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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第五章・美しき村クレーヴェル
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第一話・草色の風景(2)

「……それじゃあ、ここでお別れだ。私はここで馬車の整備をしてから、ウマーンを休ませてグラシナへ戻るからね」

「フリーダーさん、お世話になりました! ウマーン、またね!」



 フィトは仲良くなったウマーンにぎゅっと抱き着き、別れの挨拶をした。ウマーンは嬉しそうに身体を揺らし、フィトにすり寄る。

 その様子を見て、フリーダーは優しく微笑む。



「フィトお嬢ちゃん、ウマーンを可愛がってくれてありがとうね。短時間でこんなにウマーンが人に懐くのは、とても珍しいんだ」

「そうなんですね! それは嬉しいなぁっ!」

「君は本当に優しい心の持ち主なんだろうなぁ。ウマーン、可愛いお嬢ちゃんとお友達になれてよかったな」



 フリーダーがそう言うと、ウマーンはブルブルと鼻を鳴らして尻尾を振る。フィトも嬉しそうに「えへへぇ」とにこにこ笑っている。

 動物とお(たわむ)れになるフィトはなんて可愛いんだろう、と兄弟はほっこりとその姿を見つめていた。



「……さて。寝馬車の代金だが、五十セントだよ。銅貨なら五十枚、銀貨だったら五枚だな」



 馬車は初めて乗ったが、その金額はとても安いものではなかった。

 街と村をひとつ経由するのに、結構お金がかかるんだなぁ、と三人は(つば)を呑み込む。

 トロンと違ってフリーダーはぼったくりなどしないだろうから、きっとこれが正当な相場なのだろう。ただし、ラシーヌの紹介料が入っている時点で正当な金額ではないのかもしれないが。



「……お、おう。じゃあここは俺が出しとくよ」



 レオンは懐からがまぐちを取り出し、フリーダーに銀貨を五枚手渡した。

「確かに」と、フリーダーはレオンから代金を受け取る。


「兄さん、やるう~!」とヤジを飛ばすリオンと違い、フィトは申し訳なさそうにソワソワしていた。

 ふたりのお金が使えることが分かったところで、こうも立て続けに支払いをしてもらうのは悪いと思っていたのだ。

 幼い頃から節約を身に着けてお金を大事にしてきたフィトにとって、五十セントは大金だ。そんな大金をひとりで支払わせる訳にはいかないと、少女は焦っていた。



「レオン、そんなに出してもらったら悪いよ。私にも半分お支払いさせて?」

「気にすんなって。俺は稼いでるから大丈夫だよ。それに、普段からあんまりお金を使うこともねーからなぁ。故郷に帰ったら、使いきれないくらい貯金もあるから心配しなくていーぞ」

「でも……」



 そう言われても、金銭に敏感すぎるフィトにはすぐに受け入れられる話ではない。

 男の人にお支払いは任せる! というラシーヌの心得をグラシナで聞かされたのだが、それだけはどうも理解できなかったのだ。

 うーんうーんと困っているフィトに、フリーダーが言葉をかける。



「フィトお嬢ちゃん。ここはレオン君を立てるという意味で、お支払いを任せていいんじゃないか? そりゃね、お金は湧いてくるものじゃないし、汗水たらして働いて得るものだ。だけど、男は見栄を張りたいものなんだよ。自分を大きく見せたい願望が、どこかにあるというわけだ。……特に、特別な女の子の前では、ね」



 にっこりと笑って言うフリーダーの言葉に、顔を赤くしてレオンはそっぽを向く。そこまでストレートに言わなくても……と、気恥ずかしくなったのだろう。

 それを聞いて、う~ん。持ってかれたなぁ~……と、唇を尖らせて地面を蹴るリオン。

 グラシナの支払いでは自分がいいとこどりをしていたのだが、今回に限っては少しばかりズルくなかろうかと思うのだ。


 ……だって、だってさぁ! フリーダーさんの助言とテコ入れがあるなんて、めっちゃポイント上がるじゃないか! 確かに金額が金額かもしれないけどさぁ! 兄さんだけズルいよ! あぁもう! 僕も半分出すよって言っておけば良かった! ……などと、リオンは心の中で叫ぶ。


 今更感もあり、言いたいことも言えずに爪を噛むしかないのが悔しい。目先の損得に惑わされず、もっと計算しておくべきだったと思うのだ。

 故郷の魔界にある、行きつけの店で食事をした時。レオンが「たまには兄貴らしい事しねーとな」と、よく(おご)ってくれていたのだ。慣れとは恐ろしいもので、いまはその、いつもの甘えが出てしまったのだろう。



「もちろん、大切なフィトお嬢ちゃんの事を想って、レオン君は言ってくれているからね。だから、ここはその厚意に甘えてもいいんじゃないかね?」



 優しくフィトを(さと)すフリーダーの言葉に、フィトはゆっくりと頷いた。

 そして「レオン、ありがとう」と、精一杯の気持ちを込めて笑顔でお礼を伝える。

 照れながら「お、おう……」と、レオンは目を細めて言うのだった。そんな様子を見て、フリーダーは楽しそうにうんうん、と頷く。

 グラシナの住人はみんな、おせっかいバカ野郎だ! バーカバーカ! と、リオンは心の中で吠えながら、ジト目でフリーダーを睨むのであった。

 そんなやりとりを終え、三人は改めてフリーダーにお礼を言う。



「フリーダーさん、ありがとうな」

「また僕たちがグラシナに行った時は、挨拶させて下さいねぇ」

「いやいや。そんなにかしこまらないでおくれ。私も楽しい旅に仲間入り出来たようで嬉しかったよ。ありがとうね」

「それじゃあフリーダーさん、お元気で! ウマーン、またねーっ!」



 笑顔で手を振ると、三人はフリーダーとウマーンに背を向け、クレーヴェルへと続く橋へと歩き出す。

「身体に気を付けて、良い旅を!」とフリーダーが言うと、ウマーンも「ヒヒーン!」と別れの挨拶をしてくれた。その元気な鳴き声が、三人の旅を後押ししてくれるのであった。

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