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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第五章・美しき村クレーヴェル
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第二話・フィヨルドの村(3)

 メロ爺にもらったリンゴをかじりながら、三人は赤い家の並ぶ岬を散策していた。

 木造造りの赤い家々は、屋根が灰色や黒、深緑などの色違いで造られており、白い窓枠とドア枠が統一されて取り付けられていた。

 海の上に立つ家々は、満潮時(まんちょうじ)にも耐えられるように高床式(たかゆかしき)になっているようだ。


 湖のように()いだ海には、ローレル山脈の山々が水面に上下反転した形で映り込み、何とも美しい風景を作り出している。

 フィトとリオンは「山が逆さまに映ってる!?」「やばばばばー!」などと、それを見て大騒ぎするのだった。

 三人が景色を楽しみながら歩いていると。シロツメクサの地面から、桜桃色(さくらももいろ)のクリスタルが生えているのがレオンの目に留まる。



「クレーヴェルには、ピンク色のクリスタルが生えてるんだな」

「そうだねぇ~。これって、近くの精霊と精霊石に何か関係があるのかな? グラシナは土の魔力が豊富だったから、土の精霊石と同じ色をした琥珀色(こはくいろ)のクリスタルがたくさん生えてた~みたいな?」

「リオン、鋭いね! きっとそうだよ!」



 フィトに褒められ、リオンは嬉しそうにテレテレと笑顔を浮かべた。照れ隠しなのか、自分のたれ耳をモフモフとさわっている。

 フィトに対しては信じられないくらい純粋なリオン。レオンはそんな弟を見て、こいつってば、ほんと単純な奴だなぁ、と口元を緩ませた。もっとも、人の事を言えた義理ではないのだが。



「……ってことは、精霊の管轄区域ってモンがあるんだろうな。そういや、グラシナ周辺の人間達が、ここは土の精霊様の加護がーとかなんとか言ってたもんなぁ」

「じゃあじゃあ、このピンク色のクリスタルは、樹のパワーが宿ってるってこと!?」

「ああ、そういう事だと思うぜ。この辺は、樹の魔力が豊富なんだろーな」



 フィトとレオンがそんな話をしていると。

 リオンが「ねぇねぇ。ラシーヌさんが言ってた『ピノノワール・ファーム』って、ここのことだよね?」と、ひときわ大きな赤い建物を指さした。

 確かにそこには、白い文字で『ピノノワール・ファーム~レトロ雑貨店~』と記された茶色い看板が立っていた。レオンとフィトも、それを目で見て確認する。



「ここで間違いなさそうだな。ラシーヌさんの話だと、ここにノエルさんって人がいるんだよな?」

「うん、そうだね! ……ここ、雑貨屋さんなんだね!? 私、雑貨屋さん大好きなんだぁ!」



 そう言って、ルンルンと浮足立つフィトを見て「それじゃ、さっそく中に入ろっか!」と、リオンは扉のドアノブに手をかけた。

 鈍い音を立てて扉が開かれると――。ヴィンテージ家具に囲まれた、古き良き雑貨店が三人を迎えてくれた。床にはノルディック柄の絨毯(じゅうたん)が敷かれ、ステンドグラス風のランプがレトロな(たたず)まいで店内を照らしている。

 食器や衣類、置物や時計など、ありとあらゆる物がぎっちりと並べられ、雑貨店と呼ぶより、よろず屋に見えなくもない。中でも一番目を引いたのは、クレーヴェルの果樹園で採れたであろう果物が売られている棚だ。

 これを見ると普通、本当に一体ここは何屋さんなんだろう……? という印象が出てしまうところだが、そんな事を気にしない三人組は物珍しい目つきで店内を見て回る。

 すると、そこに「いらっしゃい」と、可愛らしい印象の金髪の女性が、店を眺める三人を笑顔で迎えてくれた。



「旅の方かしら? 何かお探しで?」

「あの……ノエルさん、ですか?」



 突然名前を呼ばれた女性は、きょとんとして目をぱちくりさせる。

 そもそも、この人がノエルだという保証はどこにもないわけで。見ず知らずの旅行者にいきなり名前を尋ねられて、呆然とするのも無理はないだろう。


 突拍子もないフィトの行動に気が気でない犬耳兄弟。ふたりは何とかフォローしようと口をまごつかせ、うろたえているのだが、どうやら上手い言葉が出てこないようだ。

 口下手なレオンはともかくとして、頭の回転と口の回りが早いはずのリオンも困惑するほどだ。いつもの調子で立ち回りが出来ないのは、初めての土地と初対面の人間を相手にしているからか。

 それに、フィトの突発的過ぎる行動には、どうやらまだまだ思考が追い付かない様子。地上に来て何日かフィトと行動を共にしたからといって、何をするのか読めないこのド天然な少女の奇行(きこう)を予測する事は不可能ともいえよう。


 当人のフィトは、ノエルのぽかんとした表情を見てはっと我に返り「あ! 突然すみません! あんまり素敵なお店だったから、テンションが空回りしちゃって……」と、色白の顔から火が出るくらい頬を赤くして下を向く。

 すると。女性はくすくすと笑いをこぼし、あどけない笑顔で「ええ。私がノエルよ」と返してくれるのだった。



「ノエルさんで間違いないんですね!? ほぁぁ~……よかったぁ。すみません、失礼な聞き方をしてしまって……」

「いえいえ、どうか気になさらないで。……それで、ノエルに何か御用かしら?」



 短い前髪と、毛先がくるんとした肩までのナチュラルで明るい金髪に、青い瞳。他の住民と同じ様な、花柄の赤色を基調(きちょう)とした可愛らしいデザインの衣服。

 クレーヴェルの村人は何人も見かけたが、ノエルはひと際目を引く可愛らしい外見をしていた。さすがはグラシナの美人看板娘・ラシーヌの紹介人というべきか。

 尋ねた女性がノエル本人だったことにホッと肩をなでおろした三人。レオンは一息つくと、思い出したように「グラシナのラシーヌさんの紹介で、ここに来たんだけど……」と、(ふところ)から紹介状を取り出し、ノエルに手渡した。



「あら! あらあらあら! ラシーヌの紹介だったのね! それならそうと早く言ってよね!」



 ノエルは楽しそうに笑うと「確かに受け取ったわ」と、封筒を開けて中の手紙に目を通し始めた。最後まで読み終えると、なるほどね、とニヤニヤしながら金髪の女性は頷く。

 何が(つづ)られているのかは分からないが、犬耳兄弟はその様を見て何か嫌な予感をキャッチしたらしい。

 からかい好きのラシーヌさんの紹介人だ。一見良さそうな人でも、油断は禁物……と、ふたりはノエルをじっと観察する。

 現に、この薄ら笑いが何か企みがある事を物語っていそうなのだ。腹の中では何を思っているのか知れたもんじゃない。(うたぐ)り深い犬耳兄弟は、そんな風に初対面のノエルを警戒しつつ、慎重に関わろうと(きも)(めい)じるのであった。

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