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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第一章・光る世界
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第三話・ガルデニアの降臨祭(1)✿挿絵✿

 ガルデニアに向かう途中――。

 レオンとリオンの兄弟は初めて目にする地上のものに、ひたすら興味を示していた。

 とても楽しそうにあれはこれはと聞いており、子供のようにはしゃいでいる。



「ねえフィト、フィト! すごいね! 太陽ってあんなに明るいんだねぇ。僕、感動したよ!」

 眩しく輝く太陽に負けないくらいキラキラとした顔でリオンは太陽を指差して言った。


「もう、リオンったら。それを言うの、もう三回目だよ?」

 フィトはくすくすと笑っている。


「ああ、ごめんごめん! だけど、これは言わずにはいられないよ! このどこまでも広がる青い空! 美しい緑! 素晴らしい限りだねぇ~!」

「ああ。地上ってのは本当に綺麗だよなぁ。ずっと見ていたいくらいだよ」

「……地上、気に入ってくれた?」

「「もちろん!」」



 フィトの問いかけに、兄弟は即答する。

 それを聞いて、少女は嬉しそうに笑顔を見せた。



「冥界の図書館で地上の本はたくさん読んでいたけれど、実際に見れるなんて大興奮だよねぇ!」

 リオンはスキップをする勢いで嬉しそうに語る。


「へぇ~! 冥界にも図書館があるんだぁ! それに、地上の本も置いてあるなんて!」

「物語から歴史の本まで、かなりの種類が置いてあるんだぜ」

「いいなぁいいなぁ! 一日中本に囲まれて過ごせるんでしょ!? 夢みたい!」

「フィトも本が好きって言ってたもんね」

「うん!」



 レオンとリオンの話を聞いて想像を膨らませるフィト。

 昔から、様々な冥界ネタを聞いては、こうして想像を馳せているようだ。



「私もきっと、冥界で初めていろいろなものを見たら、たくさんびっくりするだろうなぁ~」

「ははは、そうだね! 知らないことを知るのってとてもわくわくするもんね。だから、僕は本を読むのがとても好きなんだ」

「昔は、俺がよく絵本を読んでやったもんな」

「うん、そうだね! 僕の本好きは、兄さんの影響かなぁ?」

「レオンとリオンは、昔から仲が良かったんだねぇ」



 フィトはほっこりしながらそう言った。

 それを聞いた兄弟は照れ隠しなのか、苦笑いを浮かべて親密さを頑なに否定する。



「そうかぁ? 知ってると思うけど、ケンカしてばっかだぜ?」

「そうだよぉ。ま、いつも兄さんの身勝手な行動が原因でケンカしてるんだけどねぇ?」

「どっちが身勝手だよ! お前がいっつもちょっかいを出してくるんだろうが!」



 この弟は、兄を悪者に仕立て上げる気らしい。

 レオンはそんな弟をジロッと睨んだ。

 そんなやりとりから、また兄弟同士の蹴落(けお)とし合いが始まる。

 リオンはヘラヘラ笑いながら両手を上にあげた。



「えぇ~? 兄さん、こないだ僕のお菓子を勝手に食べたよねぇ~? 僕が食べるのを楽しみに取っておいたっていうのに、あれは酷かったなぁ~」

「いつまでもお前が俺の好物を見せびらかすように置いとくからだろ!? 嫌がらせ目的でやってんのミエミエなんだっつの! ありゃ当然の報いだ!」

 


 わざとらしい弟のしおらしさ演出を、ズバッとぶった切るレオン。

 そんな低レベルな争いを、はらはらしながらフィトは見守る。



「うーわっ! 出た出た、開き直り! 人のものに手を出すなんて、最低な獣がすることだよぉ~!」

「んだと!?」

「この前なんて、気持ちよく寝ている僕の尻尾を思い切り踏んだのに、怒ったら逆切れしてさぁ~」

「尻尾を踏んだのはわざとじゃねーだろ! てか、ドアの入り口で酔っぱらって寝こけてたら気付かずに踏むわ!」

「んなっ!? 誰が酔っ払いだよ! 誰が!」

「お前はつい最近、俺が一番楽しみにとっておいたケーキのイチゴに王手を刺したじゃねぇか! あぁいうのを横暴(おうぼう)って言うんだぞ! イチゴ返せ!」

「無理言うなよバーカ! もうイチゴは細胞の一部になってますぅー! てゆーか、兄さんがさっさと食べないのが悪いんだろ! 嫌いなのかと思ったんじゃないか!」



 だんだん口論はエスカレートし、互いに冷静さを失う兄弟。

 牙を剥き出しにするレオンとリオンは、完全に頭に血を登らせている様子。

 そんなふたりを落ち着かせようと、フィトが間に割って入る。



「ほらほら、ふたりとも! 思い出して熱くならないで、ね?」



 パタパタと両手を動かし、喧嘩を止めるフィト。

 その可愛らしい仕草と顔を見て、ふたりはポリポリと頭をかく。

 レオンとリオンはフィトの困った顔を見て、ようやく自制をする。

 やはりフィトに弱い犬耳兄弟なのであった。




 ***




 しばらく草原を歩き、目的地はもう目と鼻の先であった。

 余程楽しみにしていたのだろう。フィトは足早に進んで行く。

 三人の視界には、白で統一された大きな石造りの建物と、鮮やかなワインレッドの屋根が見える。

 まるで絵本や絵画に出てくるような可愛らしい街並み。

 三人は期待に胸を躍らせ、大きな花のアーチを潜り抜けてガルデニアの街に足を踏み入れた。



「とうちゃーく!」

 両手を広げ、フィトはぴょんぴょこ飛び跳ねる。




挿絵(By みてみん)




 そこには『ウェルカム・ガルデニア降臨祭(こうりんさい)』と書かれた看板が掲げられていた。

 フィトの言う通り、街のあちこちに感謝を捧げているという炎が灯されているのが見える。

 金色の炎が静かに揺れる様は、なんとも神秘的だ。



「フィトの言ってた通り、炎がたくさん灯されているな。さっき話を聞いたけど、本当に炎に色がついてるのか……驚いたよ」

 レオンは金色の炎を見据(みす)えその神々しさに、ほう、とため息を漏らした。



「うん。金色の炎は『光』を象徴しているの。間違いなく今日のままみたいだね。よかったぁ」

 フィトは不安が晴れたのか、安堵(あんど)した様子を見せた。



「あ! フィトが冥界で見せてくれた花がたくさん咲いているね! 確か、プルメリアの花って言っていたよね。本当にいろんな色が咲いてるんだねぇ。とっても綺麗だなぁ~……!」

「うん! そうなの! プルメリアの花は、装飾として使われたりもするし、髪飾りなんかも売っているんだよ!」



 フィトは嬉しそうにニコニコと話す。

 本当にプルメリアの花が大好きなようだ。



「それにしても賑やかだな。それに、変わった格好をした人間がたくさんいるぞ」



 レオンは興味深そうにきょろきょろと周りを見渡している。

 自分には、本物の犬耳と竜の尻尾がついている事はどうやら気にもしていないようである。


 ガルデニアで行われる祭りの風習か、もしくは地上の祭りの風習なのか、様々な格好をした人々が街を()り歩いていた。

 奇妙(きみょう)な仮面を被った者、美しい鳥の羽根などをあしらった派手な衣装に身を包んだ者、獣の皮を被った者など十人十色だ。



「フィト。あの人間たちは、どうしてあんなカッコをしているんだ……?」

「僕も思った! 変わった格好をしてるよねぇ」

「あれはね、仮装だよ!」

「「かそう……?」」



 レオンとリオンは首を傾げて聞き返す。

 一体、仮装とは何のことなのかさっぱりわからなかったのだ。



「仮装っていうのはね、仮に他のものの姿をすることなんだよ。お祭りを楽しむためにいろんな衣装を着たり、何かの生き物を装ったりするの! お祭りで、誰が一番素敵な仮装をしているか競う仮装コンテストなんかもあるんだよ。楽しいイベントでね、とっても盛り上がるんだよ!」



 いきいきと話すフィト。

 どうやら、フィトにとっても仮装とやらは普通のことのようだ。



「ほぉー……人間は、変わったことをするんだな……」

「ほんとにねぇ。へーんなの」



 レオンとリオンには、どうしても理解が出来なかった。

 ヘンテコな格好を自ら進んでする文化など聞いたことがないからだ。

 人間という生き物は、なんて摩訶不思議なのだろう、と思うのであった。



「それにね。昔、地上がモンスターに襲われた時があってね」

「ええっ!? そんな事があったの!?」

「うん。もともとは人間が原因で起きたことだから、その(いまし)めとも言われてるんだけどね」



 驚いて目を丸くする兄弟。

 そんな話は冥界にいた時に聞いたこともなかったのだ。

 地上でこんなに大層な事があったというのに、記録も書物も残されていない。

 もとい、自分たちが知らないだけで、どこかで管理されているのかもしれないが。



「そうだったのか……。全然知らなかったよ。でもそんなの、冥界の図書館で目にしたことなかったよな……?」

「そうだよね。僕も初めて知ったよ。……それで、人間はどうしてモンスターに襲われちゃったの?」

「死んだ人を(よみがえ)らせる魔法を使っちゃったんだって。それで、蘇った人がモンスターに変わっちゃったの。禁忌(きんき)に手を出したから、罰が下ったんだって、そう言われているよ」



 俯いたまま、フィトは語る。



「天空の神様であるゼウス様と精霊様が、モンスターを土に還してくれたんだって。人間の罪は消せないけど……皆、許されたいんだと思うんだ。仮装はね、罪滅ぼしでもあるの。自分たちの身勝手で、死んじゃった人をまた殺した事になるから。その悲しみと苦しみを忘れないように、あんな事が二度と起きないように、祈りと願いを込めて。死んじゃった人たちに寄り添う気持ちも込めて。そういう理由で、お祭りで仮装をしているんだよ」



 しんみりとした話に、レオンとリオンは反省した。

 この明るい雰囲気の祭りにそんな意味が込められていたなんて。

 仮装をヘンテコな文化呼ばわりしたことを、心の中でふたりは詫びた。



「暗い話になってごめんね! ほら、楽しもうっ! せっかくのお祭りだもん!」

「うん! せっかく地上に来たんだし、もったいないもんね!」

「よっしゃ! いろいろ見て回るぜっ!」



 三人は気を取り直し、意気揚々とガルデニアの街を歩きまわった。

 レオンとリオンは、様々なものに興味を惹かれているようだ。

 目を輝かせて美味しそうな匂いの食べ物や、面白い小物を売る出店などに目移りしている。


 大通りの路地はたくさんの人々が行き交い、通り抜けるのも一苦労だった。

 空を見上げると、たくさんのカラフルな旗がガルデニアの上空を彩っていた。




 ***




 三人がうきうきと歩いていると――。

 近くを通りかかった貴婦人達の会話が聞こえてきた。

 貴婦人たちは豪華なドレスに身を包んでおり、暑くもない気候の中で優雅(ゆうが)扇子(せんす)(あお)いでいる。



「先程の揺れ、びっくりしましたわね」

「ほんと。せっかく遥々(はるばる)祭りを見に来たって言うのに、台無しですわ」

「でも、この街は土の精霊様の加護を受けているとかで、大事にならずに済んだのですってよ。精霊様に感謝ですわねぇ。おほほほほ!」



 高らかに笑い声を上げる貴婦人たちの話を聞いて、三人は思わず足を止めていた。

 フィトはそれを聞いて、目をぱちくりさせている。



「なぁ、さっき冥界で起きた揺れは、地上でも起きていたってことか?」

「冥界と地上は存在しているのが別次元だけど、何か繋がりがあるってこと……?」



 レオンとリオンが話をしている中――。

 フィトは冥界で聞こえた謎の声のことを思い出していた。



 あの時――。自分に向けてなのかはわからないが、確かに『たすけて』と声は言っていた。

 あの声は、本当に誰の声だったのだろう。

 声の主がどこの誰なのかもわからない。心当たりもないのだ。

 気になって仕方がないのだが聞こえなくなってしまった今、もう知る術はないと思うしかないのだろうか。


 そんな事を考えていると――。

 今度は大通りの向こう側で、酔っぱらいの中年男性二人が馬鹿でかい声で話している会話が聞こえてきた。



「何でも、今日の祭りは中止になるかもしれないって話だぜ。隣町のグラシナで、ここと比べものにならないくらいの大きな地震が起きたらしい。けっこう被害が酷かったってんで、ガルデニアから復興の手伝いに行くんだとよ」

「グラシナも気の毒だなぁ。俺達は、無事を祈る事くらいしか出来ねぇよな……」



 気付けばフィトは、人を掻き分け中年男性たちのもとへ向かっていた。

 この男性達から何か詳しい話が聞けるかもしれない、と思ったのである。

 兄弟はフィトが走り出したのを見て、慌ててその後を追う。



「ねえ、おじさん! 今の話、ほんと!?」

「おぉ? あ、あぁ。なんだ、嬢ちゃん。いきなり話に入ってきたから驚いちまったよ」



 可愛らしい可憐な少女に突然声を掛けられ、中年男性達はやや困惑した様子を見せた。

 しかし、フィトのまっすぐな瞳を見て、快く話をしてくれた。



「いま話していたことは本当だぜ。俺の知り合いの商人が話してたことだがな」

「驚かせてごめんなさい。おじさんたちの話が気になってしまったものだから。おじさん、他に何か知っている事はなーい?」

「そう言われてもなぁ。俺達も聞いた話だから、詳しい事はわからなくてよ。悪ぃな」

「そうですか……」



 有力な情報を得ることが出来ず、漠然とした不安だけが残ってしまう。

 フィトは少し、隣町のグラシナのことが気がかりだった。

 少女が思い悩んでいる事を知らない男性は、祭りということもあってか昼間から酒浸りしているようだ。

 最も、普段からこうなのかも知らないが。


 話し終えると持っていた酒瓶(さかびん)に口をつけ、豪快(ごうかい)(のど)を鳴らした。

 ぷはーっ! と男性が息をつくと、強烈な酒のにおいが辺りに広がる。

 正直、その場にいるのが耐えられないほどの激臭(げきしゅう)だった。

 声を掛けておいて申し訳ないが、早くこの場を去らないと窒息(ちっそく)してしまいそうだ。



「お、おじさん! お話してくれてありがとう!」



 精一杯の笑顔でフィトがお礼を伝える。

 中年男性二人組は酔ったほてりとは別に、ぽーっとした表情で少女を見つめた。

 フィトは男性達が黙ってしまったので、顔が引きつってしまったのかと不安になる。

 すると――。そんな清楚(せいそ)で美しい少女の肩に、いきなり手が置かれた。

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