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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第五章・美しき村クレーヴェル
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第二話・フィヨルドの村(5)

「……さてさて。じゃあ、気を取り直して、お宿のご案内をしようかしら。ピノノワール・ファームのまわりに、高床式の赤い壁のコテージがたくさん並んでいたでしょう? 実は、あれがお宿になっているのよ」



 ノエルの話を聞いて「あれ、泊まれるところだったのか!」と、レオンは興味深そうに頷いた。

 可愛らしい花柄のカップにコーヒーを注ぎながら、ノエルは三人に説明を続ける。



「あの赤い壁のコテージはね、ロルブーっていう宿泊施設なの。もともとは漁師小屋だった建物をリメイクして、宿として使っていてね。だから、住居に必要な設備は一通り整っているのよ。とっても素敵な雰囲気だから、三人で一軒レンタルはどうかしら?」



 ノエルの提案に、三人は顔を見合わせる。

 またこのパターンかぁ……と、レオンとリオンは悩まし気に後頭部をさすり、フィトの出方を伺う。

 しかし。当のフィトは「漁師さんの赤い可愛いおうち! いいなぁ~……! メルヘンで素敵!」と、乙女回路をキラキラと回し始めた。

 フィトはあのコテージがかなり気に入ったのだろう。ロルブーの妄想を膨らませ、わくわくと目を輝かせている。



「……それにね。クレーヴェルには、ロルブーしか宿泊施設がなくてね。小さい村だし、村人のほとんどは農家や漁師を営んでいるの。……選択肢がなくて申し訳ないけれど、いいかしら?」



 ノエルの話に「それなら仕方ないよね」と、フィト。

 少女の言葉にレオンとリオンも頷き、三人でロルブーに泊まることに決めた。



「んで、そのロルブーってのは、三人で一泊いくらになるんだ?」

「三人で一泊、十セントよ」



 代金を聞いた三人は顔を見合わせて頷くと、フィトが代表して「じゃあ、三人でロルブーに一泊、お願いします!」と、ノエルに告げた。



「はい、承りました! 誘導のような予約をさせてしまって、ごめんなさいね。でも、ロルブーは本当に素敵なお宿だから、絶対気に入ってくれると思うわ」

「ロルブー、楽しみだなぁ! 初めて泊まるから、めっちゃ興味!」

「私も! すっごく楽しみだねっ!」



 ハフハフと興奮するリオンとフィト。二人は子供のようにウキウキとはしゃいでいる。

 そんな二人を見て、レオンも楽しそうに笑って見せた。



「ウフフ。そう言って頂けて光栄よ。夕食は、村の中にレストランが何件かあるから、気に入った所を見つけたらいいわ。クレーヴェルは美味しい果物もそうだけど、漁業が盛んだからね。魚料理はオススメよ。あとクレーヴェルの自慢は、やっぱり景色よね。夜になると全然違った雰囲気になるから、ぜひ美しいクレーヴェルの村を楽しんで行ってね」



 ノエルはそう話すと「はい。ピノノワール・ファームの自家製豆で造ったコーヒーよ」と、三人に淹れたてのコーヒーを振る舞ってくれた。



「わぁ! ありがとうございます! コーヒーっていつもいい香りだなぁって思っていたの!」

「あら、そうなのね。お口に合えば嬉しいわ」



 フィトとノエルがのほほんと会話をする中。リオンは目の前に出されたコーヒーをじっと見つめ、ごくりと(つば)を飲み込んだ。

 そんなリオンの事を分かっている兄レオンは、弟の方をチラリと見てボソッと「……お前、大丈夫か? 確かコーヒー苦手だったよな?」と、声をかける。

 そんな兄の心配を無視して、リオンはヘラヘラと笑って誤魔化そうと口を開く。こんな時でも、フィトにカッコ悪い所は見せたくないのだろう。



「ん~! とってもいい香りだねぇ! 美味しそう!」

「ね! こんなにいい香りがするから、きっとすっごくおいしいんだよね!」



 リオンのやせ我慢に気付かないフィトは、ご満悦に熱々のコーヒーを見つめてうっとりと匂いに酔いしれている。

 弟の頑張りをこのまま見守ろうと、レオンは黙っている事にしたようだ。コーヒーカップを持ち「それじゃ、頂くよ」と、カップに口を付けた。



「リオン! 私たちも頂こっ!」

「う、うん! そうだね!」



 フィトにそう声をかけられ、リオンは未だ心の準備が出来ていないながらも笑顔で返事をした。

 可愛いフィトから、一緒に飲もう! と言わんばかりの視線をニコニコと向けられ、リオンは腹をくくる。



「「いっただっきまーす!」」



 声を合わせてコーヒーを口にした、フィトとリオン。

 ――しかし次の瞬間。ピノノワール・ファームに「にっがーい!」という声が二つ響き渡り、悲惨(ひさん)な事態が起きるのであった。




 ***




「なにこれぇ~!? すっごく苦いよぉ~……!」

「うう……やっぱり、コーヒーは無理だぁ……」



 コーヒーの苦さに絶叫したフィトとリオンは、涙目で感想を口にした。

 口に残る苦々しい味に、いつまでも二人は「うえぇ~……」と、手足をばたつかせている。



「あらあら、ごめんなさいね。コーヒー、苦いものね」

「おいしく飲めなくて、ごめんなさいぃ……でも私、これはちょっとニガテかも……にがぁい……」

「ウフフ。気にしないで。コーヒーは苦手な人も多いからね。大人になっても飲めない人もいるもの」



 リオンはいつも避けてきた嫌いな味に、撃沈(げきちん)しているようだ。今になって「飲むんじゃなかったかなぁ……」と、後悔している。

 レオンはそんな弟を見て、普段は嫌な事は絶対しないのに、フィトが絡むとコイツもこんなに変わるんだなぁ……などと、(くる)しむ弟を見て冷静に思うのであった。



「コーヒー美味かったよ。ごちそうさま」

「レオン君の方はコーヒー、大丈夫なのね」

「ああ。そんなに頻繁(ひんぱん)に飲まないけどな。俺はブラックでも飲めるよ」



 レオンの言葉に「ブラック……?」と、首を傾げるフィト。

 コーヒーを(たしな)まないフィトには、コーヒーの種類はおろか、コーヒーに関する知識もないようだ。

 それを聞いたノエルは「ブラックっていうのはね、砂糖やミルクを入れないで飲むコーヒーのことよ」と、教えてくれた。



「お砂糖入れれば、私も飲めるかなぁ……?」

「フィト、無理はしない方がいいぞ?」



 レオンの忠告(ちゅうこく)を聞くも、この黒髪少女は頂いたものを残すなんて事はしたくないと思っているようで。

 目の前に用意されていた、ガラスの入れ物に詰められた角砂糖とミルクに手を伸ばした。

 コーヒーに角砂糖とミルクを入れると、フィトは甘くしたコーヒーを口に含む。


 ――しかし。「やっぱりにがぁーい!」と、再びピノノワール・ファームに少女の絶叫がこだまするのであった。




 ***




 コーヒーを色んな意味で味わった三人は、ノエルの案内で今夜泊まるロルブーへと向かっていた。

 太陽が沈みかけ、外はすっかりオレンジ色に染まっている。夕日に照らされたクレーヴェルの村とフィヨルドが、一行を優しく包み込む。

 コーヒーの苦みからすっかり立ち直ったリオンは、ルンルン気分で「夕暮れのクレーヴェルも綺麗だねぇ~!」と、楽しそうに話しをする。



「今日は天気が良くて本当によかったわ。こうして晴れている日が一番景色が綺麗に見えるからね。それに、天気がいい日じゃないと湖に山が映らないのよ」



 ノエルはそう話しながら「……ここが三人で泊まれるロルブーよ」と、数ある中のコテージの一軒を指さす。



「このロルブーの赤い壁はね、潮風による腐食(ふしょく)を防ぐためにタラの血を塗ったのが始まりなの。リメイクする時に、赤いペンキで綺麗に色を付けているんだけどね。漁師小屋を改造して造った宿泊小屋は、ざっと三十件くらいはあるかしら」



 ノエルは手に持っていた鍵で扉を開け「どうぞ」と、三人をロルブーの中に通してくれた。

 木目の壁と床に、手作りの食卓テーブルや座卓。天井から取り付けられている照明はランプを使用せず、ロウソクが四本立てられている。

 チェック柄のソファに、ノルディック柄の絨毯(じゅうたん)。木目造りの簡易的なキッチンに、別室の寝室とお風呂。

 ロルブーの中は、本当に家のような造りになっていた。



「外の造りも可愛かったけど、中も可愛いね~! それに、すっごく住みやすそうなおうち!」

「これは落ち着けるねぇ! 住み心地良すぎだよ~!」

「いい雰囲気だなー。窓から海と山も見えるし、景色も最高だな!」



 初めてのロルブーに興奮する三人。

 そんな面々を見ると、ノエルは笑顔を浮かべて「……はい、ここの鍵よ。クレーヴェルは治安(ちあん)はいいけど、戸締りはしっかりして出掛けてね」と、レオンに鍵を手渡した。



「お支払いは前払いなんだけど、このロルブーでいいかしら?」

「はい! とーっても気に入りました! ふたりとも、いいよねっ?」



 フィトの問いかけに「もちろん!」と頷くレオンとリオン。

 三人の返事を聞いたノエルは「ありがとう。そしたら、一泊十セントだから、銀貨なら一枚、銅貨なら十枚ね」と、料金を再度説明する。

 懐からがまぐちを出そうとするレオンを制止し、リオンがすっと銀貨を一枚ノエルに差し出した。



「ここは僕が! 出すよ!」

「お? いいのか?」

「兄さんはさっき出してくれたでしょ! 今度は僕が!」



 リオンはそう話すと、ずいっとノエルの手に銀貨を握らせた。

 またもやお金を出させてしまったと感じるフィト。悪いよ……という言葉が口から出そうになるも、先ほどのフリーダーの言葉を思い出したようだ。

 かなり申し訳なさそうにしているのは変わらないが「ありがとう、リオン」と、ぺこりとしてお礼を述べた。

 少し考えた少女は「そしたら、夜ゴハンは私にお支払いさせてね」と、笑顔で兄弟に提案する。


 フィトの気持ちを考えたら、ここは素直に提案を聞き入れるべきだろう。

 そうでもしなければ、フィトの気が済まない上に、拉致のあかない押し問答が繰り広げられそうだ。

 そう思ったレオンは「フィト、気にしなくていいんだよ?」と言うリオンの肩をぽんと叩く。



「フィト、ありがとな。じゃあ、夕飯はフィトにご馳走(ちそう)になるよ」

「うんっ! いっぱい食べていいからねっ!」



 嬉しそうに笑うフィトを見て、リオンも諦めたようだ。

 しかし納得は出来ないようで、ため息交じりに「……兄さん。フィトに出させるって、どういうつもり?」と、兄にそっと耳打ちをした。

 兄の意図が汲み取れなかったリオンに対し、レオンはふっと笑って言う。



「そうでもしないと、フィトが気にしちゃうだろ?」



 それを聞いたリオンは「そうだけどさぁ……」と、やや()に落ちないような表情で言葉を返すのであった。

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