歩き出す。
フィトが悲しそうな顔で「ふたりとも、待って……!」と、兄弟を引き留めた時――。
店を出ようとする兄弟の前に、年老いた者が再び立ちはだかった。




